気になる蘭子は止まらない〜静香の見ている世界〜

きら

平和の中に潜む闇

ショッピングモールの一角にある喫茶店は、昼下がりということもあって静かだった。

ガラス越しに見える吹き抜けを、人の流れがゆっくりと通り過ぎていく。


「……で、あの新人のことなんだけど」


 テーブルを挟んで向かいに座る北条円ほうじょうまどかが、ストローを噛みながら言った。

上下紺色の学生服を着た女子高生で、静香とは同い年だ。

茶髪のボブカットで凛とした顔つき、背筋は相変わらず真っ直ぐで、気は強い。

そんな彼女の良き相談役である静香は、こうやって時々、2人で話すのだ。


「正直、あの力は私達にとって大きな戦力よ。触れただけで破壊できるなんて非常識すぎるわ」


「大和さんのこと?」


「他に誰がいるのよ」


北条はミルクティーに視線を落としたまま、少しだけ眉を寄せる。

指揮官としての顔だ。


「でも、あの力が本物か分からない以上、無理に前線に出すのは危険よね。だからといって、放っておくわけにもいかないし……」


「円らしい悩み方ね」


静香はカップを持ち上げ、ぬるくなりかけたコーヒーを一口含んだ。


「……静香?」


北条が、ちらりと静香を見る。


「なんか、今日疲れてない?」


「そう見えるかしら?」


「見えるわよ」


即答だった。


静香は少しだけ笑って、視線を店の外に逃がす。


「ちょっとね。プライベートで、色々あっただけ」


「……そう」


北条はそれ以上、踏み込まなかった。

静香が何を抱えているかを、彼女は知っている。

それでも無理に聞かないのが、彼女なりの気遣いだ。


その時だった。


――ピッ。


耳元で、小さな電子音が鳴った。


『ハーイ!ねぇちゃんズ!聞こえるー?』


静香のイヤリング型のインカムから、テンションの高い聞き慣れた声が流れた。


「ちょっと待って。チーちゃんからよ」


『チーちゃん』とは、静香が付けたあだ名だ。

彼女の名前は『下田麻美しもだまみ

中学2年生ながら、この組織のオペレーターである。

何でも出来る器用な子なので、メンバーからは『チート』と呼ばれているのだ。

そのあだ名をさらにアレンジして、静香はそう呼んでいる。

そして、外していた無線を慌てて付ける北条に変わって、静香が代わりに返事をした。

 

「どうしたの、チーちゃん?」


『二階フロア、靴屋さんの前。挙動が……さっきからちょっとおかしいかも』


北条の表情が、一瞬で引き締まる。


「暴走?」


『ほぼ確定かなー。一般客に気付かれそうだから、人払いの電波だしちゃうよ』


静香はカップを置き、静かに立ち上がった。


「どっちにむかっているの?」


『エスカレーター側。ちょうど、静香ネーちんがいる店の前の!』


「分かった。すぐ行く」


2人の会話を聞いていた北条も同時に席を立った。


「静香、無理しないで」


「分かってる」


少し不安そうな顔をする北条に向かって、静香は微笑んだ。

2人の間に、これ以上の言葉は不要だった。

足早に喫茶店を出て、人混みに紛れる。

そして、少し歩くだけで、違和感はすぐに見えた。


(あれね!)


エスカレーターの上、客の姿をしているが、明らかに動きが不自然なソレ。

人の形をしているが、人ではないソレ。


「……相変わらず不気味ね」


エスカレーターを駆け上がると、静香は上着の内側から、刀のような形をした武器を引き抜く。

そして、つかにあるボタンを押すと、上身かみ部分にビリビリと青白い電気が流れた。


次の瞬間、ソレはこちらに気づき、加速してくる。

表情は無。まるで、マネキンのように生気が感じられない。

やがて、静香と交錯する。


バチィイイイイイン!!

 

そして、激しい電撃の音が周囲に響いた。

斬ったのではない。

横薙ぎで叩いたのだ。

ソレ専用のこの武器は、電撃によってショートさせ、破壊することを目的に作られた。


カクカクとした動きに変わったソレは、不気味に首を傾げながら振り返ると、再び静香に向かって動き出そうとしている。


「もう……止まりなさい」


ソレの周りには、ビリビリと青白い電流が走っている。

回路が悲鳴を上げ、間も無く機能が停止することが感覚で分かった。

そして数秒後、ソレは膝から崩れ落ちた。

静香はそっと、刀を収める。

 

周囲は、何事もなかったかのように静かだ。


「お疲れ、静香」


すぐ帯電手袋を装着した北条が駆け寄ってくる。


「ありがとう」


お礼を言いながら、静香も帯電手袋を装着すると、近くにある『STAFF ONLY』の扉を開けた。

そして、北条と一緒にソレを運んでその中へ放り込むと、少し遅れて人々のざわめきが戻ってきた。


『みっちょんコンプリートだよ!』


下田が、わざと噛んで気の抜けた無線を送る。


「一旦、詰所に戻りましょ。報告書、書かなきゃいけないし」


「ええ。わかったわ」


2人にとって、これは当たり前の日常だった。

一見平和に見えるショッピングモール。

その中に潜む闇の中に、彼女達は生きている。

 

 

――これが、静香の見ている世界だった。

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