天使が降るとき

@suzukichi444

天使が降るとき

 最近はやっている謎の病気、天使病。


 突然、翼が生えてくる奇病なのだが、原因も翼が生えた人がどうなるのかも、全くわかっていない。


 ネットのニュースサイトには前日の天使病発症者の人数が載るようになり、ついに都内で100人を越えたと発表されていた。


 季節は冬


 高校2年生になる、秋島 陽斗アキシマ ハルトは、白い息を吐きながら歩きスマホで、前日の発症者数に続く、専門家の意見に目を通していた。


 と、その時、何やら叫び声のようなモノが近づいてくる事に気づく。


「ちょっとま?!」


「どぉーん!!」


 振り向きざまに何かを言いかけた陽斗。


 しかしそんな彼の口を封じる様に、フライングクロスチョップの体勢で飛んでくる。


「あははは、ダメだよ〜。歩きスマホは! 危ないんだから!!」


「あのなぁ、どう見たってお前の方が危ないだろうが!」


 陽斗と同じ、紺色のブレザーを着た少女に言い返す陽斗。


 ただ1つ、少女の着るブレザーには陽斗のには無い、特徴があった。


 ソレはスリット、少女の着るブレザーには背中のところにスリットが入っており、そこから白い羽毛の翼が伸びていた。


 陽斗の幼馴染、原沢 光海ハラサワ ミツミは天使病の発症者。


 一週間前に陽斗の目の前で、その白い翼を生やしたのだった。




 天使病などと言われているが、本当にただ、翼が生えてくるだけの病気で、それを使って飛んだり、何かとか別な事ができるわけでは無い。


 原因不明の天使病とは、ただ邪魔くさい翼が生えるだけの病気とされている。




「なんか今の、飛んでなかった? あたし飛んでたよね!!」


「飛ぶって、ダイブしていただけだろ! あんなんで飛ぶとかおこがましいっての!」


「あ〜、そういう事言うんだ〜」


 光海はそう言って陽斗の背後に回り込むと、彼を羽交い締めにする。


「おいバカ、何やってんだ?!」


「あたしの事バカにする奴はこうだ!」


 そう言って無防備な陽斗のわき腹を、翼で器用に撫で始める。


「ばっ! バカやめろ! こんな人通りの多い所で!!」


 陽斗の言うとうり、光海がじゃれてきた場所は同じ高校に通う生徒や近所の中学に通う中学生、さらには社会人も大勢通る道だ。


「ふんふ〜ん、相変わらずわき腹が弱いわね〜」


 しかし、聞く耳持たない光海。


「おい、いい加減にしないと遅刻するぞ」


 実はまだ少し余裕があるのだが、腕時計をつけない光海はスマホを出して確認するしかないため、そのスキに脱出しようというのだ。 


 しかし光海のとった行動は、


「やむなし」


 そう言って陽斗に背負われる様に飛び乗った。


「…………。光海さん?」


「かくなる上は合体攻撃よ! あたしがいっぱい羽ばたくから倍のスピードで走れるはずよ!」


「お前の体重加味したら、半分もでねぇよ!!」




「ふう〜、まにあった〜。って、まだ余裕あったじゃん!」


「ギリギリまでじゃれあってるつもりだったのかよ……。少しは余裕持てっての。ってか、ずうっと羽ばたいてたな? 効果あんのか?」


「ん〜、効果っていうか羽、普通にたたんだだけじゃ空気抵抗で邪魔になるのが最近わかったのよ。あたし調べで。だから羽ばたいていた方がまだ、邪魔にならないかな〜って思って」


「そんで効果あったのか?」


「倍疲れた」


 陽斗は呆れたそぶりをしながら自分の席につく。


『ねぇ、あの娘……』


 席の近くの女子生徒達が光海の方を見ながら、何か話している事に陽斗は気づく。


 


『へぇ、フライングユニット、また新メンバーだって』


 休み時間、近くの席の男子の会話。


 『フライングユニット』とはとある大人数アイドルグループの、天使病発症者達で作られたユニットの事で、現在5人が在籍している。


 男子生徒の会話は、そこに新たなメンバーが加わるという話だ。


『でも、○○ちゃんじゃなくって良かった。もし、○○ちゃんが発症してたら……』


 天使病という病について、医者も研究者も何もわかっていないという。


 わかっていないからこそ、色々な噂が独り歩きしてしまう。


 例えば空気感染や飛沫などによる感染はしないと、国は発表しているが、なら一体何が原因でこの病は広がり、発症するのか?


 先のアイドルユニットも他のアイドルの娘に感染させないため、隔離しているという噂があるくらいだ。


 朝の女子達も、光海の事を決して良くは思っていない。


アイツ光海だってバカじゃない。世間の空気ぐらいわかっているはずだ……)


 そんな事を考えながら、前の席に座る光海の後ろ姿を眺めていた。




「おわったおわった〜、授業が終わった〜」


 放課後、本屋に用事があるという光海につきあって、商業地区に来ていた。


「別に、あたしにつきあわなくてもいいのに」


「俺も本屋に用があるんだ」


 陽斗は光海の用事に心当たりがあった。


 世界ではじめて天使病を発症したという人物。


 その人が残した手記を元に書かれた本が何年も前に出版されている。


 光海に翼が生えてから、陽斗もネットでその本を探したのだが、どこも売り切れで手に入らなかった。


 ネットで天使病発症者の話を調べたりすると、この本の名前がよく出てくる。


 発症者にとって、心の支えになるらしく、発症者本人やその身内などがよく買い求めるそうだ。


「残念、無かったわ」


「そうか……」


「陽斗の方は?」


「ああ、俺の方も在庫が無いってさ」


「そうか……」


「真似すんなって」


 バカバカしいやり取りをしながら2人は帰路につく。


 大通りの歩道を歩く2人。


 そんな2人を追い越すように、パトカーや救急車が走り抜けて行く。


「なんだ?! 事故か?」


「見て、人だかり。あ、止まった!」


 進行方向にある人だかりと、その脇に止まっている緊急車両。


 家の方向がそっちなのもあって、近づいていく2人。


『飛び降り自殺みたいよ。このビルの屋上から……』


 そんな野次馬の声が耳に入って来る。


 チラリと人ごみのすき間から見えたその人物は、背中に翼が生えていた。


『やっぱり例の病気を苦に……』


 その言葉を聞いたとき、陽斗は光海の腕を掴んでいた。


「行こう!」


「陽斗?!」


 光海はここに居てはいけないと思った。




「陽斗、痛いよ!」


「あ、ごめん……」


「ねぇ、陽斗。自殺した人見たの?」


「え?! いっ、いや……」


「見たんだね? 陽斗、嘘が下手だから」


 返す言葉が思いつかず、沈黙してしまう陽斗。


「大丈夫だよ、あたしは。陽斗の方こそ、そんな暗い顔しないで」


(そんな暗い顔してたのか……)


 明るく振る舞う光海だったが、朝とは比べ物にならないくらい低いトーンだった。




 翌朝、登校すると、一部の男子生徒達がある事件の話をしていた。


 飛び降りたとかいうワードから、昨日の飛び降り自殺の事かと聞き流していたが、どうも違うようだ。


『テレビドラマも途中降板して他のスケジュールも全部白紙になったって言うし、それが原因で……』


 飛び降りたのはどうも、元アイドルグループ出身の女優の娘らしい。


 自宅のマンションから飛び降りたという。


 そしてその女優の娘も天使病発症者だったようだ。


「おはよぉ」


 光海が教室に入ってきたが、昨日別れたときよりも、さらに元気がなくなっている気がする。


「よお、おはよ!」


「うん、おはよう」


 陽斗の挨拶にもやはりテンションが低い光海。


 自分の席に座る彼女の後ろ姿を見ながら、陽斗は思う。


(あれ? アイツの翼、あんに大きかったっけ?)




 その日の放課後、光海は何も言わず、1人で帰っていったようだ。


「アイツ、やっぱり何かおかしい」


 すぐに後を追ったが見失ってしまい、彼女が行きそうな場所を考える。


「本屋! もしまだあの本を探しているなら本屋に行くはず!」


 しかし、徒歩で行ける範囲の本屋はすべて回ったが、光海も例の本も見つからなかった。


「考えてみりゃ、行き違いになってる可能性もあるんだよなぁ。しかし、本屋さん思ったほど無いんだな」


 スマホアプリで近くの本屋を検索したのだが、出てきた本屋の中にはすでに廃業しているところもあった。


「ん? なんだこれ」


 スマホのネットニュースにつくコメントに気になる一文をみつけた。


『ネットの書き込みとかで転落死病。略して転死病って言ってる人、非常識すぎると思うんですけど』


『転落死病というのはネット民が勝手につけた名前じゃなくって、最初の発症者の人が、翼が生えてから『飛んでみたい、高いとこから飛び降りれば飛べるはず、』という衝動に駆られるようになったという報告から来たものです』


「なんだ……。何言ってるんだ、転落死病って……」


 直近だけでも2件、当てはまるものがあった。


 もしかして、探せばまだまだ出てくるのでは。


 色々と検索してみたいところだが、今は光海を探すのが先だ。


 その時、ある考えが思いついた。


「本を扱っているのは普通の本屋だけじゃない。古本屋?! 元が古い本だし!」




 すでに日が暮れた街中を急ぐ陽斗。


「結構大きな古本屋だな……。ん?!」


 古本屋の建物を視界に入れたその先に、見慣れた後ろ姿が遠ざかっていくのが見えた。


「見つけた!」


 後を追う陽斗だったが、光海は、すぐに近くの雑居ビルに入ってしまった。


「ここは……」


 ゲームセンターやゲームショップ、カードなどを取り扱う店が入っており、光海とも何度可来たことがあった。


『ねえねえ、ここの屋上、鍵開いてるよぉ』


『バカ、勝手に入ったら怒られるぞ』


『屋上は外なんだから、入ったらじゃなくって、出たら、でしょ』


『そういう問題じゃない!』


「アイツ、ここの屋上の事、憶えてて」


 急いで追いかけるが、1台しかないエレベーターはたった今、上に向かって動き出したようだ。


「くそっ!」


 仕方なく、階段で後を追う陽斗。


 息を切らせて屋上に出た陽斗が見たものは、白い翼を広げて、屋上の柵を乗り越えるミツミの姿だった。


「光海ぃ!」


 彼女の名前を叫びながら駆け寄る陽斗。


 しかし光海はその声になんの反応も無く、柵の外で翼を羽ばたかせる。


 あと少しという所まで近づいたとき、光海の身体からだがフワリと宙に浮いた。


「ミツ……」


 絶句する陽斗。


 しかし、すぐに光海はガクンと体勢をくずし、落下し始める。


 陽斗は柵を飛び越え、左手で柵を掴み、右手で落下し始めた光海の右足首を掴む。


「ミツ!しっかりしろ!!」


「え?! アレ、あたしどうして……?! うえぇぇぇぇぇぇっ?!」


 自分の状況に気づいた光海は、うめくような悲鳴をあげる。


「絶対に引っ張り上げるから、お前もしっかりしろぉ!!」


「パンツ! パンツ見えてるうぅぅぅ!!」


「このさい、いいだろそのくらい!」


「良くない! 全然よくない!! そうか……空を飛ぶならパンツの事も考えなきゃ……」


「いや、飛ぶならズボンにしろよ。って何の話だ!!」




 その後、なんとか光海を引き上げ、柵に掴まりひと呼吸置いていた2人。


「なんであんな事を……」


「わかんない、なんだか空が呼んでいるような気がして。そしたらだんだん、飛べるような気がしてきて……」


「帰ろう、お前が行くのは空なんかじゃないから」


「うん……」


 アレ?


 光海を引き上げる事で、陽斗の両手の握力は限界だった。


 スルリと手が柵から離れ落下していく陽斗。


「くそっ、詰めが甘かったか……。でも、光海を助けられたし……?!」 


「陽斗ぉぉぉぉ! このドジっ子!!」


「何やってんだお前!」


「何やってんだはコッチのセリフよ!!」


 先程一瞬見せた、飛ぶ力を使ったのか、光海は陽斗に追いつき、彼をしっかりと抱きしめる。


「ふんぬ〜」


 気合を入れて翼を羽ばたかせるが、飛ぶには程遠い。


「ミツ、さっき一瞬飛んだ時、そんなふうにバタバタしていなかった。もっとこう、優雅な感じに羽ばたいていた」


「優雅って、あたしが一番苦手なヤツ……」


「だろうな」


「うるさい、余計な事言うな!」


「落ち着け、もしためだっら俺も一緒にいってやるから……」


「陽斗……」


「ミツ……」


「あたしにも選ぶ権利ってあると思うんだけど……」


「よし、お前だけいけ」


「冗談だってば〜」


 その時、陽斗が光海を抱きしめる。


 自分が少しでもクッションになって、彼女を守るために。


「ハル……」


 その姿を見て言葉をつまらせた時、2人の落下が止まった。


「綺麗だな……」


 光海の背中で優雅に羽ばたく翼を見て、陽斗は呟いた。




「いや〜、あたしって凄いんだね。飛べちゃうんだもん」


「って言うか、羽、デカくなってないか?!」


 陽斗の言うとおり、少し前まではたたんだ時の羽の先端が腰までだったのが、今は膝のあたりまできている。


「これはもう、大天使ミツミエルね」


「けど、これ以上大きくなったら、次麺にらないか?」


「それは嫌、そうなったら陽斗が羽、かついでよ」


「どうしてそうなるんだ!」


「だってほら、女子高生の羽、モフり放題よ? こんなチャンスもう二度とないかもよ?」


「うっ」


 確かに、あの時の美しい翼に自由に触れられるという誘い文句にはかれる物があった。


「あっ、本当に考えてる。キモ!」


「なんだよ……?!」


 気がつくと、光海の羽が陽斗を包み込むように密着している。


「べつに、このくらいならいつだってやってあげてもいいわよ……」


「……なあ、ミツ。もし飛ぶ練習とかするなら、安全な場所でやれよ」


「えっ、ああ。うん……」


「それと、なるべくなら1人でやるなよ? またトランス状態みたいになったら危ないからな……。俺で良ければいつでも付き合うし……」


「えっ?! それって味噌汁作ってくれ的な!」


「なんでそうなるんだ!」


「あははは……。違うんかい……」


「あっ、いや……。暖かいな、お前の羽」


「えっ、ああ。そりゃあ大天使の羽毛100%ですからねぇ」


『なんだそりゃ』


 そんな他愛もない話をしながら、2人は家路につく。 

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