塔と進化
さて、それからどうなったかという話だ。
クロの母親はニセ医者から、王宮医師に引き継がれた。
それによって石化病の苦しみも緩和され、身体の表皮が足先から石になってしまうという進行も遅らせることに成功した。
だが、それでも根本的な解決にはならない。
そのためには――。
「私、塔に登って石化病の薬を取ってきます!」
<応援するぜ!!>
<塔って登録者数が百万人いないと入る許可が下りないんだろ?>
<登録しました。がんばってください>
<登録するだけで助けになるなら、するに決まってるぜ!>
そんなこんなで配信を毎日続けていたら登録者数が百万人を突破していた。
俺が目新しい配信をしたから伸びたというのもあるのだが、それでもクロの才能や努力がなければ無理だっただろう。
配信がなかった世界に生まれ落ちていた十年に一人……いや、百年に一人の才能の持ち主だった。
普通に配信がなくても冒険者としても手腕を発揮しそうだが、逆に考えるとこの才能を活かせなかったバド・バズPTは凄いのかもしれない。
たぶんあそこならどんな才能でも潰していそうだ。
***
「クロ、準備は良いか?」
「はい!」
俺とクロは、塔の前に立っていた。
その苔や蔦に覆われた異質な超巨大構造体は、古の種族が作ったとか、神々が用意した試練だとか様々な伝承が残っている。
このようなものが世界に点在していて、各国が管理をしている。
以前は誰でも入れたのだが、命知らずが無駄死にするのを避けるために登録者数が百万人ないと入れないようにしたという。
そして、百万人を達成したのはクロが初だ。
そのために一緒に入る仲間はいない。
「なぁ、クロ……。パートナーだけは一緒に入れるんだし、Dランク〝クズカメラ〟の俺なんかじゃなくてもっと強いパートナーを選んできた方が……」
「嫌です」
あの何でも言うことを聞いていたクロが、珍しく感情だけで否定してきた。
「ヤマダさんはいつも正しいのかもしれません。でも、私の心が言っているんです。一緒に入ってくれるパートナーはヤマダさんじゃなきゃダメなんです。……ヤマダさんが良いんです!」
「クロ……お前……」
泣けてきてしまう。
前前世でも、一生懸命に何かに打ち込んでいればこんなことを言われていたのだろうか。
前世では配神として存在していたために、こうやって同じような立場の人間がいなかった。
クズカメラだから、涙なんて流せないけど……って、あれ、出てるぞ涙。
そんな機能なかっただろ、なんだこれ。
「ヤマダさん、泣いてます?」
「べ、別に泣いてなんかない! 一緒に行くのはクロ巣ファミリーもだしな!」
<オレたちも応援してるぜ!>
<ヤマダだけじゃ頼りないからな!>
<百万人の伝説を見届ける>
<がんばれえええええ!!>
「ヤマダさん……クロ巣ファミリーの皆さん……ありがとうございます! 今まであなた方がいたから、ここまで来ることができました。さぁ、一歩踏み出しましょう!」
俺とクロは塔の内部へと進んだ。
そこからは端的に言って過酷だった。
人型、獣型、虫型――ありとあらゆるモンスターが襲いかかってくる。
古い記録からある程度の情報は集めていたが、筆舌に尽くしがたいダンジョンだ。
だが、その朧気な情報からひたすらに修行を積み重ねていたのがクロだ。
最初は緊張していたのだが、踊るような剣技はモンスターを斬り刻み、動きの美しさでリスナーを魅了していく。
母親の石化病をいち早く治したいために、百年に一度の才能だけでは届かない分は、人の何十倍もの努力で補った。
ヤマダから見ても恐ろしい程の執念だ。
家族愛、優しさとはこれほどの力となるのだ。
狂気とも言えるレベルだ。
洗練されたダンスのようなステップが響けば、モンスターたちがバラバラに飛び散っていく。
鮮血が飛び散り、若きソードダンサーを彩っていく。
今まで見たことの無い映像に同接は五十万人を超えていた。
登録者数も増加して百十万人だ。
「はぁぁぁッ!!」
モンスター相手に一騎当千するクロ。
俺はただ地べたを這いずり回って、その映像を配信しているだけでいいのだろうか?
クロが光れば光るほど、自分の惨めさの闇が浮かび上がるようだ。
「あぶない、ヤマダさん!!」
「しまっ――」
ダンジョンの床に罠が仕掛けてあって、そこに落とし穴があった。
その奥底は深すぎて、何があるか先が見えない。
俺はそこに落ちてしまっていた。
フワッとした落下感、たぶんこの身体の耐久力では耐えられないだろう。
ああ、また死ぬのか……。
心残りがあるとすれば、クロの戦いを最後まで映せなかったことだろうか。
たぶんリスナーの奴らも文句を言っているに――。
<ヤマダー!!>
<死ぬなヤマダー!!>
<生きろヤマダアアアアアアアアア!!>
おまえら……普段は辛辣なのに……。
でも、さようならだ……。
――と思ったら、俺を抱き締める柔らかい感触が。
「あなたはお母さんと同じくらい大事な人ですから、死なせません……!」
「止めろ、無茶だ!! 一緒に落ちるつもりか!!」
「私がかばえば何とか……!!」
俺を抱き締めながら一緒に落ちるとかバカすぎる。
だが、もう今からではどうしようもないし、底に仕掛けられている針山も見えてきた。
俺みたいな地べたを這い回るだけの〝クズカメラ〟ではなく、翼があって飛べるピクシーなら……。
急に走馬灯のようにアイツ――ピクシーの憎らしい姿を思い出してしまう。
『ざぁこ、ざぁこ。お前のランクよわよわ~!』
……最後に見るのがこれか?
何かムカムカしてきた。
ざこ煽りされるのなら、もっと可愛い子が良いに決まってるだろう!!
こんな煽りで死んでやるものか!!
ランクがなんぼのもんだ!!
「ヤマダさん、何か身体が光って……」
「えっ?」
何か俺の身体から羽が生えてきたんだが?
いや、これは……思い出した。
ランクCの〝トブカメラ〟じゃないか。
ランクDの〝クズカメラ〟と違って、翼で飛べる種族だ。
考えてる場合じゃない、飛ぶ!
「ヤマダさん……すごい……」
「いや、お前の方がすごいだろう」
とツッコミを入れながら、クロの翼となって落とし穴から脱出した。
風を切る感覚が心地良い。
「ヤマダさん言ってたじゃないですか。突発的な事態に対処するのも才能だって」
もしかして俺も……配信によって成長させられていたのかもしれない。
クロを成長させているとか思っていたのはおこがましかったな。
「それにしてもヤマダさん、その翼は?」
「何か生えてきた」
「……普通、パートナー種族はそうならないですよね?」
「ランクが上がるなんて聞いたことがない。いや、待てよ……」
少し心辺りがあった。
転生直後にコンソールコマンドで見えた【進化の秘玉】だ。
いかにもな名前だろう。
それに喋れないはずのクズカメラが喋れるようになってたし、泣きたいと思ったら機能に無いはずの涙まで出てきた。
つまり、望めば進化できるということか……?
よし。
「爆乳お姉さんになりたい」
「……え?」
<ヤマダの頭がおかしくなった>
<いや、誰でもなりたいだろう爆乳お姉さん>
<たしかに>
<オレは貧乳ケモ耳のじゃロリになりたい>
<癖の暴露大会かよ!?>
望みを言えばなれるかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
クロの可愛い困惑顔を得たくらいだ。
撮れ高あざっす。
「何でもない、もうすぐ石化病の薬があるボス部屋だから急ごう」
「あっ、はい」
「ボスの情報は憶えているな?」
「バジリスク……ですよね」
石化の魔獣バジリスク。
モンスターの中でもかなり凶悪な部類だ。
以前の記録から情報はあるのだが、その石化光線でかなりの冒険者が犠牲になったらしい。
石化病と違って即効性のある石化で、しかも固めたら砕いてくるというエグさだ。
石化耐性がないクロだと、食らうと即アウトということだ。
ひたすらに回避するしかない。
反面、他のボスよりも耐久力は低いのが救いだろうか。
「それじゃあ、ライブの始まりだ!」
「ヤマダさん、ライブってなんですか……?」
しまった、まだこちらにはライブの概念がないか……。
「えーっと、何か大きなことをするときに使う言葉だ」
「それなら、これはライブですね!」
「そ、そうだな!」
歌とかダンスとは違うが、まぁノリ的に否定もしにくいし別にいいか。
ボス戦のことを『ライブの始まりだ!』とか、なぜ言ったかとか説明すると恥ずかしいし……。
そんな感じでボス部屋の前に立ち、扉を開けるとそこにはバジリスクがいた。
外見的には八本もの脚を持つトカゲなのだが、サイズがかなり巨大なのでドラゴンに見えなくもない。
トサカのある頭で、こちらを睨んできている。
「いきます! ライブの始まりです!!」
クロは決めゼリフのように叫びながら、バジリスクに対して一直線に向かって距離を詰めようとした。
直後、バジリスクは眼を輝かせて石化光線を放つ。
当たるとアウトだ。
普通ならここでクロの彫像が出来上がるのだが、人間を捨てたような直角の動きで躱した。
「思ってたより石化光線が速いですね!」
「相手は首を振るだけで遠くを狙えるからな。そこの柱の陰に隠れろ」
「はい!」
撮れ高的にはおいしくないが、そうも言ってられない。
遠距離では絶対的に有利な石化光線を避けるために、クロは柱の物陰に移動した。
「ど、どうしましょうか。これじゃあ近づけないです」
「俺に良い考えがある!」
<自信満々に宣言はフラグ>
<さよなら、ヤマダ……>
何かコメントで言われているがスルーだ。
俺の身体は機械だから、石化が効かない。
つまり、俺がバジリスクの石化光線を塞いでしまえばいいのだ。
「羽もあるし楽勝だ……!!」
俺はバジリスクの顔面に張り付こうと飛びながら近付いたのだが――。
「ぎゃいんっ」
バジリスクにはたき落とされてしまった。
<フラグ回収乙>
<今夜がヤマダ>
<羽が生えても結局は貧弱すぎる>
ちょっと万能感があったのに……!
だが、このトブカメラでは力不足なのも確かだ。
もっと大きくて、長い腕があって押さえ込めるような……。
というか、それって人間か。
人間ならさすがにイメージしやすいんだけどなぁ。
「や、ヤマダさん! 身体が再び光って……」
「え?」
いつの間にか俺は人間形態になっていた。
これはAランクの〝ヒトカメラ〟だ。
進化したというのだろうか……?
いや、今はそれどころではない。
光り輝いて目立ってしまったため、バジリスクがこちらをガン見している。
相手が呆然としている今しかチャンスは無い。
「うおおおお!!」
<なんか映像的に人間の腕と脚っぽいのが生えてるー!?>
<ヤマダ視点だからよくわからない>
<バジリスクと取っ組み合いを始めた?>
<たぶんヤバいから股間だけは映すな>
たしかに全裸はまずい。
必死にバジリスクの顔面にキスする勢いで顔を擦り合わせながらそう思った。
<映像きもおおおおおおお!!>
<どアップすぎるだろ!?>
<バジリスクの眼が光り出したぞ>
「この先、点滅に注意だ!!」
放たれる石化光線、俺の顔面で受け止める。
当然、リスナーから見た配信だと――。
<眼があああああああああああああああ>
<眩しすぎる>
<ヤマダアアアアアアアアアアアアア!!>
<オレたちの眼でバジリスクを倒せるなら安いもんさ……>
「今だ、クロ!!」
「はい!!」
バジリスクの石化光線さえ封じてしまえば、あとは主役に任せるだけだ。
「今日もあなたと一緒に剣の舞踊る、黒き翼のクロ・クロウリィです!」
<何も見えない>
<すげぇグロい音だけ聞こえる>
<何か赤いのが端に見える>
<刮目できねぇ……>
しばらくしたあと、俺が必死に抱きついている頭部以外がみじん切りになった、バジリスクだったモノだけが残っていた。
――――――
あとがき
面白い!
続きが気になる……。
作者がんばれー。
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