「大人になったら結婚しようね」が本気だとは思わないじゃん〜約束してない本好きツインテールちゃんがグイグイくる

片山大雅byまちゃかり

席替え(前編)

 六歳で、春だった。そして命知らずでもあった。

 

 むか~しむかし、十年も昔のこと。近所の公園に天使のような女の子がいた。


 砂場によるたびに女の子は俺へと駆け寄って来て、楽しそうに話をする。そんな毎日が続いていた。


 そしてある日のこと、黒髪の天使は頬を染めながらこう言ったんだ。


「ちーちゃん、りーちゃんと結婚して」


 その時の俺は『結婚』というものが『大人がするもの』ということしか分かっていないクソガキだったので、威勢のいい返事をしていた。

 

「そうだな、パパやママが結婚したのは大人になってからだし、大人になったら結婚しよう!」


「本当に? じゃあ、大人になったら結婚しようね」


「うん、約束だ」


「ずっと覚えてるからね!」


 彼女の笑顔は忘れない。なんなら複数人居た気がする、りーちゃんが。幼い頃の記憶だからあやふやだ。


 今思えば、本物の天使が降臨したと錯覚するほどの眩いものであるでもきっと今頃、俺のことなど覚えていないだろう。


 だって彼女と俺が子供の頃にした約束なのだから。人間の記憶は忘れやすい、儚いものだ。俺のことなど声も、顔も、記憶も、きれいさっぱり忘れているはずだ。


 俺も、少女の名前を思い出せない。



       ◇

 

 

 久しぶりに昔の夢を見た。名前も忘れてしまった少女と遊んでいる夢。窓際だからか、ずっと昼寝ができてしまう。

 

 視界の端に、何か白っぽいものがちらりと見えた。無意識に目を向けて、風に舞う桜の花びらだと気づく。


 去年の春に高校生になって、友達が出来た。夏になり、小説で少しだけ有名になり、秋は特になく、クリスマスとお正月の冬を過ごしていたらあっという間に一年が過ぎていた。


 恋人とかは無縁だけど、友達と一緒に過ごしてきた高校一年。幸せだった。恋人は欲しい。


 恋人は欲しいが、窓ガラスに映る自分の顔を見て『コイツ、女の子殴ってそうな顔だな』と苦笑いする。緑髪でチャラそうな顔面、極めつけには口下にホクロときた。


 てな感じで、恋人は居ないのに恋人が居るんじゃないかと噂になり、しかし逆告白されるほどイケメンでもないというなんとも微妙な立ち位置なのである。


 それは二年になっても変わらない。趣味の小説書きを嗜みつつ、窓際の日常を過ごすはずだった。


「みんなちゅうも〜く! 今日、席替えするってよ!」


 陽キャ集団の取り巻きが唐突に叫んだ。席替え、席を入れ替えることを指す。特に学校で生徒の座席の位置を移動させることを意味する。


 俺が思う席替えだとしたらイイイイイイ!? えっ、席替え? 今日、えっ、あっ、えっ、イイイイイイ!? つまり、窓際席が移動って、イイイイイイ!?


「この学校って滅多に席替えしないんだよね?」


「委員長の相葉が先生に頼んだんだって」


 あ、相葉理沙(あいばりさ)ぁぁぁ…….! よ、余計なことを。俺の至高の窓際席がぁぁぁ! 見えないから憶測だが、今の俺の顔はグニャァってなっているだろう。


 相葉理沙。黒髪ロングの巨乳委員長。小説で言うところの負けヒロインである。あと、俺のデビュー作で勝手にヒロインのモデルにしてすみませんでした。


「あっ、ここが私の席〜!」


 仕方がないので俺の席を確認した。真ん中だった。さようなら窓際生活。初めましてワイワイガヤガヤ席。


 いや待てよ、もしかしたら同じ気質の人たちで囲まれているかもしれない。そう思い、席の名前に目を向けた。


「音風くんうらやま〜」


 俺の席の右手には、相葉理沙。左手には詩楽真帆(しらくまほ)。極めつけには前の席に陸谷玲奈(りくたにれいな)。名前だけは聞いたことがある。


 なんでよりにもよって日陰者な俺が、こんな席になってしまったんだ!?


 S級美少女三人に囲まれてしまった。S級か……


 今時の男子高校生は、容姿をランク付けする風潮があるが、確かにその方がわかりやすさで言ったら良いのかもしれない。だがしかし、ジェンダー平等が謳われる昨今、それとは真逆に位置している。


 平等とランク付け。争いは終わらない理由が詰まっている。こんな身近にも相反する思想があるのだ。そんなことはどうでもいい。人間が滅ばない限り終わらない議題だろうし。


「先生の説得に時間がかかりましたが、これでお隣同士ですねちーちゃん」


 右の席で黒髪を靡かせながらそう言う相葉理沙。


「ちーちゃんが後ろの席に! やっとだよ!?」


 前の席の髪が虹色サイドテールの子が喋った。S級美少女に数えられてはいたが、噂を耳にするだけで接点はない。モデルをやっているらしい。


 黒板の席の名前を見ると陸谷と書かれていた。陸谷さんか。それにしても、陸谷さんその人にさっきからガン飛ばしされてるんだけど、何かしただろうか? なら胸をガン見しても許されるだろうか。Dカップはある胸を。


「なんか二人とも、緑髪の人を変な目で見てないカー?」


 最後に直接話したことはない、ツインテールに星の髪飾りをつけている詩楽さんがそう締め括った。


 観察をしていたが、彼女の性格を陰陽に見立ててどっちだと問われたら陽と答えるだろう。友人による又聞きによると自分のかわいいに自信を持っているらしい。確かに近くで見ると胸がぺったんこだ。じゃなくてかわいい。自他共にかわいいとはこの事だろう。


 次回作の負けヒロインのモデルにしたいぐらいである。モデルの人と比べると身長は小さいし、委員長と比べたら胸も無いが。カタログスペックだけ見ると持たざる者って感じはするが、反面存在感はある。おそらく、裏で相当努力しているのだろう。


 ていうか、S級美少女三人に囲まれてしまったのはマジで何事? 迂闊に小説書けないんだけど?


 ああ、窓際族に戻りたい。席を戻して。



       ◇



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