天気のご機嫌調節サブスク

ちびまるフォイ

盲目のサブスク会員

「パパ、旅行たのしみだね!」

「あなた。安全運転ね」


「もちろんさ。それに道もちゃんと調べてる。

 旅行先で事故ることなんてしないよ」


家から車を走らせて数時間。

テーマパークには予定通りたどり着いた。

たどり着きこそしたが……。


「あなた……。すごい雨と風よ……もう入りましょう」

「パパ。寒いよ~~……」


「こんな……こんなはずでは……」


前もって買った「優先入場チケット」も。

「遊びまくりごきげんフリーパス」も今では紙くず。


必死に車を走らせた結果に待っていたのは、

つまらなそうにフードコートのレンチン飯を食べる家族だった。


「なんのために苦労と金をかけてここまで来たんだ……」


その後、早々に家へ引き返した。

スマホをなんとなく見ていると広告が入ってくる。

その広告に目が奪われた。


「これ、まさに今の俺のことじゃないか!」


広告には大事な旅行が悪天候でつぶれた人の嘆きを訴えていた。

そして、それを解消する方法も合わせて紹介されている。


「天気を指定できるサブスクだって!?」


そんなの入るしかない。

サブスクなんか勝手に入ったら怒られるのでもちろん秘密。


1週間後、家族で予定していた海へ行くことに。


「あなた、やっぱり今回はやめておく?」


「どうして? 子供はあんなに楽しそうにしてるじゃないか」


「天気予報では雨の予報よ? 前みたくなったら……」


「そうはならないさ」


すでにサブスクで「晴れ」を予約しているのだから。

それを言いそうになったがぐっとこらえた。


心配そうにする妻も、晴れやかな海をみたら気も晴れるだろう。

ますます車のスピードを上げる。


「さあ、到着だ!!」


海の近くの駐車場に車をとめる。

お天気サブスクで周辺一体の天気は「晴れ」にしている。

美しい水平線が見られるだろう。

ドアを開けた。


「ちょっと!? 雨が入り込んでくるわ! ドアしめて!」


「え、あれぇ!?」


めっちゃ雨だった。

サブスクアプリで予約を確かめてみるが、「晴れ」予約に間違いない。

うそっぱちだったのか?


「パパ。海は~~?」


「ちょ、ちょっとまってね。お、おかしいなぁ……」


車から外を見ると、一部だけ晴れている一帯がある。

予約している晴れエリアはあっちだったか、と車を移動。


晴れエリアに到着するや、先に居座っていた人が怒ってやってきた。


「おい! なに勝手にうちのエリアに入ってるんだ!」


「はあ? エリア?」


「この晴れエリアは私が予約したんだぞ!」


「晴れを予約したのはこっちだって同じです、ほら!」


「お前のエリアはあっちの雨エリアだろ!」


「え? でも晴れてないんだから……。

 こっち入れてくれたって良いじゃないですか!」


「だったらお前もダイヤモンドVIP会員になれ!

 金も払ってないのに、晴れだけ受け取ろうとすんな!!」


まるで譲ってくれなかった。

車の外で言い争いになったのはまだよかった。

サブスクはバレていない。


ただひとつわかったことがある。

自分以外にもサブスク会員が多くいるという厳しい現実。


自分が「晴れ」を予約しても、別の人が「雨」を予約する。

優先されるのは会員ランクが高い方。


ダイヤモンドVIP会員が「雨」を予約したなら、

一般ピーポー会員である自分の「晴れ」予約はふっとぶ。

課金 is パワーなのだ。


「パパ、海は……」


「また今度にしようか……」


「あっち晴れてるよ?」


「あっちは入れてもらえなかった……」


楽しみにしていた子供は泣き出してしまった。

泣いた子供をあやす妻の目は、敵意むき出しでこちらを見る。


「……わかったよ、ちょっと待っててくれ!」


車を出てサブスクを開く。

会員情報の画面からグレードを上げる。

課金金額なんてしったことか。


「プレミアム・ハイパー・ブリリアントVIP会員」へとランクアップ。


その瞬間、衛星軌道上の「お天気衛星」がビームを放つ。

雨雲が消滅して晴れやかな太陽の光がそそぐ。


車に戻るとわかりやすくご機嫌の子供。


「パパ! 晴れたよ! 海いける!?」

「ああもちろん!」


これには妻もにっこり。

きっと後で思い返される大事な思い出になるだろう。


自分が会員グレードを大幅アップしたことも忘れた数日後。


子供が寝静まったリビングで妻が待っていた。

すでに嫌な予感がする。


「話があるの」


「な……なに……」


「この請求書は?」


「それは……その……」


「なんでこんな高額なサブスクなんか入ってるの!?

 それに解約は少なくとも1ヶ月後じゃない!!」


「これはお天気のサブスクなんだよ。

 旅行先で天候不良だったら嫌だろう!?」


「私は相談もなく家族の金をサブスクに入れた話をしてんの!」


「じゃあ、相談したら入らせてくれたのか!?」


「ダメに決まってるでしょ!!」


「それなら天気がよくなくっても不機嫌になるなよ!」


「なんでよ!!」


言い争いは子供が起きるまで続けられた。

サブスクを解約するという結論は変わりない。


お天気サブスクは家計を傾かせる金額で解約となった。


解約こそできたが、一度契約した自分のスマホには

それからひっきりなしに他のサブスクの広告が入るようになった。

そのひとつに心が奪われる。


「へえ、今はこんなサービスもあるのか……」


周りに妻がいないことを確認し、そっと契約ボタンを押した。



それから数日後。


ふたたび家族旅行の日を迎える。

今回は自分がすべての計画を考えた。


「おでかけ楽しみ!」


「そうだろうそうだろう。今回はパパのプランだから。

 これまでよりもきっと思い出に残るぞ」


「ねえ、あなた。そろそろ行き先を教えてよ。

 サプライズだからってずっと話してなかったじゃない」


「ああそうだった」


運転しながら今日の行程を話す。


「今日は、野球場でまず野球を見るんだ。

 そのあとビール工場に行って工場見学をし、

 鉄道博物館で往年の電車をながめてから、

 日が暮れるまで釣りをするんだ。ぜったい楽しいぞ!!」


こんな夢のような計画があるだろうか。

間違いなく忘れられない1日になるだろう。


バックミラーごしに家族の顔をたしかめた。


予想に反して、その顔は便意でも我慢しているような。

そんな険しく嫌悪感たっぷりの苦い顔をしていた。


「パパ……」

「その工程……冗談よね……?」


ひきつる二人の顔。

とっさに、新しく契約したサブスクのスイッチを入れる。


アプリから専用の怪音波が広がり、

あれだけシブい顔をしていた妻と子供が笑顔になった。


「パパ! 私、野球場で野球見るのたのしみ!」

「私は鉄道博物館で黒光りする電車を早くみたいわ!」


「はっはっは! やっぱりパパの計画は最高だろう!」


車のスピードを上げる。


家族のご機嫌調節サービス「ひだまり家族」。



このサブスクに契約して、本当によかった。

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