第8話 正義役令嬢は、正式に王子を討つ
討論の場は、思った以上に早く用意された。
――学園運営会議・臨時公開討論。
名目は「生徒間の緊張緩和について」。
実質は、王太子アレクシス殿下による、私への最終確認だった。
(殿下は、ここで“穏便に終わらせる”つもり)
だからこそ、私はこの場を選んだ。
壇上には、学園長、数名の教師、そして殿下。
生徒席には、派閥と呼ばれる人々も、そうでない人々も混在している。
――逃げ場はない。
「では、議題に入ろう」
学園長の合図で、殿下が口を開く。
「近頃、学園内において、生徒間の分断が見られる。
私はこれを、秩序の乱れとして憂慮している」
穏やかで、正義感に満ちた声。
「特定の生徒が“正しさ”を基準に影響力を持ち、
結果として他の生徒が萎縮しているという報告もある」
視線が、私に向けられる。
「セラフィーナ。
君はこの点について、どう考える?」
私は、一歩前に出た。
「まず、確認させてください」
静かな声が、講堂に響く。
「殿下の言う“分断”とは、
具体的にどの規則違反を指していますか?」
殿下は、わずかに眉をひそめた。
「……規則違反というより、
学園全体の空気の問題だ」
「承知しました」
私は、頷く。
「では次に。
私が行った“影響力の行使”とは、
どの行為を指すのでしょうか?」
「生徒への助言や指導だ」
「強制はありましたか?」
「……ない」
「報酬や罰則は?」
「ない」
「特定の思想への同調を求めましたか?」
「……していない」
ざわ、と空気が揺れる。
「では」
私は、淡々と続ける。
「それは、学園規則第十二条に定められた
“生徒間の自由な意見交換”に該当します」
教師の一人が、資料に目を落とした。
「確かに、その通りだな……」
殿下が、言葉を強める。
「だが、結果として人が傷ついている!」
「誰が?」
即答だった。
「名前と、具体的被害を教えてください」
沈黙。
殿下は、初めて言葉に詰まった。
「……それは、個人情報の問題だ」
「では、記録は?」
「……感情的被害は、記録に残りにくい」
私は、ゆっくりと息を吸う。
「殿下」
声を低く、しかしはっきり。
「殿下は、“秩序”を理由に介入しました」
一歩、前へ。
「しかし、規則も、事実も、被害者も、
提示していない」
会場が、静まり返る。
「それは、秩序ではありません」
私は、視線を逸らさない。
「印象による統治です」
どよめきが起きた。
殿下の顔色が変わる。
「私は、王太子として――」
「その前に」
私は、遮った。
「ここは、学園です」
学園長を見る。
「殿下も、生徒の一人として
規則に従う義務があります」
学園長が、ゆっくりと頷いた。
「……その通りだ」
殿下は、明らかに動揺していた。
「では、逆にお聞きします」
私は、最後の一手を出す。
「殿下は、
規則に基づかない介入を、今後も行うおつもりですか?」
答えは、二つしかない。
・続ける → 権力乱用
・やめる → 介入の正当性が消える
殿下は、沈黙した。
それ自体が、答えだった。
「……本件については」
学園長が、重く口を開く。
「規則違反が確認されない以上、
特定生徒の行動制限は行わない」
会場が、どっとざわめいた。
殿下は、何も言えなかった。
討論終了後。
「……あなた」
クラリッサが、息を吐く。
「王子を“否定”してない。
ただ、“立場”を剥がしただけ」
「ええ」
私は、微笑まなかった。
「殿下は、自分で転びました」
遠くで、リリアがこちらを見ている。
彼女はもう、笑っていなかった。
――正義は、声の大きさでは決まらない。
――肩書きでもない。
正しい手続きを踏んだ者が、残る。
それを、今日、学園中が知った。
そして。
これは、始まりに過ぎない。
正義役令嬢は、断罪イベントを許さない ~悪役令嬢が可哀想なので、全部こちらで是正します~ @knight-one
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