大盾のライズ
ライズは変わった冒険者だ。
多くの者が己の武器は何だ、と聞かれれば、剣や槍など敵を倒す道具の名前を言うだろう。
しかし、その男は己の武器を盾という。
背中を覆うほど大きな盾は、その歩く姿が誰なのかを一目でわからせる。
「大盾のライズ」
そう呼ばれる彼は今日も臨時パーティで依頼を受けたのだろう。感謝の言葉をもらいながら、パーティから離脱する。
離脱したパーティが皆で楽しく酒を飲む中、ライズは一人静かに酒を飲む。
今日もまたここに来てしまった。そう思う。
毎晩この酒が最後の酒だと思って飲むが、その最後が更新される。
あたりの喧騒に紛れてしまうほどの小さな声で。
「また今日も帰ってきてしまったな」
そう呟く。
彼が敵の前に立つ理由。それは単純だった。
誰かが、何かが、殺してくれることを期待してだった。
だが、彼は強かった。どんな敵も彼を越えられず、いつもこうして酒を飲んでいる。
死にたいなら盾を捨てればいい。
だが、彼にとって盾を捨てるということは、それほど簡単にできる問題ではなかった。
「師匠……俺はどうすればいいんだ?」
今は亡き、かつての恩師を思い出す。
しかし決まって最後は、必ずあの血まみれの顔で師匠は笑ってしまう。
俺が殺してしまった師匠が。
そんな雰囲気を全く気にせず、一人の男がライズに声をかける。
「兄貴!ようやく見つけた!良かったよ。まだ生きてて」
その男は断りもせずライズの正面に座った。
一人静かに飲んでいたライズにとって、その男は完全に邪魔なだけである。
「誰だ?俺に兄弟はいない。人違いだろう」
一瞥もくれずに話は終わりだ、とライズはまた一人静かにグラスを傾ける。
男は一瞬挫けそうになるが。
「いやいやいや、兄貴。僕のこと覚えてないの?ニコだよ、ニコ!ほら、小さい頃は一緒に……」
その言葉に、ライズは眉をしかめる。彼が誰かなどライズが知らないわけがない。ただ彼と話をする気がなかっただけだ。
「その話はやめろ、ニコ。酒がまずくなる」
そう言ってグラスを置く。
「なんの用だ?わざわざこんなとこまで来て、盾しか持てない俺を笑いに来たのか?」
「わざわざそんなことすると思うの?こんなとこまで来て。ちょっとは懐かしんでもいいんじゃない?僕はもう兄貴のことが心配で...あの事件の後、急にいなくなっちゃうから...でも、これだけは言える。会いたかったよ。ライズ兄ちゃん」
そう言ってこちらへ向けてくる笑顔は、彼の童顔がなせる技か、当時のことをより鮮明に思い起こさせる。
ニコと呼ばれた男は、ちょうど少年から青年に変貌を遂げようとしている。まさに成長中といった感じだ。
童顔で背もそこまで高くない彼は、実際よりも若く見られがちであり、少し気にしているらしい。
ライズとニコは同じ村に住む少年同士だった。
年もそれほど離れていない二人は自然と仲が深くなり、共に過ごすことが多くなっていく。周囲の大人たちも二人を見て、本当の兄弟のようだね、とよく言われていた。
ライズはニコに剣を教えたり、共に釣りをしたり、また勉学を学んだり。いつも一緒にいた。
いつしか彼はライズのことを兄ちゃんと呼ぶようになり、それが成長するにつれ、兄貴と呼んでくるようになった。
あの日までは...
肉を切る感触がする。
骨を断つ感触がする。
やめろ...やめてくれ!
ライズは思わずテーブルを殴った。
テーブルしか殴れなかった。
殴りたいものはもっと別のことなのに…
大きな音が鳴ったため、周囲の注目が集まる。
ライズは気にしていなかったが、店内の視線が一斉に向けられた。
「すまん、ニコ。せっかく来てくれたのに悪いな。お前と思い出を語ることはなさそうだ」
ライズは立ち上がる。
「もっとも、俺に思い出したい過去なんてあるはずもないがな」
「兄貴...」
「ではな、ニコ。久しぶりに顔が見れてよかったよ」
そう言って、一度ニコの肩に手を置き、背中を見せて歩き去っていくライズ。
そんな彼を見てニコは苦笑いをするしかなかった。
昔はあんな人じゃなかったのに。
そう思いながら。
背中に担がれた大きな盾が、店を出る扉の向こうに消えていった。
……
かつて、ライズは笑っていた。
かつて、ライズは剣を握っていた。
かつて、ライズは……
あの日師匠を殺すまでは……
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