05 絵美子の秘密と〝あいつ〟
高森駅前、カラオケ店〈
絵美子から打ち明けられたのは、彼女自身の秘密、そして今の学校で相次いで起きている不可解な出来事の〝裏〟だったが、あまりにも突飛過ぎるその内容に、百合子と保は戸惑った。決して絵美子の話を疑うわけではなく、むしろ全て信用していたが、だからといってすんなりと受け入れるのは難しかった。
「絵美子に霊能力があるってのはビックリしたけど、信じるよ。テレビに出たり、仕事にしている人たちもいるもんね」
「インチキも多いみたいだが──」
百合子はテーブルの下で、保の脚を思い切り蹴飛ばした。
「
百合子は睨んでくる保を無視し、
「独り言っていうのは、幽霊と喋ってたんだね?」
「そうなの。情報収集のためにね」
「たまにそういう人間が誕生する家系、か。重宝されてるんじゃねえの?」
「ううん、とんでもない」絵美子はかぶりを振った。「それどころか、ほとんどの親族に忌み嫌われているわ。何か不幸な事があると、わたしのせいにされたりね。両親でさえも、気味悪がってる」
「そんな……」
「わたしはずっとマシな方」
絵美子はドリンクバーから持って来たオレンジジュースを少しだけ口にした。
「大伯母、つまりわたしの祖母のお姉さんは、家族に反対されながらも霊能力者として活動していたけれど、ある仕事で失敗して霊に呪われて、一年以上苦しんだ挙げ句に亡くなったって聞いたわ。祖母やごく一部の人間を除いて、ほとんどの望月の人間が大伯母を見捨てたって。
更に昔のご先祖様たちは、もっと酷い仕打ちを受けたみたい。暴力振るわれたり、一人だけまともな食事を出されなかったり。特に女性だと、狭くて暗い地下室や離れに隔離されたり、赤の他人に養子に出されたり、奉公先に出されて稼いだ金を毟り取られたり」
「時代、なのかなあ……」
「にしても酷くねえか? 神経疑うぜ」
保が口を尖らせると、百合子は頷いて同意した。
「で、両親の仕事の都合でN県からK県に引っ越して、夕凪に転校して来たら、徐々に学校内で色んな事が起こり始めたが、それはある人外の存在の仕業だ、と」
「そうよ。複数人が階段で突き飛ばされたり、松野君が怖い経験をしたり、行方不明になった熊井君がおかしくなって戻って来たり。他にもわたしが聞いただけでも、大小様々なトラブルがあった。恐らくはそれらのほとんど全てが〝あいつ〟のせい」
「〝あいつ〟って……絵美子が会話した幽霊?」
「違うわ。彼らには人間に害をなすだけの力はないし、最初からそんな事をするつもりもないみたいだから」
「じゃあ何なんだよ、その〝あいつ〟ってのは」
「あれは何て言ったらいいのかしら……」絵美子は小さく息を吐いた。「悪霊とはまた違う……〝化け物〟あるいは〝魔物〟って呼び方が近いかしらね」
「あ、そういえば熊井が言ってたって、大倉君が! ほら確か『森に化け物が』って」
「しかし森は?」
「わたし、一回自分で学校全体を霊視してみたの。そうしたら大きな森と、〝あいつ〟の異形が見えた」
絵美子がオレンジジュースを手に取ると、百合子もつられたようにアイスティーに手を伸ばした。保は既に小さくしてあったテレビ画面の音量を完全に無音にした。
「それから、学校周辺の歴史をちょっと調べてみたの。あの辺りだけじゃなくて、この高森駅周辺も、ずっとずっと昔はとにかく大きな森だったそうだから、わたしの霊視に間違いはなかったみたい。その森は人々が暮らすために、長い年月を掛けて次々と切り開かれてゆき、その一環で夕凪高校も建てられた」
「わかった」百合子はほとんど空になったグラスを置いた。「〝あいつ〟とかいう化け物は、かつてその森に存在していて、今はこの学校に居座ってるって事だね」
「正解よ」
「やっぱり。この間不登校になった三年生にも絵美子と同じような能力があって、気付いちゃったんだよ。それで怖くなって──」
「でもちょっと待った」保は挙手するようにメロンソーダのグラスを掲げると、そのまま口に持っていった。「あ、温くなってるわ。氷入れりゃ良かったな」
「で、何よ?」
「ああ、そうそう。その化け物、ずっと学校にいたっていうのか? 俺たちが入学してから、少なくとも二年に上がるまでは、こんなに立て続けに変な事は起こらなかっただろ」
「あ、確かに……」
百合子と保は、答えを求めるように絵美子を見やった。
「多分、最近になって封印が解かれてしまったんだと思う」
「封印?」
「ええ。わたしが調べた中に、森の開発中に起こった事故や神隠しに関する情報も少しだけあったの。開発に反対した住民の中に『あの森には〝穢れ〟が住み着いていて悪さをするから、絶対に手を出すな』って主張するお年寄りたちもいたみたいで。それでも開発を進めていったら次々と困った事が起こったから、地方から霊能者を呼んでお祓いをしてもらった。
けれど霊能者の自信満々な態度の割に全然効果がなくって、その後も違う霊能者を何人か呼んだけれどさっぱり、むしろ悪化する一方」
「火に油を注いじまったな」保は苦笑した。
「すっかり困り果てて、開発も一時中断されたんだけれど、ある時駄目元で呼んだ若い女性の霊能者が封印を施すと、それからはピタリと止んだんですって」
「その封印が解けちまって化け物が出て来て……え、何で解けた? だいたい何で学校に?」
「わたしが夕凪に来る前後に、学校の敷地内あるいはすぐ近くで、大きな工事とか事故はなかったかしら。〝あいつ〟が学校に留まっているのは、今学校がある辺りに封印されていたからだと思うの」
百合子と保は記憶を辿ってみたが、思い当たる節はなかった。
「今年で創立四〇年ぐらいだろ? 俺らが入学する前に何度か工事があっても全然おかしくねえし、そもそも学校建てちまったのも原因の一つなんじゃねえか?」
「確かにそうね……」
「ねえ絵美子。〝あいつ〟は学校に留まってるって言ったけど、どうして?」
「どうしてってそりゃ、手頃な
保は意地悪く答えると、メロンソーダの残りを飲み干した。
「それもあるでしょうね。でも恐らくは、封印が解かれてからまだ日が浅いからだと思うわ。わたしの予想だと、いづみちゃんが耳鳴りと貧血を起こしたあの時だと思うの」
「ああ、お前も耳鳴りがするってな」
「あれは〝あいつ〟が目覚めてしまった事に反応したのよ」
「じゃあ、いづみにも霊能力が?」
「うーん、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。そういう力がほとんどなくても、たまたま波長が合って反応してしまう場合もあるの」
「そっか……」
「話をちょっと戻すぞ。封印が解かれてから日が浅いから、って事はだ」保は絵美子をじっと見据えた。「ほっといたら学校の外に出て、もっと色々やらかしちまう可能性がある、と?」
絵美子は保から視線を逸らさず、無言でゆっくり頷いた。
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