雪の街にて

白く染まる君と街

 歩く。

 灰色の雲の下、白い欠片が舞い降りてくる。

 歩く。

 冷たく積もる道の上、白い息を吐きながら。


 白く冷たい道に、足跡を置き去りにして歩いていく。

 昼なのに薄暗い街角。空には分厚い灰色の壁。

 太陽からの応答は無し。

 視界をチラつく白いノイズ。


 音もなく落ちてゆく白い雪。

 黒い傘の下、ただ、無言で歩き続ける。

 墜落した空の欠片で埋め尽くされた道は少しだけ歩きづらい。

 ふと、うつむくように下を見ていた顔を上げる。


 白い風景の中に、紺色が混じっていた。

 白い斑点が混じった紺色の制服を着た彼女。

 折りたたまれたままの傘を手に、丸い眼鏡の向こうにある灰色の雲をながめている。


 少しだけ、足を速くする。

 こちらに気づいた彼女の黒くて真っ直ぐな髪がふわりと動く。

 眼鏡の奥と目が合う。


「よっ」


 彼女は片手を軽く上げた。

 そばに寄って、彼女の上を傘で覆う。


「傘持ってるんだからさしなよ」

「いいじゃないか。この空を見なよ」


 彼女は黒い傘の向こうを見ていた。

 そのまま何かに感心したように口を開く。


「神様のフケがこんなに」

「なんでやねん」


 歩き出した彼女の後ろを、追いかけるようについていく。

 人通りのない道を、白く埋まる道を歩いていく。

 自動販売機の前で、彼女は立ち止まった。


「何か飲むか? おごるぞ」

「いや、自分で払うよ」

「遠慮するな。私の生き様を見せてやるから見物料だ」

「それなら払うのこっちじゃない?」

「えいや!」


 彼女は複数のボタンを同時に押した。

 よく冷えた炭酸飲料が取り出し口に落下する。


「限りなくハズレに近い当たりだな」

「無理矢理が過ぎる」

「じゃあお前の番だ、生き様を見せてみろ」


 冷たい炭酸飲料を右手と左手で往復させながら彼女は笑っている。

 彼女の視線を受けながら、あたたかいミルクティーのボタンを押した。


「限りなく当たりに近いハズレだな」

「難癖が過ぎる」


 自動販売機のそばにたたずむ彼女は、冷たい炭酸飲料を一口飲んで固まっている。

 そのあと、白く湯気が立ち昇るミルクティーの缶をじっと見つめていた。


「……飲む?」

「いや、不要だ。これは私の選んだ人生なのだから」

「大げさが過ぎる」


 両手で挟んだ冷たい炭酸飲料をチビチビ飲んでいる彼女の周囲が急に明るくなる。

 見上げると、灰色の分厚い雲の隙間から、青い空とまぶしい太陽が覗いていた。

 沈むように静かに白く積もる雪が、キラキラと騒がしく光っている。


「見ろ、やはり私は正しかった」


 陽の光を一身に受ける彼女は、腰に手を当てて缶の中身を飲み干した。

 灰色の雲は蠢くように隙間を埋める。青い空と太陽はどこかへと去っていった。

 キラキラと騒がしかった彼女の周囲は、沈むように静かになる。

 風が吹いて、細かい雪が彼女に叩きつけられた。


「……次は勝つ」

「不屈が過ぎる」


 彼女の顔色が雪のように白く染まる。


「……腹部に違和感がある」

「社会的に敗北する前に帰ろうよ」


 黙ったまま彼女は足早に歩き出す。

 歩き出した彼女の後ろを、追いかけるようについていく。

 ここは白い街角、灰色に染まる薄暗い空の下。

 雪の街にて。

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雪の街にて @marucyst

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