異世界らくえん

curuss

プロローグ――すこしさきのはなし

 独り足音を殺しながら、玄室の入り口まで進む。

 スリルと呼ぶには重すぎなプレッシャーが圧し掛かってくる。……大丈夫。気づかれてないはずだ。

 初見なモンスターだった。一抱えくらいはありそうなウサギ型。それが四匹もいた。

 パーティの方へと振り返り、ハンドサインを送る。

 まず親指を下に向け『モンスターがいる』と。

 それから間違って伝わらないよう、ゆっくり一、二、三、四と指を立てて教える。

 最後に手招き――『静かに進め』だ。


 背後まできた翼が、杖を軽く振って見せてくる。魔法を使うつもりだろう。

 俺と横並びな配置へついた陽平も、兜の面頬を下ろしながら囁く。

「合図をくれ。それで飛び込む」

 そして開口部の反対側へも、まるでスローモーションのような動きで、健太郎が到着した。

 これは別に、ふざけてたりしない。ただ甲冑を着て静かに歩こうとしたら、自然とそうなってしまうだけだ。

「俺が先陣をきろう。相手は四匹だったな?」

 健太郎の囁きへ頷き返しつつ、最後尾な悟の到着を待つ。

 ……よし、準備OK。あとは状況開始だ。


 合図と同時に、健太郎と陽平が玄室へと突撃していく。

 が、モンスターを視認するなり、半ば裏返った声で健太郎が驚愕に叫んだ。

「ウ、ウサギ型!?」

「ゴブリンでもウサギでも、変わらんだろうが! ビビってんのか!」

 呆れた様子の陽平に、なおも健太郎は食い下がる。

「だ、だけど! あいつらは『首を刎ねる』って噂がだな!

 ――発動:挑発!」

「嘘、乙。二人とも、姿勢を低くして!

 ――発動:スリープ!」

 翼の掛け声とともに、ナニカが波動となって前方へと広がっていく。

 同時にウサギ型モンスターはフラフラと――強烈な眠気を堪えるので精一杯となった。……あれは辛い。

 が、それでもスキルに釣られるがまま健太郎へと向かっていく。そして迎え撃つ健太郎も健太郎で――

「『首刎ね』は嫌だ! 『首刎ね』は嫌だ!」

 と繰り返しながらも大盾を構えていた。

 俺も前線へと走り込みつつ、最後尾で警戒中な悟へ目線を送る。

 軽く頷き返された。つまり、他に見落としたモンスターの姿などなし。

 なら俺は、このまま陽平のフォローに入ろう。……過剰攻撃になっても、まず数を減らせ。それがセオリーだ。



 初見な相手で心配はあったものの、健太郎が恐れたような事故?も起きず、割とあっけなく俺達は勝利を得れた。

 そして玄室のお楽しみ、宝箱も出現だ。

「一、二階とはデザイン変わった……かな? 

 ――発動:罠発見! 『弓矢』の罠だな」

「では、私も……。

 ――発動:罠感知! 『弓矢』ですね」

 俺のスキルと悟の白魔法で同じなら、まず確実だろう。

「よし、皆、失敗に備えろ。罠を外すぞ」

 健太郎と陽平が、翼と悟を庇うのを待つ。

「発動:罠解除!」

 が、なにも起きない。

 そして華麗な成功だったというのに、翼は不満げだ。

「いつも思うんだけどさ。罠解除に成功したら、勝手に開くべきじゃない?」

「仕方ねえだろ。ピッキングツールとか使わないで済む分、俺に不満はないな。……本職の『盗賊』だと、また違うのかも知れないし」

「いまいち体得するスキルと、道具のようなスキルの違いが分かりませんね」

 我がパーティの知恵袋たる悟は、考えこんじまった。藪蛇だ。

「まあ、いま考えんでも良かろう。『弓矢』の罠だな? 俺が開けるぞ。一番に硬い」

 そう健太郎が志願してくれたのに、いざ開けてみると勢いよく矢が放たれた。……なぜか天井へ向けて。

「……いまのは罠が解除されていた……のか?」


 まだ不満げな健太郎を宥めつつ、とにかく戦利品の確認を始める。

「――発動:鑑定!

 剣は魔法の武器ですね。……ただ呪われてます。小盾の方は+2中級です! 瓶は魔力回復ポーション。あとは普通の貨幣ですね」

 普通なら呪われた剣とか致命的なトラップだろう。しかし、なぜか高く売れるので、俺達の大きな収入源となっている。

「三階からは、けっこう魔力回復ポーションが出るな。それに+2中級グレードの発掘も増えた……か?」

 なんとか冷静を装えてはいるものの、かなりの収穫だ。

「最前線じゃ、どちらも足りないからな。喜ばれると思うぜ」

 と満足げな陽平へ、ニヤけ返しそうなったのを必死に堪える。まだ笑うな! ダンジョン探索の最中だぞ!

「どうする? まだ魔力はあるよ?」

「私も、あと何回かは回復魔法が使えます」

 後衛の翼と悟からは、頼もしい言葉を貰えたけれど―― 

「馬鹿言ってんじゃねぇ! 帰るに決まってるだろ! 『まだいける』は、『もう帰れ』なんだよ!」

 と撤退を独断で決めてしまう。

 なんといっても生還こそ絶対目標だ。俺は死にたくないし、誰も死なせたくない。

 今日は事故らず、御安全にいけた。それこそが最大の成果だろう。

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