無機質の恋
夕暮怪雨
無機質の恋
駅に併設されている商業施設。その中に入っている若者向けの人気アパレル店。そこで一緒に働く二人の男女の物語。
店から発売された新作の服を身に纏い、沢山の来店客は二人へ視線を向ける。いつも通りの光景だ。私はこの店に来てから、彼と一度も会話を交わしたことがない。
女性向けのコーナーから、彼を見つめることしか出来ない。フロアのちょうど真ん中を過ぎると男性向けのコーナーだ。レジも別れており、他の男女スタッフも互いに行き来する必要もない。毎日のように若いカップルが仲良さげに服を眺めたり、独り身の客が服を持ち鏡に合わせる。その度、影に隠れて彼が見えなくなってしまう。長くこのアパレル店にいるが、男女フロアの境界線上を超えることは決してない。けれど時折、遠くで目が合うのが分かる。お互い硬い表情で笑顔も作ることもできないけれど。
(あの人は私のことをどう思っているのかしら?)
そんな興味を持つ。
(一度で良いから声をかけてみたい、あわよくば触れてみたい)私のほんの少しの我儘。
ある時、他のスタッフに連れ出され、入り口のショーケースに立たされた。横にいるのはあの人。
(あぁ....やっと側に近寄ることが出来た)
互いの指と指が触れ合うか触れ合わないかの距離。それは指先たった1センチ程。触れ合いたい、彼に向け声をかけたい。けれど声は出ない。それどころか横を向き視線を合わせ、たった1センチ近づくことすら出来ない。
私は無機質なマネキン。動くことも話すことも出来ない存在。けれど何故かわからないけど、神様が私に感情を持たせ、恋をすることだけ許してくれた。
でもお互いの気持ちは知る術は無い。だって私達二人は無機質なマネキンなのだから。彼の私に対する気持ちも一生知ることはない。
無機質の恋 夕暮怪雨 @yugurekaiu
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