巨大な影

水乃タマ

巨大な影

私の脳は、不穏な気配は、どんな感情よりも優先して処理します。その時もそうでした。普段は私の気持ちを高揚させる、友達の騒ぐ声も、その声の主を叱る教師の声も、ただの雑音にしか聞こえませんでした。その代わり、私は、胸に手を入れられ、心臓を握られているかのような、不吉な感じを覚えていました。

「そろそろ出発します!」

教師が児童たちに言い聞かせるように叫びました。今日は、私の通う、八野川はちのかわ小学校のみんなで、近くの川に遊びにシジミ取りに行く日でした。今から私たちが向かう、八野川は、シジミが取れる河川で、八野川にしじみ取りに行くのは私たちの恒例イベントなのです。

児童が整列し、八野川に向かって歩き出しました。私は未だに、不穏な気配を感じていました。


――――――

私たちは、5分ほどで八野川に到着しました。八野川小学校と八野川はとても近い距離にあります。

教師の注意事項と、漁業組合のおじさんの話を聴き、生徒たちは思い思いにシジミを取り始めました。私は不吉な予感を感じて、シジミ取りどころではなかったのですが、友達と一緒にいる手前、明らかに調子が悪そうにするのは憚られたので、楽しんでいるフリをしていました。

そんな調子で1時間ほどしじみ取りをしていると、私はこれまでの人生で感じたことがないほどの不安と焦燥感、不快感に襲われ、その場で嘔吐していました。何かが起こる。そんな確信を持っていました。そして私は、近くに居た数人の教師によって、川辺に運ばれました。


――――――――

川辺に運ばれたあとも、私の胸騒ぎは収まる気配がありませんでした。

すると、川辺に植えてあるコスモスの花が突如揺れました。それと同時に、私は、根源的な恐怖、つまり死に対する恐怖を感じました。

遠くにいる子供が叫びました。何か巨大なものがこっちに近づいてきている、と。その巨大な何かは私からはっきりと見えました。とんでもない速度で巨体を動かし、こちらに向かってきています。

この頃には私以外の人達も脅威を察知し、逃げ出す者、その場に立ち尽くすもの、膝から崩れて泣き出す者など、様々な反応を示していました。

そんなことをしているうちに、巨大ななにかはすごい速度でこちらに向かってきています。

すると、その巨大ななにか歯のように見える鋭い器官がびっしりと付いた、大きな、大きな口を開けました。

その場に居た全員が、川辺に逃げようとしましたが、生憎そこはしじみ取りができるような沼地だったので、足が奪われ、逃げることはできませんでした。そして巨大ななにかは、そのまま川の中にいた全員はまとめて口の中の入れ、そのまま口を閉じました。

グシャ……グシャ……

巨大ななにかが口を開け閉めする度、あたりに血飛沫が飛びました。そして大量の死体を飲み込んだあと、巨大ななにかはすっと姿を消しました。

私のように川辺で休んでいた数人以外は、巨大ななにかに食べられてしまいました。



――――――――

私はそこで目が覚めました。本当に恐ろしい夢でした。タイミングが悪い。今日はしじみ取りの日だったのです。あまりにも恐ろしい夢だったので、私は朝食を食べている時に、この夢の内容を母に話してみました。すると、なんということでしょう。母もその母、つまり私の祖母も似たような内容の(巨大な生物に人が大量に食べられる)夢を見たことがあるようなのでした。私のご先祖さまの恐怖体験が遺伝子に刻まれているとではないかと母は言いました。それが本当だとしたら、過去に八野川には人を喰らう、巨大な生物がいたことになります。


――――――――

朝の読書の時間、私は何となく窓の外を眺めて見ることにしました。私が所属する、6年2組の教室からは、八野川が良く見えます。八野川の奥に、巨大な影が見えた気がしたので、私は目を凝らしました。しかし、そこには変わったものは何一つありませんでした。私は視線を本に戻し、思いました。

今日のしじみ取りは楽しみだな、と。

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