朝焼け色のドレスー辺境の少女は家族の夢を纏う

Jem

第1話 マージとマリアの卒業式

「ね、卒業式のドレス、マージはどうするの?」


 豊かな金髪を丁寧にブラッシングしながら、マリアが尋ねると、ベッドに寝転んだマージは曖昧に笑った。


「まだ、何も。卒業式は半年後だよ?マリア」


「あら!ドレスの準備をするなら遅いくらいよ!うちのママなんて、私が女学院に入学した途端にドレス探しを始めたんだから」

 

 マージ――本名マーガレット――は、辺境都市サン=エルの下町育ちだ。


 石畳の割れ目から雑草が生え、雨が降るとすぐ泥だらけになるような通り。その一角にあった借家で、彼女は兄のレオと二人で育った。両親は早くに亡くなり、兄は港や倉庫で日雇い仕事をしながら、妹を学校へ通わせていた。


 レオは、喧嘩っ早く、口も悪く、まるで野良犬のような男だった。だが、マージが本を読む邪魔だけはしなかった。薄暗いランプの灯が揺れ、彼女が文字を追い始めると、兄は黙って外に出て行った。


 その努力が実り、マージは中央女学院のサン=エル分校に特待生として合格した。辺境出身の孤児が、中央の教育を受けられるのは異例中の異例だった。

 学院の生徒のほとんどは中流以上の家庭の娘だった。礼儀作法も、服装も、話題も。マージの知っている世界とはまるで違っていた。その中で、唯一心を許せる友人がマリアだった。中央都市から来た商家の娘で、マージの努力を素直に尊敬してくれる人だった。


 「マージ!良かったら、卒業式はお揃いの髪飾りにしない?」


 ベッドの端に腰掛けたマリアは夢見るように、マージの赤毛を撫でた。


 ――困った。マージには、ドレスを誂えるお金さえない。裕福なマリアとお揃いの髪飾りなんて、とても手が届くとは思えなかった。


 「もちろん、私からのプレゼントよ。私たちの、友情の証」


 マージの心配を読み取るように、マリアが微笑んで、ベッドにもぐり込んだ。


 「はは…あたしにドレスや髪飾り…なんて。似合わないよ。マリアみたいに綺麗な金髪ならともかく、さ」


 マージが、明るくおどけて見せる。


 「そんなことないわ!…私、サン=エルの学校に入って、貴女というお友達に巡り会えたのが、とっても嬉しいの。こうやって――姉妹みたいに一緒に寝られるのも」


 おやすみなさい、とマリアが灯りを消した。


–つづく–

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