機械仕掛けの観測者 ―Mechanical Observer―
榊󠄀原軍人
仮想のプロローグ -Virtual Prologue-
第1話
『僕は思う。だから俺がいるのだと――』
とある八月七日の夏。
僕は時間を持て余していた。大学内のスケジュール表には夏季休暇の文字が強調され、校内は閑散としている為か、中年警備員がよく目立つ。
特にやりたいことも無く、都心のアスファルトによって焼かれた大地から退避するため、オアシスである図書室に訪れていた。
セミが合唱する外界と比べ、ここは受付員が本をめくる静寂さだけがこの場を支配していた。
本来なら友人と海や山に赴き、季節を謳歌するのだろうが、あいにく入学1年以上過ごしてきてその兆しは一向に現れない。
孤独かもしれない。だが僕にも戦友はいる。
スマホを取り出し、協力型オンラインゲームをそそくさと起動する。 数百と登録されたユーザーの大半がログイン状態であることに安堵し、その中にいるお気に入りユーザー[アネフタ]にチャットする。
『お疲れ様です。今大丈夫ですか?』
すぐに返信がきた。
『やあ、君か。問題ない。ちょうど調達クエストを終えた。いつでも同行出来るぞ』
『助かります。参加人数が二人以上必須のクエストが攻略できなくて……』
ふと、僕の心が苦笑いをする。
『おや珍しい。フレンド枠が埋まるほど登録していた記憶があるのだが』
『いやはや、なかなか声かけるのが億劫で……』
指先が軽い。やはりタイピングが好きだ。文字を打ちながら、自分の考えをまとめる時間的猶予が、ゆとりを生み出してくれる。
『そうか、了解。しかし君も変わってるな』
『よく言われます(笑)』
文字でのやり取りが出来る環境を好むくせに、姿形を知った相手でないと誘えないのは、確かにズレているのかもしれない。
すぐにアネフタとゲーム内で合流した僕は、クエストを受注し、スタートボタンを押す。
ピコン!
ゲーム開始と同時にスマホの端を横目にすると、見慣れた人物からの通知がきた。後輩の
『アネフタさん、面白い話が飛んできましたよ』
プレイしながら卓越したスワイプさばきを披露し、即座にチャットする。
『どした』
『後輩からの誘いです、それも新型VRゲームのテストプレイヤーとして』
『kwsk』
『アネフタさん。実はその伝え方、古いですよ……』
クエストは順調に足を運び、予定より早くゲームを終了した。翔から来た特ダネに関する情報が、僕らの好奇心を抑えられなかったからだ。アネフタからは確認が取れ次第すぐに連絡するように、と念を押したチャット以降、ログアウトしていた。
翔からの通知を開き、早速VRゲームに関する情報の催促トークを送る。現在の時刻は正午。朝から居座り続けたため、腰が悲鳴を上げている。
木偶の体を動かすため図書室を出た直後、返信がきた。
『
翔のメッセージは、まるで本人がそのまま話しているかのような錯覚に陥る。自分は絶対にしない文体だ。彼らしい。
『いや、詳細だけ送ってほしい』
『何言ってるんすか!かわいい女の子が目の前にいて、電話で話しましょうって言ってるようなもんすよw』
『先輩が好きなジンジャエール奢るんで、とりあえず来てください(笑)』
『だから、詳細だけで大丈夫だよ』
その後、トークに既読通知が表示されることは無かった。嫌いではないが、人の話を最後まで聞かない傾向が、自分とは相容れないなのだなと再確認し、大きく溜息をついた。
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