ドラコン・コンクエスト2 ~ 悪徳宗教の神々 ~
@DarthTail
第1話:勇者は行かない
第1話:勇者は行かない――報告者は死に、王は走り、息子は椅子を注文した
***
「……メーンヘラダ王国……壊滅……だと……?」
ノーキンダ王国の玉座の間。 静寂を切り裂いたのは、父上――ノーキンダ王の震える声だった。
大理石の床には、一人の兵士が倒れている。
メーンヘラダ城から命からがら辿り着いた彼は、折れた槍を杖代わりに、最期の力を振り絞って顔を上げた。
「王は……討ち死に……。王女様は……行方不明に……。ハ、ハゴーテンの軍勢は、もはや……止められ……ぐふっ!」
壮絶な情報を吐き出し、兵士はそのまま文字通り「ぐふっ」という音を立てて絶命した。
静まり返る玉座の間。
本来なら、ここで勇者の血を引く者が立ち上がり、復讐と平和のために旅立つ……。
そんな王道RPGのプロットが、目の前で展開されていた。
だが。
「……で、父上。僕が行くんですか?」
俺――ノーキンダ王国の王子は、玉座の脇に置かれた来客用ソファに深く腰掛け、足を組んだまま問い返した。
手元の羊皮紙には、今朝の市場の穀物相場と、我が軍の備蓄食糧のリストが並んでいる。
「何を当たり前のことを! 覇王ミョモトの血を引くのは、私とお前、そしてサボルトリアとメーンヘラダの従兄弟たちだけなのだぞ!」
父上が鼻息荒く、俺の前に『ある物』を差し出した。
カビ臭い『布の服』と、先端が微妙に丸まった『銅の剣』だ。
「さあ、これを持って旅立つのだ! 仲間を探し、邪神官ハゴーテンを……」
「父上。正気ですか?」
俺は指先でその『なまくら』をつまみ上げると、一切の未練なく窓の外へと放り投げた。
下で「ギャッ」という猫か庭師の悲鳴が聞こえたが無視する。
「な、何をすんだお前は! 伝統の旅立ちの装備を!」
「伝統? 国家の危機に際して、王族が一人で、そんなゴミ同然の装備で飛び出すのが伝統ですか。……父上、お忘れですか。数年前の『ドラコン・コンクエスト ~リュウ・オーの反乱~』の時のことを」
俺には前世の記憶がある。
ここは、かつてやり込んだレトロRPG『ドラコン』の世界だ。
だが、俺はこの世界を『冒険』するつもりはない。
『攻略』するつもりだ。
「あの時、父上は僕に『一人でリュウ・オーを倒してこい』と言いましたね。僕はそれを無視して、国庫の予算をすべて叩き、一万の重装歩兵と三十基の大型投石機を投入しました。リュウ・オーの城を十重二十重に包囲し、一歩も外に出さず、城壁ごと物理的に更地にして埋め立てた。……覚えていますね?」
「……う、うむ。あの時は、リュウ・オーが『世界の半分をやる』と交渉を持ちかけてきた瞬間に、お前が『遮蔽物(城)がなくなったな。全軍、斉射!』と合図して、言葉もろとも埋め殺したのだったな……」
父上は遠い目をして、当時の「勇者らしからぬ光景」を思い出し、少し震えた。
「今回も同じです。相手は一国を一夜で滅ぼす邪神官ハゴーテン。その背後には未知の強大な存在……『破壊神』の噂すらある。そんな相手に、一人の未成年が布の服で挑む? 現場をナメすぎです。これは冒険ではなく、軍事介入が必要な『戦争』なんですよ」
俺は立ち上がり、控えていた宰相を呼び寄せた。
「宰相。ただちに徴兵令を。あと、サボルトリア王国には『これは同盟関係に基づく共同軍事行動である』と通達。王子を出せと言え。来なければ、あそこもハゴーテンの一味とみなして経済制裁だ」
「は、ははっ!」
「お前、サボルトリアのあやつは、お前の親友だろう!? あんなのんびりした性格の男を戦場に引きずり出すのか!」
父上が驚愕の声を上げるが、俺は冷徹に分析を続ける。
「親友だからこそ、死なせないために組織の中に囲い込むんですよ。……さて、父上。僕は多忙です。前線の兵站の管理、ハゴーテンの教義の矛盾点を突いたプロパガンダの作成、さらにはメーンヘラダ領土の戦後処理案……やることが山積みだ」
「……私は? 私はどうすればいいのだ?」
手持ち無沙汰になった父上が、所在なげに尋ねる。
俺は肩をすくめ、ペンを走らせながら答えた。
「父上は現場が好きでしょう。正規軍の総大将として、前線で派手に暴れてきてください。相手の攻撃パターンを身を以て分析してもらう必要があります。あ、本陣には僕の特注のオフィス用チェアと、サボルトリア直送の最高級ワインを運び込んでおいてください」
「お、おい! 私が前線で、お前は後ろでワインを飲むのか!?」
「観察と分析も立派な仕事です。さあ、行ってください。あ、そのカビ臭い『布の服』よりは、宝物庫にある『ミョモトの鎧』を着ていったほうが、少しは生存率が上がりますよ。……父上が死ぬと、僕の事務作業が増えて困りますから」
父上は「勇者とは……王とは……」とブツブツ呟きながらも、なぜか嬉しそうに鎧を取りに向かった。
脳筋なのだ、うちの親父は。
こうして、世界を救う『冒険』は、一人の王子の手によって冷徹な『軍事侵攻』へと書き換えられた。
俺は窓の外、遠くの雪山――ハゴーテンの神殿がある方角を眺め、小さく呟く。
「……ハゴーテン。悪いが、僕は『レベル上げ』なんていう非効率な作業はしない。物量と、情報と、予算で……君を詰ませてやるよ」
その日の夕方、俺が注文した「長時間座っても腰が痛くならない魔法の椅子」が本陣に届く頃。
ノーキンダ国防軍三千は、凄まじい鉄の足音を立てて進軍を開始した。
報告者は息を引き取り、王は走り出し。
そして、勇者(自称・最高執行責任者)は、椅子に座った。
――後に語り継がれる『教団殲滅戦』の、これが始まりだった。
次の更新予定
2026年1月14日 07:17 毎日 07:17
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