第2話 過去に行った私
瞼を開けると、知っている天井が目に入った。
「ここは……」
知っている。ここは私の屋敷だ。だが、私の――当主の部屋ではない。代々子供部屋として使われている部屋だ。今しがた私が寝ていた寝具も、子供用の小さなベッドだ。
「おはよう、御主人様」
「うおっ!?」
唐突に声を掛けられて飛び跳ねるほど驚いた。見れば、あの青髪猫耳メイドがベッドの隣に控えていた。
「君は……セワッシが連れてきたメイドか」
「ウフフフ。ボク、
「イシユミ? 変わった名だな……」
この国では聞き馴染みのない響きだ。遠く東の国で使われている言語に似ているが、彼女はそこの出身なのだろうか。いや、出身より製造元というべきか。セワッシによれば、彼女は自律人形であるらしいからな。
自律人形。
ゴーレムの一種。動作の原理は殆ど変わらないが、概ね土塊を材料にする通常のゴーレムと違い、アンティークドールなどを素体にした物を指す。戦闘力よりも見た目の芸術性を優先した被造物だ。私の生きた時代でも既にあった代物だ。
とはいえ、弩ほど完成度の高い自律人形は見た事がない。関節こそ球体関節だが、それ以外は殆ど人間だ。未来の技術力の高さを思い知らされる。
「ボクとキミとで
「それ以上いけない」
危ない危ない。手を出してはいけないモノに手を出すところだった。よく分からないが、何故か切実にそう感じた。
「はい、鏡。これを見るのが現状把握に一番手っ取り早いと思うよ」
「う、うむ……」
弩が差し出してきた鏡には私が映っていた。ただし、四十代の私ではない。十代前半の私だ。若いというよりも幼いというべき年齢だ。二十五年以上前の私だ。
「二周目の人生か……」
まさかセワッシの話が真実だったとは。荒唐無稽だと鼻で嗤ったが、こうして実体験してしまうと信じるより他はない。
「であれば、あ奴の執念に報いなければならんな」
我が子孫が命懸けで繋いでくれたのだ。彼の必死を無駄にする訳にはいかない。
「おっ、意外にもやる気だねえ。結構結構」
「当然だ。……ああ、まず寝間着から着替えなくてはな。そこの眼鏡を取ってくれ」
「これ? はい」
弩がベッド脇のテーブルの上にある眼鏡を私に手渡す。この時代、眼鏡は最新技術の賜物だ。遠視・老眼用の眼鏡は昔からあったが、近視用の眼鏡が発明されたのは数十年前だ。ガラスの加工技術の向上によって庶民にも流通してきたのがつい最近である。
「ああ、よく見える」
眼鏡を掛けると視界がはっきりする。目が悪い人間にとって眼鏡は身体の一部だ。技術革新様々である。
その技術革新の未来の最先端が目の前にいる。自律人形、弩。彼女と共にであれば、あるいは如何なる困難も越えられよう。
「……そうだ、君はどうなのだ? 過去を変えると君も消えるのではないかね?」
「その心配は御無用だよ、御主人様。ボクは最初から時間遡行に同行する為に作られた人形。遡行した時点で時間軸から外れた存在になっている。過去を変えようと未来を変えようとボクが影響を受ける事はない」
「ふむ……専門外すぎて何を言っているか理解できないが、消えないという事は分かった。それだけ分かれば充分だ」
ベッドから出て着替えを済ませる。時刻は六時半。我が家では朝食は七時からなので、まだ時間がある。
「さあ、では早速お前にできる事を教えてくれ。二人で未来を変えよう」
意気揚々と宣言した私に弩は力強く頷いた。
◆ ◇ ◆
王立ラヤキ学園。
貴族専用の教育機関だ。大抵の貴族はここに通って教養を与えられる。
カレンダーで確認したところ、今の私はこの学園の中等部二年生だった。年齢は十四歳。今日は夏季休暇を終えた新学期の初日。休暇中は自宅に帰省していたが、今日から学生寮生活に戻る。
「幾つもの
校門から校舎に続く石畳を歩きながら私は言う。
弩曰く、彼女は腹部には
「セワッシ様が未来で掻き集めた珠玉の品々さ、ウフフフ。これを活用して、過去を救い、未来を変えて欲しいんだって」
「相分かった。もう決心したとも」
セワッシの苦労を思えば退く気などならない。彼の気持ちに応えられるよう、この身にやれる事は全てやるつもりだ。
既に
さすがにメイドの身で堂々と喫煙する訳にはいかなかったので、煙管は彼女の胸部――左肺の中にある。吐く息と共に目に見えないほどの煙を出すのだ。火事にならないか心配だが、すまし顔なので大丈夫なのだろう、多分。
「ん~?
ふと乱暴な女の声が聞こえてきた。少し離れたところからだ。何事かと目を向ければ、雑踏の向こう、男子学生が女子学生に絡まれていた。男子学生が絡んでいるのではない。女子学生の方から突っ掛かってきたのだ。
彼女が誰なのか私は知っている。
「タキ・C・ゴーダ……!」
二十五年先における王国反乱のきっかけとなった、戦犯だ。
弩×ラエモン ~亡国の男爵令息、人生二周目では不思議な道具いっぱいで祖国を反乱から守護らねばならぬ……! ナイカナ・S・ガシャンナ @Nycana
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