放課後の聖域、君のネイルと僕の推し

佐々木ぽんず@初投稿

放課後の聖域、君のネイルと僕の推し

「一ノ瀬、ちょっといい?」

 放課後の教室。オタク仲間の友人とスマホの画面を囲んでいた僕の背中に、冷ややかな声が突き刺さった。


 振り返ると、そこにはクラスの派手めグループの筆頭、神崎 莉奈(かんざき りな)が立っていた。


 長い茶髪に、少し短めのスカート。僕みたいな地味なオタクとは一生縁がないはずの存在だ。

「え、あ、はい。何かな、神崎さん」

「いいから、ちょっと来て」

 有無を言わせぬ勢いで、僕は空き教室へと連行された。


 二人きり。ドアが閉まる音に心臓が跳ねる。「カツアゲ?」なんて最悪の想像が脳裏をよぎったが、彼女はカバンから意外なものを取り出した。

「これ、さっきの。イベント限定のクリアファイル、だよね?」

差し出されたのは、僕がカバンに大切に忍ばせていたはずの、深夜アニメの推しキャラグッズだった。

どうやら落としてしまったらしい。

「あ、ありがとう! 探してたんだ」

「一ノ瀬くんも、これ好きなの?」


​ 莉奈の声から刺々しさが消え、代わりに微かな期待が混じる。

 彼女は自分のスマホを僕に見せた。その待ち受け画面には、僕が持っているものと同じキャラの、さらにマニアックな公式イラストが設定されていた。

「え…神崎さんも、これ見てるの?」

「悪い? ギャルが深夜アニメ見て」

 莉奈はふいっと顔を背けたが、隠しきれない照れで耳まで真っ赤になっていた。

 クラスでは「流行りのメイクが趣味」と言っている彼女の、これが本当の姿だった。

「いや、全然! そのキャラの良さを語れる相手、クラスにいないと思ってたから、すごく嬉しい」

「本当に? 私も、ずっと隠してたから」

 莉奈は少しずつ、緊張を解くように僕の隣に座った。

 彼女の手元に目を向けると、派手なネイルアートのなかに一箇所だけ、そのキャラをイメージしたカラーのストーンが置かれていることに気づいた。

「そのネイル、もしかして」

「あ、気づいた? これ、推しカラー !わかる人にしかわかんないようにしてるの。内緒だよ?」

​ 

そう言って悪戯っぽく笑う彼女。その距離が、いつの間にかぐっと近くなっている。


 クラスの「女王様」としての顔ではなく、同じ熱量を持った一人の女の子としての顔。


​「ねえ、一ノ瀬くん。今日の最新話、一緒に見てから帰らない? 一人で見るより、誰かと叫びたいシーンがあるんだけど」

 小さなスマホを二人で覗き込む。

 重なる肩から、彼女の熱が伝わってくる。


 僕たちの放課後の「聖域」は、こうしてひっそりと、けれど最高に熱く始まった。

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