エピローグ

ほんの一時(いっとき)の退屈凌ぎ

雷音らいと、何やってるのー? 電車乗り遅れても知らないよ!」


「わかってるよ母さんマム、もう行く!」


 スクールバッグを肩に掛け、スマホを手に取って玄関に向かう。つい最近買い替えたばかりのスニーカーは、踵を潰さずしっかりと履く。台所にいた母親が見送りに来る。いつもの朝、いつものちょっとした慌ただしさ。


「じゃあマム、行ってくるよん」


「はいはい、気を付けてね」


 玄関を出て、早歩きで駅に向かう。歯医者の隣の、歯医者よりも広い空き地を通り過ぎる際、最近よく姿を見るようになった野良猫に陽気に声を掛ける。

 一〇分前後で駅に到着すると、ホームには既に大勢の利用客。一番後ろの車両の一番前のドアの列、ナチュラルメイクの女性の隣に並び、スマホをいじっていると電車が来た。いつもだいたい同じ顔触れ。いつもの電車通学。

 だいたい一〇分くらい乗り、四つ目の駅で降りると、人通りの多い道を真っ直ぐ、約一五分。同じ学校の生徒たちがのろのろと歩く中を掻き分けて進む。いつも混んでいる。いつも時間が掛かる。

 この一連の流れを、去年の春から週に五回も繰り返し続ける事に、中津川なかつがわ雷音はすっかり飽き飽きしていた──五月の終わり頃までは。


 ──あの魔物君、そこそこ好き勝手やってはいたけど、思ってた程じゃなかったよなあ。


 退屈凌ぎとして、学校の敷地内で眠っていた、若く美しく、それも強い霊力の持ち主である娘の魂を目覚めさせた。

 更に約一週間後、邪悪な力により創り出された黒き森を見付け出して侵入し、最奥の広場で棺に封印されていた魔物を解放した。しかもどうやら、封印したのはあの若い娘で、その際に命を落としたようだった。

 しばらくの間は両者の動きを静観していた。当初、森の魔物はなかなか面白い奴だと思えたが、悪戯イタズラのスケールが小さく、だんだん飽きてきた。

 そして娘の方はというと、なかなか図書室から出て来ない。そもそもまだあまり自由に動けないようだったので、六月のある日、自分の力の一部を与える事で、死んでいて実体がない点以外は元通りにしてあげた。


 ──そして魔物君と美少女戦士絵美子えみこちゃんは久し振りに拳を交え、その結果……学校に再び平和が訪れた!


 だが、雷音にとって問題は、その後だった。


 ──ま~た、いつも同じの退屈な日々に逆戻り!


 絵美子は成仏したのか、一切姿を現さなくなった。魔物が消滅した事で、学校内で不可解な事件・事故・現象は起こらなくなった。未だに新倉にいくらは行方不明で丸崎まるさきは入院中だが、生徒たちはあまり話題にしなくなった。結局、ほんの一時いっときの退屈凌ぎだったのだ。


 ──まあ、仕方ない。新たに探すか……もっと面白い退屈凌ぎをね!


 雷音は人知れず笑みを浮かべると、軽やかな足取りで、他の生徒たちと共に正門の向こう側へと吸い込まれていった。

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【改稿版】コフィン・イン・ザ・フォレスト 園村マリノ @snmrmarino

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