正義役令嬢は、断罪イベントを許さない ~悪役令嬢が可哀想なので、全部こちらで是正します~
@knight-one
第1話 正義役令嬢は、空気を読まない
その光景を見た瞬間、私は確信した。
(あ、これ――断罪イベントの導入だ)
場所は王立学園の中庭。
昼休み、人の集まる時間帯。
そして中央には、泣きそうな顔で立ち尽くす平民出身の少女と、彼女を見下ろす一人の貴族令嬢。
「……あなた、いい加減にしてくださる?」
腕を組み、冷たい声を投げかけているのは、侯爵令嬢・クラリッサ。
いかにも“悪役令嬢”らしい立ち位置、立ち振る舞い、声色。
周囲には野次馬の生徒たち。完璧な舞台装置だ。
(テンプレ度、満点)
ここから始まるのだ。
嫌がらせ、誤解、積み重なる悪評。
そして最終的に――断罪。
「私、何もしていません……ただ、ぶつかってしまっただけで……」
平民の少女が、今にも涙をこぼしそうな声で言う。
その仕草一つ一つが計算されているかのようで、私は内心ため息をついた。
(“ぶつかっただけ”ね。
その直前に立ち位置を微調整してたの、見てたけど)
――ああ、間違いない。
ここは、悪役令嬢ものの世界だ。
そして私は。
「失礼、少々よろしいかしら」
場違いなくらい落ち着いた声で、二人の間に歩み出た。
ざわり、と空気が揺れる。
注目を集めるのは慣れている。私は公爵令嬢、セラフィーナ・エーデルシュタイン。
この学園で、家格だけなら王族に次ぐ。
「セ、セラフィーナ様……?」
クラリッサが一瞬、言葉に詰まる。
平民の少女は、私を見上げてきょとんとした。
「今のやり取り、少し整理しましょう」
私は微笑んだ。
――にこやかに、しかし逃げ道を与えない笑みで。
「まず確認します。あなたは『ぶつかっただけ』とおっしゃいましたわね?」
「は、はい……」
「では質問です。ぶつかった結果、何が起きました?」
「え……?」
「怪我をしました? 服は汚れました? 持ち物は壊れました?」
少女は言葉に詰まる。
当然だ。何も起きていないのだから。
「何も起きていないのに、人目の多い場所で、相手を糾弾する必要がありましたか?」
「そ、それは……」
私は次に、クラリッサへと視線を向ける。
「あなたもです、クラリッサ様。
注意するにしても、言い方というものがあります」
「……っ」
「貴族の務めは、感情をぶつけることではなく、秩序を守ること。
それを忘れてはいけませんわ」
――静寂。
誰もが言葉を失っていた。
どちらの肩も持たない。
ただ、事実と立場を並べただけ。
「今回は双方に落ち度があります。
ですから――ここで終わりです」
私はきっぱりと言い切った。
「解散なさい。
これ以上続けるなら、正式に学園へ報告しますわ」
野次馬たちは、蜘蛛の子を散らすように去っていく。
中庭には、私と二人の少女だけが残った。
平民の少女は、不満そうに唇を噛みしめている。
クラリッサは、驚いたように私を見ていた。
「……なぜ、助けたの?」
小さな声で、クラリッサが言った。
私は肩をすくめる。
「助けた覚えはありませんわ。
正しく処理しただけです」
それが、私の正義。
(さて……)
心の中で、次のフラグを数える。
(このあと、王子が出てくる確率――高)
悪役令嬢ものの物語は、もう動き出している。
ならば私は。
悪役令嬢を断罪する物語そのものを、断罪するまでだ。
そう、決めた。
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