たまにいただく贅沢


「──それでね、今日は高いの頼んじゃおうと思って!」


「クリームいっぱい乗せてほしい……」


 乙女二人の希望は、ベリー系のスムージーだ。

 ハーブティーかどうかは疑問ではあるが、メニューにはあるので私は頷いて準備に取り掛かった。

 ハーブティーは一律で一杯銀貨一枚。

 スムージーは銀貨二枚。

 薬湯は時価。

 乙女の片方がにらめっこしている料金表に、これらがきっちり記載されている。


 三種類のベリーを水に潜らせ、きっちり水気を拭き取る。

 これだけだと甘みが少ないので、甘味が強いプルナという果実もプラス。

 真っ赤な皮だけれど、ベリーではない。

 でもクセもなく爽やかで、シャクシャクしている万能選手だ。


 私はワクワクした様子の二人の目の前に果物たちを浮かべ、氷結させていく。


「わぁ……あっという間に凍っちゃったわ!」


 キラキラと霜が降りていく様子を無邪気に喜ぶ乙女たち。

 今日はちょっと元気がない方のレダを慰める会のようだ。


「半年も音沙汰なしなんだから、いい加減諦めなってー」


「でも……」


 凍った果物を、ミスリル銀製のミキサーに入れてスイッチを押す。

 魔道具は静かな音をたて、撹拌を始めた。

 金属製のボウルに氷結魔法をかけ、生クリームを泡立て始めた私に、シュナが同意を求めてきた。


「ね、ジューンもそう思わない?」


「そうねぇ……」

 

 私は泡だて器を動かしながら、少しの間返事を考えた。

 レダの彼氏が他大陸に留学してから半年。

 一度も手紙が返って来ない、と。


「お返事が来ないと心配よね。待つ方は長く感じるものだから」


 私はそう言って、作業に戻った。

 スムージーは価格が高めなので、希望者にはサービスで生クリームを乗せているのだ。

 スムージーが主役なので、甘さはかなり抑えてある。

 カシャカシャという泡だて器の音が、店内に優しく響く。


「そう、待ってる方はね……」


 レダが力なく呟き、シュナが頷いた。


 スムージーを大きめのグラスに注ぎ、絞り袋に入れた生クリームを希望通りたっぷり乗せていくと二人は歓声を上げた。

 美味しいもので、気が晴れると良いのだけれど。

 ベリーとミントの葉を飾った完成品は、パフェのように可愛らしく仕上がった。


「わぁ、食べるのもったいないくらい可愛い!」


「ほんとね。すごくきれい」


 二人は添えられたパフェスプーンを手に取り、生クリームを攻略し始めた。


「美味しーい! ね、ジューンならこういう時どうやって待つ?」


「それ、私も聞きたいな」


 私は水魔法で器具を洗浄しつつ、二人の質問に答えた。


「エルフの私の考え方が、参考になるかはわからないけれど……私なら待つだけじゃなくて、違うことをするかな」


「違うこと?」


 レダがスムージーから視線を上げ、不思議そうに首を傾げた。


「そう。そればっかり考えてると、煮詰まっちゃうでしょ? だから、依存先を分散させるの」


「依存先──」


「何でもいいのよ。毎朝散歩するのでもいいし、好きな本を読むとか、果物の飾り切りの練習とか」


「ああ、趣味を持つってこと?」


「ええ。興味があることをやってみるのは、いい気晴らしになると思うわ」


「はぁ、スムージー美味しい。趣味、趣味かぁ……レダは何が好きなの? これ、甘すぎないのは貴重よね」


「ここらのものは何でもかんでも甘過ぎるもんね。うーん、好きなものかぁ……思いつかないな」


 (確かに砂漠地帯はね。砂糖と脂でカロリー取らないと、過酷な気候では体力がもたないものね)

 

 なので、このあたりの料理は脂っこいものが多いし甘味も限りなく甘いのだ。

 二人が賑やかに話し始めたので、私は器具を所定の位置に戻して窓から外に様子を覗いてみた。


 (なるほど、確かに砂嵐だわ)


 でも、出歩けないほどではない。

 ひどい砂嵐の時は真昼でも暗くなるけれど、今は夕焼け空が黄土色の靄の向こうに透けて見えている。


「ね、どうしてコレが銀貨二枚? 高いけど、高くないよね?」


 カウンターの中に戻った私に、シュナが話しかけてきた。

 高いけど、高くない──核心を突いている。


 砂漠地帯で新鮮な果物やハーブは貴重だし、水も氷も魔法で出せるものではあるけれど……他の地域より高値だから。


「私は自分で氷も作れるし、材料も時空魔法で保管できてるからよ」


「あ、そういう?」


「銀貨二枚は確かに価値があるものだけれど、他のお店だとこの値段では無理だと思うわ。だから高いけど、高くないって表現はピッタリね」


 レダが微笑んで、空のグラスを持ち上げた。


「確かに私には……毎日は無理な値段だけど、またお給料日にここに来たいわ」


「うんうん、次はメローナのスムージーにしよ!」


「私は美肌になるハーブティーが気になる……」


 若い女の子のお財布事情だと、頻繁には来られない。

 毎日しっかり働いても、手元に残るのは金貨二枚くらいだろう。

 銀貨にして二十枚の中から払うのだから、贅沢品扱いされてもしかたない。


 暗くなる前に帰るという二人は、笑顔でドアに向かう。


「あ、ちょこっとおさまったね。今のうちに帰らなきゃ!」


 先に出たシュナの声が聞こえてくる。

 レダはドアに手を掛けたまま、こちらを振り返って言った。


「あの、ジューンさん。──私、自分が何を好きなのか、探してみるね」


 パタン。


 店内に静けさが戻り、私はグラスを洗ってカウンターを拭き上げた。


 (今日はもう店仕舞いね。今日も楽しかったわ)

 

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2026年1月24日 19:00 毎週 土曜日 19:00

長命エルフの小さなカフェ〜今日はなに飲む?〜 藤 野乃 @fuji_nono

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