サッカーと天気とピッチコンディションと

岩田へいきち

サッカーと天気とピッチコンディションと

「ああ、やっぱり雨か。しかも本格的に降ってきやがった」


 ぼくは、滅多にサッカーの話は書かないが、お題が天気ならしょうがない。これは、プロのサッカーではなくて、育成年代、中学生の地方の弱小クラブの話だ。サッカーのインサイドパスは、転がせ、前回りに強く転がせと普段から指導している。

何故なら前回りに回ってくるボールは、受ける側が簡単にトラップできるからだ。だから普段から『ボールを浮かすな、転がせ』と言い続けている。

なのにだ、雨が降ったら台無しだ。プロが使っている短い天然芝ならまだしも、あちこちに水溜まりがあって水捌けの悪いクレー、土のグラウンドなら前回りの転がすパスを蹴ってしまったら3.4メートルも転がったら止まってしまう。バックパスでもしようもんならボールが止まって相手のフォワードにかっさらわれる。

そこで、監督としては、


『ボールはさげるな、転がすな、水溜まりでインステップキックは蹴るな、キツクは、トーキツクで。ボールは浮かせていい』


と指示を出すのだが、中学生は、そう、器用な奴ばかりでないし、頭の切り替えも効かない。最悪は話も聞いていない。ゴール前に転がった水溜まりのボールを思いっきりインステップキツクで蹴って、たった、30センチしか飛ばせず得点を逃す。 おかしくてたまらないが、普段もクレーのグラウンドが練習場の我チーム。グラウンドが荒れるからと雨の日は、使用許可がおりない。練習試合で使う場合でもそうだ。練習してないんだから急には出来ないのだ。トーキツクが蹴れない奴が大勢いる。短い時間で教えているのに普段は、使わない、使えないキツクまで練習している暇はない。


 思えば、ここ20年、練習にしろ、試合にしろ、常に天気との戦いだった。朝は晴れていても途中で雨が降り出してグラウンドが使えなさそうになければ、管理人と相談しながら部員に連絡を出さなければならない。


『雨の影響で、グラウンドが、使えなくなったので本日の練習は、ジュニア、ジュニアユース共中止にします。各自で自主トレーニングをしておいてください』


 仕事もなかなか集中出来ない。仕事を焦っている時は、パニックになりそうだ。それでも保護者からは、


『もっと早く連絡をくれ。少なくとも2時間前に』


と言われる。それが難しいのだ。相手は天気だ。中止と連絡した途端に雨が止んで晴れ上がって、練習出来たじゃんと言われたりするのだ。雨の日は、使わせてもらえないから少しでも使える日は使いたいのだ。2時前に判断するのは難しい。それでも連絡は行っているのだ。昔は、こんな便利な携帯やSNSはなかった。みんなとりあえず集まっていたのだ。もちろん、監督やコーチもだ。


練習だけではない。試合の時もだ。天気との戦いは、選手だけでなくて、監督やコーチもだ。テントがあっても風が吹けば飛ばされて危険だ。結局、テントは仕舞われ、監督もずぶ濡れになる。1番きつかったのは、5月頃だったか、凄い雨風の中、試合日程がないからとテントなし、椅子なし、ボールは蹴っても前に飛ばないような雨風。左半身麻痺のぼくは、カッパを着て、風上の方に歩いても進むことが出来ず、ハーフタイムに選手が一旦避難していた野球のベンチまで行くことが出来なかった。いくら雷以外なら雨風でもやるサッカーでもこれは酷かった。5月なのに試合が終わった時には、凍え死にそうだった。もちろん、真冬の雪が降る時もサッカーの試合は行われる。真夏のフライパンの上のような人工芝の上でもだ。正にサッカーは、天気との戦いを対戦相手以外ともやっている気がする。大会の会場へ、大雨や大雪でたどり着けないことも多くあった。

自然がバックについている天気には、人間は勝てないのだ。

ぼくは、去年の暑さの中、少子化で部員がいなくなったのもあって、6月いっぱいで25年続けていた監督とサッカーの指導を辞めた。近頃の天気は半端ない。もう勝てないよ。




終わり

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サッカーと天気とピッチコンディションと 岩田へいきち @iwatahei

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