ネオンライトは今日も点く

夏雲 雨水

ネオンライトのお店


「ようやく終わった〜。今日もお疲れ様、俺」


 とある県のとある街のとある社会人の話。

 年末も変わらず仕事は入ってくる。

 いつもより仕事が多く残業が長引いてしまった。家に帰るには遅く、かといってタクシーで帰るには少し心許ない金しかない。

 せっかくの華金。次の日からは休み。


「よし、飲み行くか」


 エアコンがよく効いている仕事場をあとにする。外に出ると冷たい風が体を冷ましてくれる。


 会社から少し歩くとすぐに歓楽街が広がっている。夜の街はとても煌びやかで眩しく見え、さながら誘蛾灯に引き寄せられる虫の如く自分も含め街に繰り出す。


 大人の街。居酒屋、ホスト、バー、ガルバとあまり大きな声では言えないお店が多くそれに伴っていろんな人がいる。

 駅が近いからか観光客も多く様々な服を着て歩いている。そこにスーツを着たくたびれた男が混じる程度誰も気にしないだろう。


 看板はカラフルに彩られ客を誘う。子供の頃に憧れ焦がれた此処も数年経てば慣れてしまう。未知は未知だからこそ憧れる。既知になってしまえば常識となりソレは普通になり得てしまう。


 大人は子供よりも行動が自由になり行動範囲が広がる。車、新幹線、飛行機、大人だから使える移動手段もある。確かに便利だがどこまでも使えてしまうのも困りものだろう。すぐに欲を満たせるというのも問題だな。

 

 会社の関係でバーやガルバにも連れて行かれたが初めはどの店もドキドキ緊張して入店するも数回行けばおおよそ満足してしまう。他の店に行っても大体同じような店ばっかりで変わりない。

 

「昔、夢見た街はこんなもんじゃないはずだ」


 もっと妖しく光りもっとワクワクさせる見た目をしており何より心を満たしてくれると思っていたんだ。

 変わらない。何も変わらない。


「大人ってこんなもんなのか」


 まあ仕方ない。ネガティブ思考は終わり。今は店探しをしないと。いつも行ってる店でもいいが年末は混む。せっかくなら行ったことない違う店に行くか。目まぐるしく変わり続ける看板、消える前にどこか行ってみるか。


 といっても大通りは人気店で変化はない。ならすこし外れの道を行く。穴場の店探しだ。


 ◇

 

「お?こんなところに店があるなんて」


 賑わっている大通りから外れた所に見慣れない店があった。多分初めてみる。アンティークな扉の上にネオンライトで名前が書いてある。こんなところにあったっけ?


「BAR……なのか?なかなかいい雰囲気だな。ここにするか」


 いい匂いもする。料理もしているなら最高だ。腹も減っているしな。扉を開けるとカランコロンと入店を知らせる音が鳴った。昔ながらの音で懐かしくなる。


「おや?いらっしゃーい。今日初めてのお客様だー」


 すぐに閉める。明らかに堅気とは思えない服装のおそらく店主がいた。いやでもチラッと見た感じ内装はいい感じだったし時間的にももう此処にしたほうが……


「ちょっと、ちょっとなんで閉めるんだー」


 考えていると店主が店から出てきた。俺が1人目といってたし店に入れたいんだろう。


「ほら入った入った!別に普通の店だから安心しなよ」

「本当に?あの、その服装はなんですか?」

「……あ、これ?私の趣味でね。かっこいいでしょ?黒スーツで酒を飲むのがマイブームでやってるんだ」


 …………はあ。なんだ気にしすぎか。ならここにしよう。誰もいないなら人目を気にする必要もない。ゆっくり飲める。


「改めてようこそお客様。ここはメシも提供するBARだよ。はいメニュー」

「仕事終わりで腹が減ってたんだ。見させてもらうよ」

 

 室内は薄暗く夜の店らしい雰囲気を醸し出している。店主は早速カクテルを作り自分で飲んでいる。それでいいのか……。店内にもネオンライトが飾られており他よりも照明が少ない。中は意外と広くグループが座れるソファと数人がカウンターに座れる程度だ。


「じゃあつまみとこのスペアリブの赤ワイン煮込み?を頼む。酒はおまかせで」

「結構ガッツリ食べるね。いいよ、承りましたー。じゃあねお願いねー!」


 厨房に人がいるのか大声で言っている。改めて見ると男なのか女なのかわからん顔つきだ。どっちでも通用する中性的な、誰でも惚れるような美人だ。

 黒のスーツ、淡い青の眼鏡、よく似合う黒のハット。男装ぽくもあり俳優ぽくもある。

 深夜残業で疲れきっていないと俺も惚れていたと思う。


「なぁに?ジーッと見て。私に惚れた?」

「いや惚れてない。ただ美人だと思ったんだ」

「……それ口説いてるわけじゃないの?」


 そういうわけではない。表情に出ていたのか冗談半分で言ったのかすぐに誤解は解けた。


「にしてもお客さん疲れた顔をしているね。仕事が大変なのかい?」

「年末だからな。忙しくて休む暇もないよ」

「年末?そりゃそうか。頑張ってて偉いね」

「ああ、ありがとう」


 店主は今更だが若い。黒髪のボブウルフにインナーには青が入っている。


「ん?またジロジロ見て僕が気になるかい?」

「ああ。店長はいつからここで?」

「んー。この店で働き始めたのは4、5年前かなぁ」

「意外と長いな。ここら辺の店は結構行ったつもりだったが俺もまだまだだな」

「まあ気にしない方がいいよ。そんな事もあるさ。はいまずはビールで乾杯しよっか」

「それはいいんだが料金は……」

「ああ!言ってなかったね。私が飲む分は払わなくていいよ。貴方は自分の分だけ払う。その方が気楽でしょ?ここはそういうとこなの。かんぱ〜い!」

「か、乾杯」


 そう言うないなや店主はビールを一気飲みし始めた。スーツにかかっても気にせず飲み干しおかわりを用意している。俺は呆気に取られ呆然としていた。


「店長さん大丈夫なのか?」

「大丈夫大丈夫。僕、酒に強いから」

「そうか。ならいいか」


 飲むと仕事疲れに酒がよく効く。空腹の胃にアルコールが来ると直ぐに酔い始める。いい気分だ。


「これつまみね。うちの店はナッツとサラミだよ」

「うんうん。燻製されてるのかとても美味いな」

「わかるかい?嬉しいねぇ」


 普通にピーナッツだとおもったら燻製アーモンドに白カビのサラミ。どちらも俺の好物だ。


「ビールよりワインの方が合いそうなつまみだな。次は赤ワインを頼むよ」

「よしきた。私も次はワインの気分だったんだー」


 もう飲み終わったのか速くね?まあBARの店長ならそんなものか。

 

「にしても俺以外に客が来ないな。いつもこんななのか?」

「そうだねー。1週間に1人くらいかな?」

「……あまり言っていいかわからないが経営は大丈夫なのか?」

「あんまり良くはないよ。見たまんまさ。もともと叔父の店なんだ。それを僕…私が譲り受けたのさ。やりたいことをやる。人生に悔いを残したら勿体無いだろ?」

「確かにそうだな。悔いを残すのは勿体ない」


 それが出来たらどんなに良かったことか。大学卒業後そのまま金払いのいい企業に入社。体と時間と休みを犠牲に働く毎日。先を考えると虚無感に襲われるから考えない。


「でもお兄さんは後悔してる。そうでしょ?」

「ふーー。やっぱり顔に出る?」

「いやいや。職業柄なんとなくわかるのさ。ああこの人は適当に生きてきた人だ、この人は満足して生きている人だ。ってね」

「で、おれはどんな人なんだ?」

「自分から苦労を背負いこむ人。周りから頼られていると思っているけどただ押し付けられている人。身に覚えあるでしょ?」


 …………。そ、れは、あるわけない。はずだ……。


「やっぱりあるんじゃん。どうりでこの店が認識・・・・わかるはずだよ。」

「それはどう言う意味だ?」

「気になる?そうだよね、私も言われた時信じられなかったもん。この店は人生を損してる人がくる店なのさ」

「は?なんだそれ」

「言葉どおりさ。もっと自分を主張すれば!もっと感情のままに行動していれば!一歩踏み出せなかった人しか来ることができない呪いをかけられているらしいよ」


 最近なぜか仕事量が増えた。周りの同期の仕事量はなぜか減っていた。それなりに付き合いはあった。気のせいだと思っていたがこの店長の言うことが本当なら増えていたのか。一歩踏み出して言えば良かったのか。


「ああ。ならあんたの言うとおりだ。俺はいつも消極的で頼まれがちだ。よくないとわかっていながらそのままにしている」

「まあ私にはあまり関係ないけどね。何かあればすぐに行動するしはっきり言う」

「ねえ、人生って楽しく生きるためにあるんだよ?」


 わかっている。わかっているさ、そんなこと。


「お兄さん、ちょっとだけおまじないをかけようか」

「いやあまりそういうの信じないし……」

「まあいーからいーから」


 店長はそういうとカウンターから抜け出し片手にクソデカハイボールを持ちながら千鳥足でこちらに向かって来る。落としそうで普通に怖いんだが。


「えーと、なんだっけ?額に指をー?」

「え、なに?なにする気だ?」

「ああ!思い出した!」


 そう言うとおでこに綺麗な指を当て丸を描くように回し始めた。くすぐったいが諦めるまで好きにさせる。


「そしてー、えいっ!」

「いたっ!デコピン!?それにしては力が強いが…」


 思ったよりも痛かったが怒るようなことじゃない。酒飲みのおかしな行動でもマシな方だからだ。それに美人からされるのは気にならない。


「あれ?なんかスッキリした。これがまじないの効果なのか!?ありがとう!」


 ビックリするほど体が良い。目はパッチリ開くし肩こりも無くなった気がする。酔いも含めてとても良い気分だ。

 まるで子供の時のような自由な感覚だ。


「え?なにそれ知らん。叔父さんのを見よう見まねでしただけだけど」


 え?なにをしたんだ?

「ちゃんと効いて良かった〜。前失敗した客だと発狂?したり目から血が出てたから」


 え???なにをしてくれてやがるんだ???


「あんたそんな危険な事を俺に!?」

「まあまあ。そんな人達も今は元気に生活してるから大丈夫だって。元気すぎるけど……」


 あーもう!気にしてられないよ!酒だ!気にならないくらい酔わせてくれ!


「ごめんって。はいハイボール」

「いやこれアンタのだろ」

「いや?君の分だよ?」


 手に持ちたるは1リットルは入るジョッキ。それが2つに増えていた。ひとつは満タン、ひとつはもう少しで空になる。店長飲み過ぎだろ。


「嫌なことがあったら酒を飲んで忘れるのが1番!」

「アンタがそれ言うなよ!まあ飲むけどさ」


 まだ飯も食ってないのに全部は無理だ。というかそんなに腹に入らない。


「あ、そういえばスペアリブ出来てるけど食べる?」

「出来てんのかよ!食べる食べる!」


 ◇

 

「……で、アンタも食うのか」

「もちろん。私も食べたかったし。それに誰かと一緒に食べた方が美味しく感じるでしょ?」


 そんな笑顔で言うなよ。あと隣に座るな。自由奔放すぎるだろ。言いかけたところで口をつぐむ。


「言いなよ。それが貴方の悪いところ。変わる変わらないに関わらずまずは話そうよ」

「それを見越してこんな近距離なのか。まあ努力するよ、ありがとう」


 その答えで満足そうに頷いている。いますぐ変えるのは難しい。でもこの人に言われ認識するとなんか出来そうなんだよな。


「とりあえず食べようか。いただきまーっす!」

「いただきます」


 誰かと一緒に食事を摂るのも久しぶりだ。おかげでいつもより美味しく感じる。スペアリブも味に深みがあり噛むごとに肉汁が喉を通る。一緒についてきたマッシュポテトと食べるのも絶品だ。


「相変わらずおいしー!!」

「んむ?店長の言い方的に叔父さんの時からこの味なのか?」

「そうだよ。あと私のことは店長じゃなくてよいちゃんって呼んで。友達からはそう呼ばれてるから」

「……宵さんで勘弁してくれ。ちゃん呼びは俺が言いづらい」

「せっかく飲んでるんだ。店長呼びは堅苦しいからねー。貴方の名前は?」

佐藤さとうれん。ありきたりな名前だよ」


 全国的に大人気の苗字「佐藤」に結構多い名前の「蓮」。今どきのキラキラネームじゃないのが救いだ。

 そこは親に感謝できる点でもある。


「良い名前じゃん。かっこいいと思うよ」

「おお、お世辞でも思ったよりも嬉しいな。少し酔い過ぎたか」


 普段よりも飲んでいるせいかかなり緩んでいる気がする。こんな美人と話して食事もして夢か?夢なのか?


「夢みたいだ。楽しくてしょうがない。現実は辛いはずなのに……」

「夢でもいいじゃん。楽しいならなんでも。生きてるだけで人は偉いんだから。大人になると出来て当たり前で出来ない人は下に見られる。変な話だよねー、誰だってはじめは初心者なのにそれを忘れるなんて」


 都合良いよね、そう言い最後の肉を頬張る。その顔は悲しみを帯びていて何か重みがあった。

 宵さんも叔父さんに此処を任される前に何かあったのだろう。深く聞くにはまだ知り合った今は少しはやい。

 だから今は、


「不肖この佐藤蓮、この1リットルはありそうなハイボールを一気飲みしまーす!!」

「え!?それ残してもいいのに!あ……飲んじゃった……」


 ふーー。…………流石に酒パワーで胃が拡張されてもきつい。呆然とした顔を見れたのでいいか。


「うぷっ。…まだ少ししか知らんけどアンタは笑ってた方がいい。人生は楽しく生きたもん勝ち、だろ?」

「は、はは…アハハハハ!!!それ言うために一気飲みしたの!?あー、おかしー!おもろーー!!!」


 そんなにおかしいことでもないだろうに。悲しんでいる奴がいたら笑わせる。当たり前のことだろう。

 それよりやり過ぎた。腹がきつい。


「あー笑った。蓮君は面白いねー」

「ふーー、ふーー、え?なんだって?」


 集中しているから聞いていなかった。周りに誰もいないから出来る芸当だ。囃し立てられるのとか苦手だし。それよりもなんか言ったか?


「それが本来の君か。うん、いいね。とてもいい。優しいね」

「よく言われるよ。いまだに彼女が出来ないのが不思議だって」

「あー、まあそこは相性の問題だからね。この店に来る人も意外とその問題でくるね」


 えーと確か、一歩踏み出せなかった人しか来れない、だっけ?恋愛は特に多そうだしなー。


「俺はそこまで深刻に思っていないよ。そもそもそこまで興味ないしね」

「おや。でも周りから言われているから仕方なく、そんなところかい?」

「そうなんだよ。いつまで独り身なんだ、そろそろ結婚しろって言われてさ」


 仕事はつらい。それとは別で家族からの期待もきつい。なまじまともな家庭な分、常識に沿った考えだ。

 時代というよりは自分達の年齢ならしていた。だから言ってくるんだろう。たちが悪い。


「ふーん。めんどうだね。酒…はもう飲めなさそうだね。なら少し待ってて」


 そう言い宵さんはカウンターの奥に引っ込んだ。すぐにガチャガチャと音がして帰ってくる。手には何かの食べ物?なんだこれ?


「これはねー、消化を助ける薬だよ。危険はないから大丈夫だよー。はい口開けてー」

「普通の薬なら危険はないって言わないだろ!おま、ちょっ、やめろーーー!!!」


 力強ッ!そんな黒い玉の薬なんて見たことないが!?親指くらい大きいのを無理やり……


「ちなみにこれは噛んで飲むタイプだね。意外と美味しんだよ?」

「あ、ほんとだ。じゃなくて!」


 なんで飲ませたんだ。あれ?お腹が……キツくない?ん?酔いも覚めた?そんな即効性ある?


「すぐ効いたでしょ。滅多に出回らない貴重な物だからね」

「そんなものを俺に?もったいなくないか?」

「?僕を慰めようとしたじゃん?僕はアレで救われた。お返しだよ。あ、私だ」


 無理して一人称変えてるのは見栄えのためなのはわかったから。中身を知った分より惹きつけられる。


「そんな理由か」

「うん。そんな理由」


 ……………………ぷっ、


「「ははははは!!!」」


 なぜか無性に楽しい。酒を注ぎ注がれまた楽しく取るに足らない雑談をする。褒めて褒められて笑いあう。

 思ったよりも長く短いひととき。久しく笑うなんてしていなかったからか頬が痛くなる。それを見て笑われて笑う。


 ◇


 


「蓮君、もうそろそろ朝になる。時間だ」

「もうそんな時間か。あっという間だな」


 もうすぐ夜が明け朝日が昇る。外を見ればまだ薄暗いがチラホラ人も歩いている。夜の街は終わり休息を取る。そしてまた夜に人を誘い込むだろう。


「だんだん行くか。今日から休みでよかったー」

「年末だもんね。よかったじゃん」


 俺は泥酔、宵さんは薬を飲んでいないがまだ全然酔っていない。肝臓がめっちゃ強いらしく一度も潰れたことがないそうだ。


「今回此処に来れてよかった。ありがとう。決心がついたよ」

「一歩踏み出せそうかい?」

「ああ。もう大丈夫だ」

 

 うーーん。体が軽い。おまじないの効果はまだ続いているらしい。おかげで面倒くさがらずに行動できそうだ。


「そろそろ行くよ。……ちなみにいくらくらい?」


 完璧に金がないのを忘れていた!やっべ、万札は……あるな、よし。


「ああ、覚えてないのかい?酔った勢いで払ったじゃないか」

「へ、そうだっけ?」

「そうそう。だからいいんだよ。その一万円は帰りの電車賃に使いなよ」


 ならいいのか。この人も結局よくわからなかったな。掴みどころがないというか、本心を出さないというか。


「聞いていいかわからなかったけど宵さんは男?女?ずっと気になってたんだけど」

「ふふ。どっちだと思う?好きな方でいいよ?」


体付きではわからない。かといって顔はどちらにも取れる顔立ちだからなんともいえないし……。

 

「………負けました」

「蓮君は性別で態度を変えるのかい?」

「単純に気になっただけだ。他意はないんだ」

「うん。知ってるよ。それも酔ってる時聞いてたし」


 酔った時の俺は他に何を聞いたんだ!?なんでそんなニヤニヤしてるんだ。楽しみやがって。


「ほらもう行きなよ。電車が来る時間だろ?」

「本当だ。また来るからな!!」

「また来てね。BARトワイライトをご贔屓にね〜」


 そう言い見送ってくれる。店を出るともう日の出が昇り始めている。綺麗な空、快晴だ。


えんがあればまた会えるさ。頑張れ蓮君」

「ああ、ありが……と……」


 振り向けばそこにネオンライトの看板とアンティークな扉は無く暗い路地裏が存在していた。

 思考が停止する。さっきまであった店は?なんでないんだ?宵さんは?まとまらない。あんなに楽しかったのに。全部夢だったのか?本当に?


 でも頑張れる理由にはなっただろう?


 体は軽く、腹も満たされているのは確かだ。例え夢の出来事だったとしても俺は確かに決めたはずだ。

 自然と一歩踏み出す。また一歩、歩き出す。


「もしもし先輩ですか?佐藤蓮です。……はい。初日から申し訳ないんですけど辞めさせてもらいます」

『は?いきなり何言って………』


 スッキリしたーー。これからどうするかは決めてないがどうにかなるでしょ。


「人生は楽しんで生きないとな」


 次の仕事は楽しめそうなのにしよう。

 いい連休を過ごせそうだ。


 ◇


 

「あーあ、行っちゃった。いつも慣れないな」


 蓮君が行っちゃった。最後に振り返ったぽいけどもういないんだよ。ごめんね?この店は神出鬼没が売りなんだ。


「少し隠してることがあったんだ。ここは一歩踏み出せなかった人が来る、だけじゃないんだ」

「次の日に自殺する人、も追加条件にしているんだ」


 罪悪感、いや同情心かな。叔父さんから言われた時には信じることが出来なかった。初めてのお客さんにはあまり関わらなかったから次の日の新聞では驚愕した。私は分かっていたのに私のせいで死んでしまった。


 パワハラのせいだったと書いてあったがこの店に来たのならそういうことだ。かつての私と同じ境遇の人だったのに。だからその後来た人達には生きて欲しいから元気つけて生きてもらう。

 そのためのトワイライト。日が沈み昇るまでしか存在出来ない不思議な店。


「そういえば貴方もいたんだったね。おつかれ、ぼたん」

「いや〜そこまででもあらへんよ。肉出してからはゆっくりさせてもらったさかい」


 厨房スタッフのぼたん。料理人で茶髪の美人お姉さん。なんでも作れる凄腕だ。この店にも詳しいが私には教えてくれない。


「今回の兄さんはどうやった?」

「たぶん大丈夫じゃないかな。疲れてはいたようだけど元気に帰って行ったよ。もう会えないのが残念だよ」


 一度ここに来た人は二度と来ることはない。これは絶対のルールらしい。叔父さんもぼたんも言っていた。残念でならないな。仲良くなっても会えないのは。


「そうなんかー。あれ?ここにあった薬は?どこいったん?」

「あの黒いのは蓮君に飲ませたよ。ハイボール一気飲みしててね。それで」

「え!?飲ませたん!?」


 なにか不味かっただろうか?普通に私も美味しいから飲んでいるんだけど……。


「あれはこの店に来れる許可証みたいなもんや。飲めば確かに効くけどな。その人はまた来れるようになってしもうたよ!?」

「また会えるの!ならいいんじゃ」

「そんかわりにな?よいちゃんはこの店から弾かれるよ?」


 え?初めて聞いたんだけど?


「あんたの叔父さんから言われとるやろ?絶対にお客様に飲ませてはいけないって。飲ませる相手は結婚相手だけって」

「聞いてない……。そんなの聞いてないよ!」

「あんた店任されてウキウキしとったやろ。話なんかほとんど覚えてなかったじゃん」


 うぐっ。それを言われると何もいえない……。じゃなくて結婚相手!?あの人を!?


「わては店に尽くすだけやさかい店長は誰でもいいんよ。頑張ってな〜」

「そ、そんなー」

「まあ悲観することもないやろ。なかなか珍しい性格やったし悪い縁でもあらへん。それに」

「それに?」

「1年は猶予があるんよ。叔父さんも1年間は教えてくれたやろ?期間中は店は固定されるからその人を1年で堕として連れてきな」


 恋愛経験なんかろくに積んだ事ないのに出来るわけないよ。でもこの店を離れるのは考えられないし。


「まあ、うん。頑張れるよ。楽しく生きたいし」

「その意気や!はいお小遣い。はいおまじない!」

「なにこれ?」

「その人に会えるおまじないや。そこら辺ぶらぶらしてれば会えるで。気張りや!」


 はあ人生何があるか分からないね。まあ面白いからいっか!

 

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ネオンライトは今日も点く 夏雲 雨水 @natukumo_usui

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