Three-second rule

音羽影

Three-second rule


私は、3秒だけ時間を戻せる。


そんな力を手に入れたのは多分、ある日の登校中の出来事だ。

それはまだ、日も登りきっていない薄暗い冬の朝だった。

いつも通りに人の少ない道を歩いていた私は、不運にも車にはねられた。

結構なスピードが出ていたんだなぁとか、居眠り運転かなぁとか、道が凍ってスリップしたのかなぁとか、まるで他人事のような考えが宙に浮かんでいた。


ぁぁ、痛い。


こんなの嫌だなぁ。


痛みを感じているのは自分だけど、嫌だと言っているのは他人のような感覚。

そこから、走馬灯のように車にはねられるまでの出来事が目の前に広がった。

はねられ、また少し前の景色に戻る。

3度ほど繰り返した時、ここで走ってたら避けられたかもなと思った。


身体が、動いた。


全力で走る。


直ぐに、大きな音が響き渡る。

その車は、私に触れる事なく電柱に突き刺さり停止した。

私は怖くなり、そのまま走り去った。


授業中、眠気と戦いながら朝の事を考えていた。

確かに、私は車に轢かれた記憶がある。

痛みを感じたような気もする。

それとも、夢だったのだろうか……


「こら、佐藤!寝るな!」


口喧しい先生から、私が注意されている。最悪だ。そもそも寝てないし、なんなら睨みつけてればよかったのだろうか?


「こら、佐藤!寝るな!」


あれ、なんかまた私が注意されている。というか、デジャヴ?もう、ずっと睨みつけてやろう。

ヌヌヌっと睨みつける私と先生の視線がぶつかる。

先生は特に何事もなかったかのように授業を続ける。

そういえば、先生はさっきと同じ話をしている気がする。

朝の事といい、もしかしてと思って机の上に置いてある腕時計を前のめりになって、見つめる。


時間よ戻れ、と念じてみた。


秒針はカチッカチッと当たり前のように1秒を刻み続けている。

そんなわけ無いかーと身体を起こした時、机に当たって筆箱を落とした。

中に入ってたものは無惨にも床にばら撒かれている。


最悪だ。拾うのも面倒くさい。


あぁ、私が身体を起こさなければこんな事にはならなかったのに。


不意に、腕時計との距離が近くなった気がする。

いや、腕時計の秒針が3秒ほど前になっている。

ちらっと、横目で机の端を見ると、今にも落ちそうな筆箱がそこにある。


「ひっ」


思わず上擦った声をあげてしまう。


「おい、どうした佐藤?何かあったか?」


今度は先生に心配そうな声をかけられた。

クラスメイトの視線が私に集まる。

失敗した。なんか変に緊張してしまう。


あぁ、私が声なんてあげなければよかったのに。


すっと、視線が消えた。

先生も何食わぬ顔で授業をしている。

時計の針はやっぱり3秒前を指している。


色々試しているうちに、この力の操り方がある程度わかった。

でも、連続で使用する事は出来ないらしい。

録画し忘れていたドラマを見るために戻そうとしても無理だった。


戻れるのは3秒だけ。


テストのカンニングに使ってみた。するとちょっとだけ、私の成績があがった。

聞きたくない笑い声を聞いた時、時間を戻して別の方角に歩くようになった。

私は、嫌なものを見なくて済むようになった。


「兎月ちゃん……兎月ちゃん……」

「え、あっ、歌奈巳……」


親友の歌奈巳が私に話しかけている。

その事実にちょっと遅れて気がついた。


「兎月ちゃん、最近ぼーっとしてる事多いよね」

「え、そうかな?」


確かに、最近手に入れた力について考えている事が増えたから仕方ないかもしれない。

この事については誰にもいえないし。

どうせ、頭がおかしくなったと思われてしまうだけだ。


「うん……あ、あの私先に帰るから」

「あー、うん、じゃーね〜」


歌奈巳がパタパタと急いで教室の外に出てく。

私は、それを見送った。


ある日、私が登校している時、また事件が起きた。

頭がぼーっとしたまま昇降口に差し掛かった時、上の階の窓から人が落ちてきた。


いや、コレは歌奈巳だ……っ!


私が即座に力を使って3秒前に戻す。

全力でダッシュして必死に手を伸ばす。

しかし、僅かに届かず歌奈巳はコンクリに叩きつけられてしまう。


また、時間を戻す。


何度も、何度も、何度も。


腕が引きちぎれるほど手を伸ばした。

喉が裂けるほどの叫び声を上げた。

それでも止められない。止まってくれない。


この事実は変えられない。


私の目の前の床には、歌奈巳だったものが転がっている。

赤い液体と透明の液体が混じり合った水たまりのようなものが広がっている。

首は曲がり、頭の形も不自然に変形している。

登校中だった、周りにいた人達が悲鳴をあげたりして騒いでいる。

私は無言で、その横を避けて学校の中に入った。

この光景におかしな所など何処にも無い。


見慣れた光景なのだから……


あの3秒間が何度もフラッシュバックする。

頭からこびりついて離れない。

あの場にまだいる感覚。

自分はいま何処にいるんだろう。


どっちが自分だったんだろう?


気がついたら、私は空からコンクリ目掛けて落下していた。


あぁ、そうかあの時の私は下から見上げていた方だったんだ。


世界は、もう3秒前に戻る事は無い。

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