~TS病世界物語~変態と恋愛は大変だ
嗚呼昏々懇親会
前編
私、
赤点製造機の癖に補習を休んでしまった私は、昨日まで大量の課題に追われる日々を送っていた。けどそれも遂に片付いてもうすぐ夏休み。それなのに学校を出た途端に小雨が降り始めた空模様みたいに、微妙に沈んでいた。
色々あって最近バタついてたり、学校で微妙な立場だったり。私が密かに好きだった男の人が≪TS病≫なんていう良く分からない病気にかかってしまったり。
それでその人が別人みたいになったのもショックだったけど、一番嫌だったのは外見が変わっただけで私の気持ちもすっかり変わってしまった事だ。
(性別が変わったんだから仕方ないと思うけど。でも、結局私も見た目だけで好きになってたのかなー……なんて)
実際、顔と性格は良かった。私が惚れるくらいには。
そんなこんなが重なって、私は好きな動画――動物系チャンネルの
住宅街に入り、建物の影から公園が現れる。いつもの様に通り抜けてショートカットしようとしていると、ぽつぽつという雨音の中から聞き覚えのある声が聞こえた気がした。
ちらりと視線を向けて、目が合った。
「おおっ! やっぱり虎皇だ!」
物陰で見えないがチューブトップでも着てるんだろうか。肩まで出した薄着の珍しい髪色の女性が、ドーム状の遊具から顔を出して私を呼んでいた。
その一応成人済みの女性が、小学生以下しか入ってるのを見た事がない小さな入口の遊具の中で雨宿りしている。
「うわ……」
正直、話したくない。今はそんな気分でもないし、あそこで遊んでる大人と関わっているのを誰かに見られるのは恥ずかしい。
私は着ていたパーカーのフードを引っ張って目深に被り直す。知らないふりだ。
そんな私の気持ちを知らない彼女は、
「聞こえてないのか? オレだよ!」
そういうと私を引きずり込んだ。
突然横から腕を掴まれた私は「わあっ……!!」という叫び声と赤い傘を残して、遊具の中に連れ込まれてしまう。
太陽が雲に隠れていたせいだろうか。まだ夕方なのに中はぼんやりと暗く、暗闇に慣れてない私の眼だと周りの様子が良く分からない。
「いったぁ~~……」
反射的に地面についた手のひらが悲鳴を上げる。ざらざらとした手触りと硬く冷たい感触から、乾いた砂が散らばったコンクリートに覆われているのが分かって、私は少しだけほっとした。もしここに雨が侵入していたらきっと制服は泥まみれで、お母さんになんて言い訳をしたらいいか分からないから。
「ちょっと、危ないじゃん! 一体何!?」
「え? あー……ごめん! お前に会ってつい嬉しくなっちまった、はははは」
「全くもう」
呆れながら私は冷静になって気付く。声の距離と汗ばんだ彼女の匂い。それと運動でもしていたのか熱い体温を制服越しに感じて、慌てて飛び退いた。引きずり込まれた時に覆いかぶさってしまったらしい。
「ご、ごめん」
「ん? 何がだ?」
「いや。別に」
気にしていいなら、まあいいか。
気を取り直して私は慣れてきた眼で改めて兎真理を見た。
「…………」
「何だ? そんなにじろじろ見て。なんかオレ変か?」
見る人を引き付ける銀髪。同性でも思わず見惚れそうになる美貌。首にはパステルカラーの首輪を着け、そこへ金具で取り付けられた丈夫そうな散歩用のリードが垂れ下がっている。そしてその二つ以外何も身に着けていない文字通り赤裸々の全身――
「……えっろ」
あまりのエロさにポロってしまう私。ちなみに『ポロる』とはうっかり本音がポロっとでてしまう事だ。心の中だけにした方が良い言葉をつい口にしてしまいがちな私はそれをポロると呼んでいる。
「だろ? 『水も
そうやって兎真理はやましい物なんて何もないと言わんばかりに自信満々の笑みで見せつけてくる。見てるこっちの方が恥ずかしくて、私には横目にちらちら見る事しかできない。
プールの着替えとか温泉の脱衣所とか。女だったら同性の裸を見る機会なんて普通にあるのに、まるで大人っぽい漫画みたいな見ずにはいられない魅力が今の彼女にはあった。どう考えても変質者だけど。
「早く警察に捕まったほうがいいんじゃないの?」
「そこまで言うか!」
「あっ、ごめ……。でも兎真理はもう成人してるし。少年院じゃなくて刑務所になるからちょうどいいかも」
「何がちょうどいいんだよ。いやまて、スマホ出そうとするな」
残念美人過ぎる同級生・兎真理。
彼女こそが≪TS病≫で性別が変わってしまった、私の元・好きな男だ。
ちなみに銀髪は別に脱色した訳じゃないらしい。前は普通に黒だったんだけど≪TS病≫になると漫画かアニメみたいな奇抜な髪色になるそうだ。
「っていうか、こんな所何してるの? しかも裸で」
「そりゃ見ての通り、露出プレイに決まってんだろ」
「……」
「本当は綺麗な人妻に女王様になって貰ってオレの散歩をしてもらおうと思ってたんだけど……このへん近所だし、小学生ぐらいの子供しか見つからないしで。流石にちょっとな」
どこが『流石にちょっとな』だ! 兎真理は人妻や子供に声をかけなかっただけで自重したつもりらしい。
「いや……その前にまず外で全裸になるのを自重しなよ」
「待てよ、全裸じゃねーって。見ての通り着てるだろ」
「え? どこが?」
「
「馬鹿なの? それが服だって言い張れるのは変態だけだよ」
「じゃあ何だよ、犬は全裸で歩いてる変態だっていうのかよ!」
「まず犬は服を着ないのが普通でしょうが。人間と違って暖かい体毛があるんだから」
「……確かに」
「やっと理解できた?」
「ああ、人間は外では服を着たほうが良いんだな」
「……いや、着た方が良いんじゃなくて、着ないといけないんだよ」
「どおりでさっきから寒い訳だ」
「馬鹿だ」
「そしたら雨が降ってきて。で、
「っていうか、まず服着なよ。寒いんでしょ」
「ねーよ。家から着てねえんだから」
「…………一度病院で診てもらったほうがいいかもね」
「え? もしかして熱出てる?」
「どっちかっていうと外科とか精神科かなぁ」
変態すぎる感性に私の方が自重できなかった。
そうだ、こいつは紛れもなく馬鹿だった。一年生の一学期から補習を受けてる私以上に。兎真理が二回も留年しているのも単に成績が悪かっただけじゃない。学校で変態行為をし続けて停学処分になったり、突然海外放浪して進級できなかったかららしい。
天は二物を与えないなんて言葉があるけど、こいつは『美貌』と『天才的な馬鹿』を授かったんだ。
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