天器使いのアスカ
CだCへー
序章
「なぁ、アスカ知っているか」
娯楽室で壁にもたれ掛かる男性は、少女に声をかける。
アスカと呼ばれた少女は絵本に夢中だ。
「おぉい、ナナイロ・アスカさん。お返事は? お兄さん無視されると寂しくて、泣いちゃうよ」
「黙れ、じじい。アタシは本に夢中なの」
アスカは絵本のペ―ジをめくる。
「おぉい、おぉい。悲しい。悲しいなぁ!」
「なぁ、じじい」
「こら、十九歳にはじじいではなくて、お兄ちゃんと呼びなさい」
アスカは絵本のページを見せる。
「光って暖かいのか?」
絵本のページでは、白い床が溶け、明るい色の丸が描かれている。
男が口を開く前に、少女は矢継ぎ早に質問を被せる。
「この床の白いのは冷たいのか? この髪の毛みたいな緑は? 床に人が埋まってるのか? 後ろの壁の色が、ペ―ジごとに変わる現象は?」
「ああ、ユキとクサ、そして、ペ―ジごとの現象はテンキってやつさ」
「ユキ、クサ、か」
「ああ、ほら、あのテレビジョンを見てごらん。あれも、テンキの一つハレって現象さ」
「ハレ、あれがハレ」
娯楽室の中央を占拠する大型スクリ―ンテレビ、そこには、ライオンという動物が欠伸をしている。
その後ろには、赤い、天井の電灯よりも明るい楕円が、広大な床に細い白い線を広げる。それは、黒と白、闇と光のコントラストを浮かび上がらせた。
「さっきの話だがな、アスカ。俺は、あそこを目指す」
青年はテレビジョンを指さす。
少女は隣の青年を見上げる。その眼の黒い奥で燃え上がる、確かな何かが少女を捉える。
「馬鹿だなじじい。あれはテレビジョンっていって、映像を映しているだけだ。あの中に入れないのはアタシでも知っている」
青年はアスカから視界を話すと笑みをこぼす。
「ふふ」
「なに笑ってるんだ?」
青年は、不思議な顔をするアスカの、黒い髪に頭を置く。
「俺は待ってるから、お前もいつか来い。待っていても、望む明日は来ないからな」
それが、ナナイロ・アスカ少女時代の最後の記憶である。
そして、この青年が娯楽室を訪れた最後の日だ。
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