第11話 : 女帝イザベラと美優の最終奥義
カオス・ヘヴン最大の祭典『アルティメット・ビューティー・アワード』。
その最上段、白磁の玉座に座るのは、芸能界のフィクサーにして「美の権化」、始祖エルフのイザベラである。数千年の時を経てなお、彼女の肌は一抹の濁りもなく、その美貌はサキュバスの女王ルシアですら、幼い子供に見えるほどの威圧感を放っていた。
「……目障りね。不浄な言葉を撒き散らす、下等な種族の生き残りが」
イザベラの冷徹な瞳が、ステージ上の美優を射抜く。
かつて人間が滅んだのは、彼女がその「不確定な美」を嫌い、世界の理から切り離したからだという噂は、今や真実味を帯びて美優に襲いかかる。
【女帝の策略:石化の呪い】
美優がステージの頂点で、最高の一枚を撮らせようとしたその瞬間。イザベラが扇の陰で唇を動かした。
放たれたのは、始祖エルフのみが操る絶対的な静止魔術――『永久なる彫像(エターナル・スタチュー)』。
(……えっ、身体が……動かない!?)
足元から急速に、美優の柔らかな肌が「石」へと変質していく。関節が固まり、血流が阻害され、生身の温もりが奪われていく。イザベラの狙いは、美優を「生きたままの石像」に変え、自らのコレクションとして永遠に黙らせることにあった。
「(さあ、その醜い生命の躍動を止めなさい。私の世界に、揺らぎは不要よ)」
【逆転:メタリック・ポージング】
絶体絶命の静寂。観客も、ゼノも、リナも、美優が灰色に染まっていく姿に息を呑んだ。
だが、美優の瞳だけは死んでいなかった。
(……身体が硬い。重い。……だったら、石には出せない『輝き』を乗せてやる!)
美優は、石化を拒むのではなく、自分の中に眠る「言霊」の熱量を、固まりゆく肌の表面に集中させた。
石化の灰色は、美優の生命エネルギーと衝突し、異常な化学反応を起こす。
鈍い岩の質感は、突如として白銀の鏡面へと変貌し、ステージに新境地の輝きが溢れ出した。
「硬くなったなら、その光沢を活かすまでよ!」
美優は、石化の重みを利用して、深海に沈む女神のような「超重量級」のポーズを固めた。
強烈なライトがメタリックな肢体に反射し、会場を真っ白な閃光が包む。それは、イザベラが愛する「静止した美」でありながら、その実、内側でマグマのような生命が爆発しているという、究極の矛盾の美だった。
「なっ……呪いを発色に利用したというの!?」
【決着:伝説の最終奥義】
衝撃に、イザベラの集中が乱れる。術式が霧散し、美優を拘束していた銀の殻が、ガラス細工のように音を立てて砕け散った。
現れたのは、汗ばみ、紅潮し、より一層「生々しさ」を増した美優の肉体。
魔法という修正(ギミック)を一切排した、純度100%の「人間」がそこにあった。
「イザベラさん。あなたの『綺麗』は、ちょっと冷たすぎるよ」
美優は不敵に笑うと、ステージ中央で深く腰を落とした。
両手で自らの膝を掴み、限界まで左右に割り開く。
『最終奥義:M字開脚』
かつて日本という地に君臨した「M字開脚の始祖インリン・オブ・ジョイトイ」が編み出した、魂の全開放。
股関節の柔らかな曲線、露わになった聖域への入り口、そして何より、観る者の視線を「暴力的に奪う」圧倒的な構え。
エルフたちが数千年かけて積み上げた「高潔な美」を、わずか一瞬で「ただの性(生)」へと引きずり下ろす、文字通りの下克上。
「ぐはぁっ!!」
審査員席の老人たちが、かつてない血圧の上昇に耐えきれず、椅子から崩れ落ちた。
イザベラは、その「下品なまでに力強い」ポージングを前に、顔を真っ赤に染めて立ち上がった。
「無礼な……! このような、品性のかけらもない……っ! でも……なぜ、目が離せないの……!」
「美しさだけが、美じゃない。品性とかそんな物差しでしか見れないあなたの負けよ。」
――私は、美しいものとは、本来もっと多種多様なはずだ。
美優は、熱を帯びた呼吸の奥で、そんな考えを巡らせていた。
M字開脚。
一見すれば、品性がないと切り捨てられる姿かもしれない。
だが、そこにだって確かに美は宿る。
視線を奪い、感情を揺さぶり、理屈を置き去りにする力がある。
セックスだって、そうだ。
汚らわしい行為だと眉をひそめる人は多い。
けれど、その中には確かな熱があり、感情があり、芸術と呼ばれる瞬間すら存在する。
では――生命が生まれる瞬間はどうだろう。
血と汗と叫びに満ちた、あの光景は「汚い」と言えるのか。
否。
あれほど剥き出しで、あれほど力強く、あれほど美しい瞬間を、美優は他に知らない。
(美は、清潔な箱の中に閉じ込められるものじゃない)
整っていなくてもいい。
上品じゃなくてもいい。
揺れて、濡れて、乱れていても――そこに命があり、意思があるなら、それは紛れもなく美だ。
狭い物差しで測れる程度のものなら、
そもそも世界を震わせる価値なんて、最初から持っていない。
美優は、自分の身体に宿る熱を、確かめるように感じ取った。
(私は、選ぶ。
誰かに決められた「綺麗」じゃなく、
私自身が信じる「美しさ」を)
だから、この姿勢でいい。
だから、この場所に立つ。
だから、視線を奪う。
彼女は、胸を張り、ステージの中央に在り続けた。
数千年生きた美の権化が、一人の人間の「M字開脚」の前に敗北を認めた瞬間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます