アルケオン 海遊物語

れんP

第1話 青の大洋(アクアリス)の旅路 ― ルミナの海

青く澄んだ海の世界が広がっていた。

そこは遠い昔に栄えた文明の痕跡が水底に眠り、太陽の光が波に揺らめいて幾重にも揺れる、とても美しくてどこか儚い場所。

潮の香りと光の粒が日々の風景となり、大小さまざまな海洋生物たちがその世界を彩っていた。

そして、この海にはアクアリスと呼ばれる種族が暮らしている。

アクアリスたちは種族ごとにそれぞれの街をつくり、海の資源や流れを大切にしながら日々を営んでいた。


クラゲ族の街の近く――そこには古びた水底の建物があり、刻まれた文字や幾何学模様が淡い光を帯びて漂っていた。

クラゲ族の少女ルミナは、いつものようにその遺跡の前に立っていた。

透き通るような体をほんのわずか震わせながら、彼女は文字をじっと見つめている。


「……これは、なんて読むんでしょう……気になります」


クラゲ族のおじさんがにこやかに声をかけた。

その声は潮の流れよりも柔らかく、ルミナの横顔を優しく照らした。


「おい、ルミナ!今日も観察かい?」


ルミナははっと笑った。


「おじさん!うん……“りく”っていう場所の文明跡は、とても興味深いから」


おじさんは海の泡のような笑みを見せた。


「そうかそうか。ま、程々にな」


「うん……」


ルミナの目はまた遺跡の文字へと戻った。

海の世界の果てには、きっとまだ見たことのない建物や文字があり、そして知るべき何かが隠されているように感じられた。


「ルミナ〜!ここにいたのね。そろそろご飯よ、今日はハンバーグよ」


ふいに優しい声がルミナを呼んだ。

それは彼女の母親の声だった。


「うん!」


ルミナは振り向いて笑顔で応え、母のもとへと泳いだ。

すると、父親も楽しげに声をあげた。


「お!今日はプランクトンのハンバーグか」


「えぇ、たくさんいたから」


母はそう言って誇らしげに笑い、テーブルに皿を並べた。

ルミナは一口、また一口とハンバーグを頬張る。


「美味しい……」


「それは良かったわ」


あたたかい家族の食卓で、ルミナの心はふわりと満たされた。

しかし食事が終わると彼女はふと遠くを見つめ、思いを巡らせた。


(外には、いろいろなものがある――

外に行けば、きっとまだ見たことのない遺跡がある、よね……)


ぽつりとそう呟いたルミナに、母がそっと寄り添う。


「……ルミナ」


「なぁに?ルミナ」


母の瞳に優しさが宿る。


「私、旅がしたい!」


ルミナの声は強く、そしてどこか震えていた。


「……本気なのね?」


「うん!旅をして、たくさんのものを見てみたい!」


母は微笑む。


「しっかり準備しなさいね?」


「うん!」


父親も静かに頷いた。


「……やっぱりこうなったか」


「えぇ。少し遅かったくらい。でも、あの子には自由に暮らしてほしいから」


両親の温かい言葉を胸に、ルミナはその日から旅支度を始めた。

小さな鞄に必要なものを詰め、見慣れた景色や仲間たちの顔を思い浮かべる。

胸の奥にわくわくとした期待が宿り、瞳はほんの少しだけ輝いていた。


次の日、街の入口の大きな浮遊珊瑚の門の前で、ルミナは家族を振り返った。


「行ってきます。お母さん、お父さん」


母が優しくルミナを見つめる。


「忘れ物はない?」


「うん!あっ――」


母はルミナをふわりと抱きしめた。


「ちゃんと、病気や怪我をせずにするのよ」


「うん!」


ルミナが振り返ると、街の人々が手を振っていた。

泡のような笑顔、温かい声援、そしてそこかしこで揺れる光の粒。


ルミナも手を振る。でも、胸の奥が少しだけしめつけられた。

寂しさがふっと波のように訪れ、彼女の目に小さな涙が光った。


それでも――


ルミナの旅は、こうして始まった。


青く透き通った大洋の向こうへ。

誰も知らない海底の遺跡へ。

そして、まだ見ぬ真実を求めて――。

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