罪と罰





コンコン、とドアが鳴る。


「どうぞ〜」


入ってきたのは、

可愛らしい二十代前半の加奈子さんだった。


狭くも広くもない事務所。

ソファに座ってもらい、

テーブル越しに正面から話を聞く。


「どうなされました?」


加奈子さんは、少し声を落として言った。


「みんなに……見られてるような気がして。

 仕事でも、街でも……」


視線、か。


「家ではどうです?一人でいる時は」


「それは……ない、ですけど」



――その時。



加奈子さんの両肩から、

まつ毛の長い目玉が、ぬるりと生えてきた。


「……罪よ、ァァァ罪よ……」


囁きながら、

キョロキョロと周囲を見回している。


……ああ。

私は思わず目を見開いた。


「珍しいな」


最近は、あまり見ない。もう古い部類だろう。


――成るシスと。(なるしすと)


心の中で名前を呼ぶ、自分がイケている、

可愛い、美しい、そう信じたい時に、

よく憑く。周りは、

そこまで見ていないのだが。


「見てる」「見られてる」

そう思い込ませる。


あの目玉が、全部センサーだ。


……うん。正直、ウザい。


見てないから、見てるのは、お前だ。

私は平静を装って言った。


「大丈夫です。だいたい分かりました」


加奈子さんは、

どこか陶酔したような顔で言う。


「緑屋さんも……私のこと、

 そんな目で見るんですね?」


……きた。


本気で、うっとおしい。


「加奈子さん。まず、目を閉じて下さい」


「……分かりました」


まるで誓いのキスでも待つように、

少し顎を上げて、目を閉じる。

私は、静かに後ろへ回った。

加奈子さんと、両肩の目玉が、

こちらを見上げている。


「――ブチっ」


両肩から、目玉を引き抜く。

そのまま、壁に投げる。


「ビタン」


弱々しく、


「罪よ……」


と囁く目玉を、トイレに流した。


――ゴボ。


私は手を洗い、席に戻る。


「終わりました」


加奈子さんは、

きょとんとした顔で瞬きをした。


「……あれ?なんだか、

 楽になった気がします」


「そうでしょう」


私は、淡々と答えた。


「罪だったのは、あれの方ですから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る