真実の獣(ケモノ)

Tom Eny

真実の獣

真実の獣(ケモノ)


両親は不格好なほど平凡だった。その間にあって、彫りの深い私の容姿は、まるで異邦人のように浮いていた。人々は私を「奇跡の子」と呼んだ。その眼差しに含まれる、血の繋がりの欠落を疑う毒を、私は幼心に嗅ぎ取っていた。 私たちは、張り子の笑顔で築いた城の中で暮らしていた。父と母の抱擁が、守るためのものか、隠すためのものか、当時の私にはわからなかった。


城が崩れたのは、十歳の春。 象の放った飛沫を浴びた瞬間、鼻の奥で軟骨が軋む音がした。皮膚が熱い石灰を塗られたように腫れ上がる。翌朝、鏡の中にいたのは、灰色のざらついた皮膚と、重く垂れ下がった異形だった。


母が隣人に「この子は少し成長が早すぎるだけよ」と顔を引き攣らせて笑った。その瞬間、鼻はさらなる質量を伴って地面へと伸びた。


鼻は、沈黙したまま私の内側を暴き立てる。「僕は、人間だ」と念じるたびに、鼻は太く、長く、私を地面へと縫い止めた。家族が偽装を重ねるほど、私の顔面には真実からの距離が刻まれていった。


鋭敏になった嗅覚が、近隣の嫉妬や教師の蔑みを拾い上げる。そして愛する両親の体から立ち上る、腐った蜜のような匂い。人々の欺瞞を嗅ぎ当てるたび、脳を直接灼かれるような頭痛に悶えた。


学校で「皮膚の色がおかしいぞ!」と指を差された。 反射的に「みんなと同じだ!」と心で叫ぶ。 身体が内側から沸騰し、肌が校舎の壁と同じ無機質な灰色に変色した。周囲に溶け込もうとする意志そのものが、カメレオンの皮膚となって現れたのだ。


逃げたかった。卑屈な視線が届かない、もっと遠くへ。 脊椎が引き剥がされるような激痛とともに、視界が急速に上昇した。首は屋根を突き破り、私は月光の下で、物理的に社会から切り離された。


高い視点から見下ろすと、人間たちの営みは滑稽なミニチュアの行列に見えた。地上で蠢く苦痛も怒りも、遠い塵のようなものだ。 父が震える指で受話器を握っている。「この子は病気なんだ、隔離して治療が必要なんだ」。かつて私を愛おしそうに呼んだその声は、湿った地下室の底から響くノイズに変わっていた。


不意に、メキメキと乾いた音が響いた。 灰色の皮も、定まらない体色も、古い服のように裂けていく。下から現れたのは、真珠層のように滑らかで、月の光を冷たく撥ね返すヘビの皮膚だった。 脳に氷を流し込まれたような、鋭い静寂。かつての「愛されたい」という渇きは、脱ぎ捨てた皮とともに屋根の上で乾いていった。


「お父さん、もういいんだ」 声は自分のものではないように滑らかに響く。 「僕がこの世界を書き換えればいい。誰もが嘘をつけない世界を」


その時、一滴の熱い雫が鱗に落ちた。 足元に縋り付いた母の、溢れた涙。それは絶対零度の氷に落とされた熱鉄のように、私の皮膚をジリリと焼いた。母の嗚咽が、無機質な知恵を揺さぶり、非論理的な熱となって私を貫く。


「……ごめんね。美しくなんてなくていい。神様なんて、支配者なんて、あなたには似合わないわ」 母は化粧の剥げた顔を、冷たい肌に押し当てた。 「あなたは、ただの、私の不細工で愛しい子なのよ」


内側で何かが決定的に砕けた。 真珠の皮膚が剥がれ落ち、天を突いていた首が、重力を思い出したようにしなった。 鼻が吸い込んだのは、嘘の匂いではない。生きている人間が流す、血と同じ温度の匂いだった。


視界が急激に落ちる。屋根の上から、埃っぽい畳の上へ。 腕の中に残されたのは、どこまでも頼りなく、汗ばんだ、柔らかな肌だった。


数週間後、私たちは再び動物園を訪れた。 象舎の前で、私はしっかりと大地を踏みしめ、象に手を振った。もう、風景に紛れる必要はない。 キリン舎の前でも、私はもう空を見上げなかった。


そこには、泣き腫らした顔で笑う、世界で一番不格好な両親がいる。 その不完全さを、私は何よりも美しいと思った。


「お父さん、お母さん」


振り向いた二人の瞳に映る私は、もう、何者でもなかった。


【AI補助利用】

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真実の獣(ケモノ) Tom Eny @tom_eny

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