ダルマの剣士

鈴鳴 凛

1.アルテインの英雄

分厚い冬外套をまとった男が二人、馬車の車の音、馬の足音、そして夜闇の中魔力ランプの灯りを頼りに会話をしていた。一人は不精髭を生やしもう一人は顔に傷ある青年であった、何方も腰には片手剣を携えているがそのどちらにも装飾等は無く、無骨な鋼を革製の鞘で隠しているだけである。

「なあ、」

「知っているか?」

髭の男がポツリと言う、

「何をだよ.....」

「アルテインの英雄の話をだ、」

腰の剣に手をかけながらそう髭の男は言った。

「......?、アルテインの英雄?知らんな、悪いけど北国のことは知らん」

「はっ!、これだからガキは、」

「うっせ、おっさん」

「ああ、おっさんだ、だから前線を知ってる、3年は戦場にいたからな.....まあ、要するにお前より北暮らしに慣れてるってことさ」

「そうですかい、」

口を尖らせる傷の青年に髭の男はまた続ける。

「まあ、年上の話は聞いて置け、半年前の魔王軍との戦争の最中の話だ」

青年は観念したのか静かに男の話に耳を傾けた。その姿はまるで酒を飲んだ父に絡まれたこの様である。

「アルテイン防衛戦での話だ。魔物の巣食う地である北の最果てタルタロスと人界の境目、その最前線になっていたモエニアは3枚の壁に守られている、第一の壁アンテ、第二の壁シィクイ、そして......」

「それは知っている、前の戦いじゃ、第二の壁まで破られたって話だろ?」

髭の男は頷くと続けて言った。

「ああ、そうだ最後に残ったのが首都アルテインを護る壁、ウルティムス、それを要に行われたのがアルテイン防衛戦だ......魔王軍側には最期の大魔族、サイクロプスが率いる亜人、魔物の混成舞台が12万、対して人類軍は6万と2000、当時残っていた正規軍の全てがそこに集められていた。」



髭面の男には、今も戦場の情景がありありと浮かんだ、防壁の目の前には荒野が広がり、800m先、敵陣形の後ろには蒼空に突き刺さるようにその巨体が三つの目で此方をただ見つめていた。

人類軍は多種多様であった。モエニア国防軍、聖王国軍、その他周辺国からの派兵部隊、そして髭面の男の様な傭兵に、ならず者まで混じっている。

最早、戦える大規模な正規軍などモエニアと聖王国にしか残っておらずその主力の殆どと、その他の有象無象が揃っての6万と2000、対するは本来知能等持たぬ筈の下級の魔物達がサイクロプスの力によって統率された魔物群と亜人軍、総数12万、そしてたった一人で小国、ファーメッツ王国を滅ぼしたサイクロプス、

その誰もがその巨体とその目の前を埋め尽くす亜人と魔物の軍を見て思った。

ここが堕ちれば人は負けると、

「おい.....勝てるよな?.......」

目前の景色に隣にいた男は思わずそう漏らした、当たり前だ。これ程の荒野を埋め尽くす、此方の軍の倍を敵は埋め尽くしているのだから、

「バカ言え!」

そう強気に言うが髭の男は恐怖が胸に重く溜まり、それ以上の反論は喉をつかえてしまい出すことが出来なかった。

怖い、怖い、帰りたい、だが、それも出来無い、前にも後ろにも行けない、そんな男の頭に一つ、


「聞け!!」


若い男の声が響いた、その声の主である

一人の男が俺達の前歩みでていた。装飾の無い無骨な鋼のライトアーマーを着て、背中には小豆臙脂のマントを羽織り、ツヴァイヘンダーを背負っていた。

その男は続けた。

「この戦場に集った、万夫不当の兵共よ!今ここが分水嶺、この戦こそが人の存亡がかかった決戦である!前を見よ!そして後ろを省みよ!そこには護るべき家族、恋人、兄弟、子がいる!それだけで目前の敵に屈さない理由となる!我々こそが人の盾であり矛である!

行くぞ戦友達よ!我が名は聖王国軍近衛部隊、レイ・エクアチオンである!」

男は踏み込むと大地を揺らしながら目の前の敵の軍勢の先、三つ目の巨人を目指し突っ込んでいく、その場すべての汎ゆるものを置き去りにして、そして、その大きな彼の一歩が、髭面の男に、小さな、だが確実な一歩への勇気を与えた。



剣を握りしめる手がランプに照らされ、濡れている、その手には過ぎ去った戦場の跡が滲んでいた。

「その背中は、声は、あっという間に俺達の頭から敗北を取り去っちまったよ。男は戦場では有名人だった、何せ近衛兵な上に、そんな奴だが以外に通り名は多くて、怪力男、鋼野郎、迅足、赤マント、色々言われていた、そいつが先陣を切って行ったその背中を忘れることは出来ねぇよな。」

青年は目を丸くして言う、先程までの面倒くさいと言った雰囲気は払拭されていた。

「へえ、そんな人がねぇ、その後どうなったんだ?」

「その後、戦が始まって半日を過ぎた時に、敵将討たれた、との報があった、そりゃ小国ではあったが国を一つ一人で潰した化物をたった一人で倒しちまったんだ。その巨体が倒れる様は戦場の誰もが見たさ、敵の士気も統率もそれからは失われて行った、下級の魔物の統率を三つ目の野郎が一人でやってたらしいからな、魔物共は散り散りに逃げ、亜人共はとっとと降伏しちまった。それほどにサイクロプスが死んだのがあり得ないことだったんだろうな、それで、その巨人は誰が討ったのかを聞くと片手で軽々と両手剣を扱う、赤黒いマントの男だったそうだ...「やりやがった!」って、皆で騒いださ、それからはそいつの通り名に「アルテインの英雄」が増えた、俺達、戦人の中でだがな、まあ、そんな話だ.....だが」

髭の男は夜空を仰ぐと言った。

「そいつの話はそれっきりだ、アルテイン防衛戦を最後にもう何処にも赤マントの話は聞かなくなった......噂じゃ近衛部隊をクビになっただの、腕を無くして戦えなくなっただの、死んだだの言われてる、だがあいつはの背中を見た俺から言わせりゃあいつは生きてる、そう思う......」

「そうかい、あんたは会いたいのか?そいつと?」

「いや、分からん、だがあいつを見る時はいつだって戦場だった。やっと戦争が終わった今だ。もう会わないに越したことは無いのかもしれないな..........」

「........」

「少し話すぎたな、もう寝るぞ......」

男と青年は会話を終えると冬外套に首を埋め、目を瞑った。冬の寒さが空に写る、よく雲の合間から辛うじてみえる星空と薄い雲によって月はより優しく照らしたいた、そんな空を見ながら青年は何故その様な話をされたのかを考えていた

そして髭面の男もまた、何故その話をしたのか、考えていた。それが、偶然か必然か、もうすぐある英雄との出会いの予兆であるとは知らずに、





[人界暦1273年、52年もの間続いた人類と魔王軍との戦争は魔王軍の戦力弱体化、そして魔王が討ち取られた事による撤退と言う形で終わりを迎えまる。その戦争の最中で多くの戦禍が渦巻く中それらの中に、赤いマントの男が一人、男は四人の才ある肉体を持つ者のそれぞれ才を左右の腕と両の足に受け継ぐことで本来一つだけの人の才能を、怪力の右腕、魔術の刻まれた左腕、大地を削る左足、大地を鳴らす右足そしてその男自身の才である、多くを見通す眼、と合わせて五つを持ち、圧倒的な力を持つものとして存在していた。その男は多くの戦場で武勲を上げ、敵からは恐れられ、味方からは英雄と称えられ、遂にはその者の刃は魔王の頸にまで届く

だが........

恐れられたが故に、彼は、魔王軍幹部にその手足を奪われ、封じられ、その力の殆どを失った

その、彼の行く末を知る者は、そう多くは無い]






夜闇の中、馬車の車列が止まっているのが見えた。雲を照らす光の動きと地上の大きな影から何かに襲われていることが分かる。

「あの馬車.....急がねば、」

男は直ぐ様駆け出した、そして大地は静かに震えその男の足跡がくっきりと雲から溢れた月光が照らしていた。





「くそ!何でこんな所にミノタウロスが!」

髭の男は顔をしかませる、目の前にいるのは体長2m半を有に超える巨躯を持った巨大な牛の化物の姿であった。さしてそんな化け物を見て直ぐに隠れた、

馬車の影にいる男が一人、こそこそと魔術発動を試みようとしている。腰には剣が携えられてはいたが、彼は怯えと震えによりその剣を握ることなど出来ず、ただ自分に出来ることをしようとしていた

「か、風呼びで通信を......」

術式を発動させようとするが、風呼びの魔術による通信は声の振動を空気中の魔力へと伝播させ、魔力の振動へと変換、その後に再変換することで通信を可能としている。その為魔力濃度が薄いと通信障害、もしくは通信そのものが出来無い、此処は荒野であり、魔力が薄い、彼の呼び掛けは受信者にはただのノイズにしか聞こえず、助けとは認識されていなかった。




"聖王国首都聖都北門前、通信中継地"

[ミ゛、.........が、..................し...............]

「ん、どうした?」

「いえ、なんかノイズが」

「ほっとけ、どうせただの定時連絡だ」




「くそっ、魔力が薄いっ、」

「何をしている?」

男が振り返ると、そこには

その巨躯に合わせた巨大な戦斧を持った化け物が佇んでいた。

その化物が男を見つめると、

男は途端に恐怖の許容量を越えて、

言葉にもならないものを叫びながら先程まであれ程躊躇っていた。剣を抜き去って切かかった。だが、その刃が届く前に

振り下ろされた、巨大な斧により途端に男は肉塊と化した。

血と肉に塗れた斧を地面へと降ろした、少しの地響きと共に地面が砕けて斧が沈んだ。

それから、化け物は髭面の男を見つめるとまた、低く唸るように、言った。

「人間、この集団の頭は誰だ、そいつの頭を持って帰らねば我が手柄の証明が出来ん、」

その言葉に髭の男は驚愕した。ミノタウロスは言葉を発することが出来るのは知っていた、だがそれは飽くまでも意思疎通出来る程の知能を持っているに過ぎない筈なのだ、だが、目の前のそれは確かに手柄欲すると、その様に言った、まるで人が戦で武勲を求める様なことを魔物が言ったのだ。

周りの者は皆腰を抜かすか唖然とするかもしくはその、化物の手に握られた血だらけの戦斧によって、肉塊へと変えらるか、目の前の化物と会話を出来るのは自分しかいない、そう髭面の男が気付くのにそう時間はかからなかった。

「い、いない!、これは飽くまでもただの負傷者の輸送車列だ、荷も、優先率が低いものしか運んでいない!だからこの車列の護衛には下っ端の兵や同乗した

傭兵しか付いていないんだ!だからここにお前の望む様な首は無い!」

その男の言葉にミノタウロスは暫し考えると、男の眼を見て言った。

「...............」

「負傷者だらけの上、兵も強くはない....

ならばこうしよう、負傷者は生かそう、だが兵の首は全て貰う、そうすれば我が手柄の証明ともなろう.....」

牛の化物はニタリとも笑わずに男に言うと、斧を構えた。

「くそが!」

男が腰の剣へと手を伸ばした、その時であった。



「まて!!」

声が響く、それは低く唸る様な声でも髭面の中年の出す野太い声とも違った。

その者の装いは小豆臙脂のマントを羽織り、薄く差した月明かりを鈍く光を反射する鋼のライトアーマーを着ていて....

ああ、あれは、あれは!

それまでは見慣れていた、だが、

しかし両の手と足は見慣れぬ鋼の物体へと変わり果てていた。


「この集団の頭、私と言うことにしては駄目だろうか?」

と、赤いマントの男は言った。

「お前、言っていることの意味を分かっているのか?」

ミノタウロスは赤マントの男に問う

「無論だ、だが私も抵抗する。お前を殺すことになっても言われは無い、」

その言葉にミノタウロスはそのどす黒い眼を見開くと笑って見せた。

「ぶははははははは!いいだろう人間、お前に挑むことにしよう!」

そう言うと傍らに置いてあった戦斧に手をかける。

「まってくれ!」

直ぐ後ろにいた髭面の男は思わず叫んだ、その理由は様々だ、今まで怯えて震えて、腰が引けていたからがここまでの声を出せたのは目の前の男の姿に安堵したことと、彼の手足がなくなっていることへの驚愕と悲しみからだった。

「お前、それ、義手義足だろう!そんな手足では!.......」

男は叫んだ、そして思い出した。何故あんなにも目の前の英雄の背中を忘れられなかったのかを、それは自分を守って死んでいった者たちの背中を思い出すからであった。何時も誰かに守られた、戦友に、友に、見知らぬ者に、そんな者たちに重なってしまうのだ。何時も生き残ってしまった、本来ならこの命は私の物では無い、こんな私を、目の前の四肢を失った英雄に縋る気持ちが拭えない私を、生かした者たちのものの筈だ。そう何時も考えていた、そんな者たちの最期と、目の前の英雄の背中は似ていて、どうしても重なってしまったのだ。

「安心しろ、これは魔術装具でな、自在に動く、それにたかが手足の四本だ、」

そう彼は言うと背負っていた剣を抜いた。ツヴァイヘンダー、彼の持つ剣はそう呼ばれるものであった。特徴的な大小二つの鍔は健在だ、だがその両手剣にしては細身で長い刀身は中程から折れており本来の丈の3/7程しか残っていなかった。その様を見て髭面の男は思った、やはり無謀だと、縋ってはならぬと、そして自分も戦わねばと、だが、目の前の化物がその歪んだ瞳に映ると、それへの恐怖心が腹の奥底から頭の先まで湧いてきて、その恐怖心は重く、男はただ踏み出すことも柄へとその手を触れることすらも出来ずにただその場に立つことしか出来なかった。


「もう良いか?別れの言葉は?」

「死ぬ気等毛頭無い、」

両者は互いに構えを取った。ミノタウロスは脇を引き、腰を落としその巨大な戦斧を片手で構えていた。目の前の赤いマントを羽織った男もまた、その折れた剣を片手で構えている。

「貴様、名は?」

そう赤マントの男は問う

「我が名はダレク、」


「私の名はレイ・エクアチオン、

ダレク、君に挑ませて貰う」

目の前のミノタウロスはまた低く唸った

「受けて立つ」

と、

瞬間、鈍い金属音と火花と共にマントが衝撃で煽られた。

ミノタウロスの巨躯から繰り出されたその斧の一撃は凄まじい重さを持っていた。それは、その斧を止めた男の足元が地割れし僅かに沈む程にだ。

レイは直ぐに斧を刀身滑らせる様に流すと、空いた脇腹へと一撃を、それに対してミノタウロスは斧の柄を使って受け止める、直ぐ、互いに立ち位置を変え迫り合いの姿勢になった。

ギリギリと、鋼が軋む音がする。巨体は脚を踏み出したその一歩が地面を揺らす、それに対して赤いマントは一歩下がりそのままの姿勢に踏ん張ると、剣で斧を弾き、その結果、巨体は体勢をした。

腰が空いた、その隙を逃さない様に横に一太刀浴びせる、右脇腹から左脇の下に抜ける様に、しかし、

浅い、

重心が後ろに乗った体勢で無理矢理に前に出た上、相手を仰け反らせた為、折れた剣の間合いでは足りなかった。故に表面を軽く裂き失血させるに留まり致命には至っていない。

「大地を裂く我が斧を受けて生きていることを先ずは称賛しよう、だが、獲物がその状態になってまだ日が浅い様だな.....」

「........お前、届かぬと分かって何もしなかったな?」

「どうだろうな?」

ミノタウロスはそう言うと腰を落とし、構えを取りなおした。

男もまたそうする、すると、赤いマントが衝撃で翻っだ、男は踏み込むとマントを置き去りにする様に飛び出した。

男のその眼は目の前の巨体をよく捉えていた。どこが隙でどこが守りか、その上で目の前の巨体には殆どの隙が無かったことが理解出来ていた。だが、無いものは作る他ない、先程の強い踏み込みに加え、窪んだ大地の破片がスターティングブロックの様な役割を果たし通常より速度の乗った一撃をもたらした。当然斧により受け止められるがそこでは止まらない、その一撃目を皮切りに二撃、三撃と続ける。一撃は頸を、二撃は袈裟斬り、三撃目はそのまま切り返し逆袈裟、全て受けられている。だが段々と目の前の者が視えて来た。

レイは数秒の打ち合いの後また後ろへと跳び退いて距離を開けた。

立ちはだかる巨大は約280cm×135cmの壁、体格差は明確、そんな巨体これまた巨大な斧が何処からの攻撃も通さぬと言わんばかりに護っていた。

そう、要は、

「斧か......」

当たり前だが武器破壊はその難易度に目を瞑れば優秀な手段だ、そう感じてはいる、だが先程打ち合って気付いた、ただでさえ高い難易度の武器破壊が不可能な程に硬い斧、目の前ミノタウロスが持つ戦斧は鋼を遥かに超える強度を持っている、不壊の術式をエンチャントしたものか、だがエンチャントによって耐久力強化、遠距離攻撃手段や特殊効果等を持たせた武器の魔力の通りは普通の武器とは全く違う。故に、目の前の斧がエンチャントされていない事が分かっていた。と、言うのも魔物は一部種属を除き魔術を一切使えない為、エンチャントなどに頼らざるお得ない、だから何よりも武器のエンチャントによる思わぬ魔術行使には警戒をせざる負えない、

(彼の持つ斧は、物質が本来持つ魔力程しか無い、エンチャントの可能性は無いな、)

思考を巡らせながらも、その他の警戒は解く気は無かった。だが、一つの警戒を解く、と言うことはどうしても少しの安堵感が生まれてしまう、そしてそれに引きづられて気が緩む、更にその中にあった少しの驕りが彼の命を危機へと晒した。

瞬間、目の前の巨体が斧を振り上げたと思ったらそのまま横を薙ぐように斜めに地面へと抉りこませ、そのまま地を引き裂きながら此方に向かっていた、その間は1秒の半分にも満たない、斧の動きをよく見ている筈だった、だが大きく振り上げた斧を地面へと振り下げると言う余りに甲骨無形な行動に一瞬理解が遅れ、避ける隙を失ってしまった。そしてそんな行動を見て思い出した。先程目の前の怪物は「大地を裂く我が斧」と言っていたのを、まさか比喩や誇張では無く事実を述べていたとは思わなかった。

「っ!........」

一撃は左手を掠め彼の顔面へと向かっていた。身体を大きく跳んで避ける。だが、避けたその先、着地からまた別の行動に移るには一度、重心を安定させる必要があるだが、その様な隙を見逃す筈もなく、ミノタウロスはもう一歩を踏み込んで、その斧が今にも襲いかかろうとしていた。

(しまった!これは避けれないし流せない!.......受ければ剣が砕ける。)

男は強く思った、

(油断した、何故考えなかった)

後悔と自信への批判、それをしても意味は無い、彼の思考はほぼ諦めていた。

そして彼は見るしか無かった。

英雄の背中に、に感化され、その震える脚を踏み出した男の背中を、

「うあ゙ぁぁぁぁぁ!」

次の瞬間、腹の奥から捻り出す様な雄叫びと共に、髭面の男の背中が見えた。

甲高い金属音と火花は男が持っていた剣が砕けたことによるものだと直ぐに理解出来た。そして剣を砕いても尚止まらない斧が男の腹を鎧ごと抉る様も背中越しに見えた。

男は衝撃をそのままに此方に力無く飛ばされる、それをどうにか受け止め、支えた。

その抉られた男の腹から腸が溢れていて血も止めどなく出ていた。

男をゆっくりと寝かしてやる。大量の血が鋼の手に伝う、服に染み込んだ血の温度が伝わる。

「おいっ!.......しっかりしろ!」

致命傷なのは分かっていた。これ程の傷の治癒には魔法陣と、少なくとも国家資格を持った魔術師、魔法師の治癒魔術でけだ。だがそんな者はここにはいない、助からない、

直ぐにそれが分かった、そして、男もまたそれを悟った様で、血反吐を吐き、衝撃で折れた肋が肺に刺さっている為に掠れた声を出しながら喋り始めた。

「俺が、今まで生きたのは.....お前に命を繋げるためだ......分からなかった、何で生かされたのか.........ずっと」

レイは男の言葉をただ黙って聞いていた。

「........今、理解った。やっと、解ったんだ....「アルテインの英雄」俺達の「英雄」..........」

男の眼は段々と虚ろに成ってく、

「ああ.......ともよ、ありがとう......」

その言葉を最後に男の瞳から光が消えた。最後に言った友とは赤いマントの男を指すのか、はたまた、自分の為に死んだ戦友を指すのか分からない、だが、彼の顔は穏やかっだった、穏やかな顔のままに亡くなった。ゆっくりと鋼の手がその光のない眼の瞼を閉じさせる。

「すまない......ありがとう........」

赤マントを翻すと血に塗れた鋼の四肢を持つ男は言った。

「ダレク、続きだ。」


「それだけか?人は仲間の死にはかなり敏感だと思っていたのだが?」

男はそれに対して静かに、何も強い感情を込めずに返した。

「これ以上の行動は哀れみになる、哀れみは覚悟を持った戦士への冒涜だ。それに.......貴様から死者への冒涜は感じなかった、今の間に攻撃して来なかったことが何よりもの証拠だ、故に貴様に対する恨み辛み等は無い、」

そう言い切ると、彼はまた剣を取る、その血に染まった鋼の手が剣の柄を汚している。そのことには気も止めずに、剣を強く握り直した。

「お前、それは風帯びの魔術だな」

風帯びの魔術は、空気中の魔力を操作し、空気の分子同士を魔力によって結合、固体化する。それを薄く、分からないほどに、薄く、斧に纏わせていた。

「地面を砕いたのは厚く固められた空気の層だ貴様の斧じゃない」

そう、レイが言ったのに対してミノタウロスは少し意外そうにした。

「何だ?今更まさかとは言わぬぞ、」

「ふん、卑怯とは言わぬのだな、と思っただけだ。まあ、お前も隠しているのだから当たり前か」

レイはその「隠している」と言う言葉に目を見開き、驚いた。

「貴様、先程左手に斧が掠ったな?それなのに左手は無傷だ。」

その言葉に無意識に「左手の力」を使ってしまっていた事に今更ながら気付いたのと同時に、表面上は冷静を保っていたが魔物が魔術を使い、そして魔力を目で見ていることへの驚愕が頭を渦巻き止まないでいた。

レイの内心を、表情を見て理解している筈のダレクはそんな事は気にも留めず、に続けた。

「見れば分かる。貴様の四肢、それはただ自在に動くだけでは有るまい、」


その言葉の通り、

彼の四肢はただの義手義足ではない、そして自在に動くだけでも無い、彼の四肢には一つの術式が施されている。それは、「才能の再現」彼の四肢は四人の才人の手足を受け継いだものである。右腕は圧倒的な力を起こし、左腕はあらゆる攻撃を弾く盾となる、右脚は必殺の一撃を放つ為の踏み込み、左脚は目に追えぬ速度を起こす、だが、それらは奪われ、封じられた。

それらの「才」を再現しようと試みようとしたのがこの、魔術装具「天与の四肢」である。しかし、神が与えた才を、人の手で、それも四つもの才を再現するのは不可能であった。それ故にこの手足は彼の元の力の1/10、にも満たない、その理由は圧倒的に足り無い魔力である。

落雷を起こすのに使う魔力はその落雷と同等のエネルギーを生み出すことが出来る、そして効果を起こすにはそれに伴った対価がいる、それ故に神が与える才は神が起こす自然現象と同等かそれ以上の力がいる、その為に、この装具は不完全な力しか持たなかった。ただ、不可能では無い、先程不可能と言ったのは恒久的な再現であり、瞬間的な再現は可能である。

魔力はその絶対数が少なくとも、抵抗を掛け、それを昇圧することにより大きな力を生み出すことが出来る。その魔力の特性を利用して、義手、義足内の抵抗器により魔力を昇圧、瞬間的に圧倒的エネルギーを生み出す、それによりそれぞれ10秒間、10割の再現を可能とする。それ以上の可動は抵抗器が焼き切れる、もしくは圧倒的エネルギー量により義手そのものを動かす術式の回路か義手そのものが物理的に破損する為に不可能、それどころか10秒以内の稼働でさえ、その四肢に施された術式に異常を来す。

つまりはだ、彼が全盛の力を取り戻すには時間制限が付いた上で大量の魔力と、全力可動した後、戦闘不能になるリスクが伴う、

それ故に、彼はそれを出す覚悟が出来なかった、力を失い、道具に頼らざるお得ない彼は、今の彼は、自信を大きく欠如していたから、そして、何よりも倒し切れるのか?と言う自分自身への疑問が強かった。もしかしたらその弱くなったと言う、道具に頼っていると言う自意識が、先程、斧のと言う道具のエンチャントを過剰に気にし、隙を生み出すと言う失態をもたらしたのかも知れない、その自覚があったからこそ、彼は今、激しく後悔していた。


「出さない、では無く、出せない、もしくは出せば終わりの一発限りと見たが、どうだ?」

目の前の巨体は当てて見せた、

それに続け、

「出せ!出し尽くせ!貴様の本気、受け止めて見せる!」

煽る、その言葉にはその本気を見たいと言う好奇心と、本気を出さないことへの

その言葉にレイはゆっくりと前を向く、

「先に、貴様いつから気付いていた?」

「最初からだ。」

これは本来魔術を使えない筈の魔物が魔術を使う程の知と、敵を観察するほどの理性そして態と泳がすという、人にしかしないような、いや人にしか出来無いような行為を魔物がしていると言う事実であった。

レイは、思った、この者は此処で倒さなくてはならないと、


「.................」

「分かった、だが、一度だけだ、だから、避けるなよ」

明らかに通らぬ要求をした、だが目の前の者は

そう言う彼の言葉を笑い飛ばすように

「無論!!」

そう答えた。

そして、未だ目から離れることがない目の前に倒れた戦士の骸、それが、彼の自信を失い揺るいだ覚悟を補強し、より強固なものへと変化させた。

ゆっくりと目を骸から敵へと移す、その目にはただ、倒すと言う意思が強くあった。

それが、その覚悟が、今当に、力と成す。

覚悟に答える様に鋼の右腕に魔力が通る、それはまるで濁流のなか渦巻く水の流れの様に彼の右腕に留まると微かに漏れ出た魔力が起こす風圧により、赤いマントをはためかせながら彼は小さく唱えた。

「right arm,on .......Power-SHIFT.」

その瞬間に渦巻いていた魔力は爆発する様に右腕の中を満たした、その圧力に鋼が軋む、

その魔力に術式が呼応し、彼に圧倒的な力を与えた。

血に塗れた柄が軋む、

関節が軋む、

大地が軋む、

この凄まじい力の発露に対して、目の前の巨体は身動ぎもせず、ただどっしりと構えている。

「今までの無礼を詫びよう、」

その言葉に対して、目の前に立つその者はただ一言

「許す、」

そう言った。

その言葉がレイの耳に届いた時、彼は踏み込んだ。


その一撃に全てを賭して、


一瞬であった。

次など、後などは考えず、ただそれのみに全てを込めた一撃は、真っ直ぐと突き進んだ、

踏み込みによって足形に割れた地面、舞い上がる破片、倒れた骸、その全てを置き去りにするような彼の一撃は、その斧を砕き、そのままに巨体の腹を割っていた。

二つに砕けた斧の刃が別々に地に墜ちた。その音に続きその屈強に構えていた巨体が膝を着く音が地に響く、それを聞き届けた後、赤いマントを背に彼はゆっくりと剣を鞘に納め、腹を裂かれ跪づいた巨体にゆっくりと近づいた。

その牛の顔をし、人の眼を持つ目の前の者の瞳にはまだ光が灯っていた。

弱々しくもしっかりと見える光が、

「人間よ.......名をもう一度、聞かせてくれ.......」

その問いに答え、

「レイ・エクアチオン.....」

と、ただ一言言った。

そしてその言葉を聞いた、目の前の者はただ短く感謝と称賛をレイへと送った。

「レイよ.......感謝する、貴様の一撃.....見事であった.......」

ゆっくりとその巨体は目の前の砕けた斧を見つめ、その斧に対して様々な感情が入り混じった目を向けると静かに、その唸るような声で優しく語りだした。

「本来ならば、こんな物は、要らぬのだ、我々はこの身一つで.......この肉体の力、ただそれだけで闘い抜いてきた、そして、それが誇りであった。

だが、我々は弱くなった、知が我々を弱くしたのだ、」

その目は斧からゆっくりと目を離し、差先ほどよりも弱々しい光を放ちながら夜空を仰ぎ見ていた。

「ああ.......北の地が恋しい........」

一瞬、その夜空を越えて尚遠い場所を見つめるような目をしていた。だが、直ぐにその眼は此方を見つめていた。

「レイ・エクアチオンよ.........私は戦士であっただろうか.....この様な物に頼らなければ貴様と戦うことすら出来ない私は戦士だろうか........」

その問いに対して、彼は直ぐ様答えた。

「貴様は戦士だ、私が認める。」


「そうか......ありがとう...........」


そう、いい残すと、目の前に跪いた戦士はその姿のまま、その生を終えた。

彼の顔は土に汚れることはなく、その背中には一筋の古傷も無かった。

周りを見渡すと彼が殺した遺体には、皆剣が握られており、例外は無かった。その様な戦士に何故、私が認める必要があろうかと、レイは

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