◆思い出せない怪談◆

茶房の幽霊店主

第1話 思い出せない怪談


※(プライバシー保護のため地域・固有名詞などは伏せています)


【注 意】※(一部にご遺体の状況表現が含まれてます)



小学校6年生の担任教師が話した学校の怪談です。



※※※※※




小学校6年生の担任は新人教師で、ホームルームの時間に「怪談」を話すことがありました。


今から書き出すのはその先生が語った怪談で、メモ書きもなく、私の記憶のみの内容となっています。



戦時中(恐らく太平洋戦争)、その日は「●を越えて」という歌謡曲を校内で流していました。(学芸会の出し物、ダンスの練習だった気がします)


その曲が流されている最中、トイレに行きたくなった女生徒が、学校の外にある汲み取り式に向かいました。


その時、戦闘機が襲来、学校が空爆されて建物の一部に焼夷弾(しょういだん)が着弾して火災も起こり、生徒や先生が避難する中、トイレも爆撃で崩壊してしまいます。


空襲が過ぎ去った後に救出活動をしましたが、女生徒は瓦礫の中で惨たらしい姿で絶命していました。


やがて、世の中へ戦争の終りが告げられます。


焼け落ちた学校は建て直され、その間も時は流れて、空襲を目の当たりにした学童たちはもう在籍していませんでした。


学校の授業は再開されましたが、爆撃された同じ時間になると、時折、「●を越えて」がトイレから聞こえてくるようになり、暗黙のルールができます。


その時間帯、音楽や歌声が聞こえてきたら、先生も生徒もトイレの使用を避けるようになっていました。


建て直し後も下水整備はまだ出来ておらず、トイレはまだ汲み取り式のままです。



※※※※※



授業中トイレに行った女生徒が戻ってこないので、先生が探しに行くと「●を越えて」を歌う女生徒の声が、トイレの中から聞こえてきました。


急いで女子トイレ内を探しましたが、姿はありません。


他の教員も加わり、しかし、校内をどんなに探しても見つからず、学校にいたはずの女生徒は消えてしまいました。


その後、大がかりな捜索が行われ、町ぐるみで行方不明の生徒を探し続けて、学校の女子トイレを再び調べたところ、


和式便器の内側、汲み取り式の中で発見されました。


女生徒は、汚物に首の下まで浸かった状態で、立ったまま顔を上に向け、目を見開いて死んでいたのです。


しかし、設置されている便器の穴部分は小さく、人が落下するような大きさではなかったため、床と設備を壊して遺体の引き上げが行われました。


外傷・出血はなく、死因は不明。公(おおやけ)では事故死だとされました。


(低体温になって、心臓麻痺・ショック死に至ったのではないか)



話の続きを確かに聞いたはずなのですが……。



先生の話を聞いていたクラスの生徒たちが、悲鳴を上げてパニックとなり、強風であおられた窓辺の黒い暗幕が、ゆっくり教室内ではためいていた風景しか覚えていないのです。



今もその後半部分だけ、記憶が抜け落ちています。



※※※※※



担任の先生は、学校の怪談「トイレの花子さん」などが、このような「逸話」や「噂話」がいくつも融合して形になったのではないか、と言っていました。


それに、これは先生本人の実体験ではなく、別の小学校教師が話した「学校の怪談」で、最初の原形を留めているのか分からないのです。


もしかしたら、先生に戦時中の出来事を話したその人も、他の誰かから聞いたのかもしれません。


私がこうして語る間も、この「学校の怪談」は変化し続けているのでしょう。


「怪談」の原形は事象として必ずあるはずです。


しかし、それが人々の間で伝わり、感染にも似た形で広がっていくと、たちまち現実感が喪失して胡散臭くなっていきます。


同じクラスの友達から聞いた話、友達の友達から聞いた話、友達の知人から聞いた話、知人のさらに知り合いから聞いた話。


本人を名乗る掲示板への書き込み、家族を名乗る書き込み、体験者の友人を名乗る書き込み、体験者の友人の友人を名乗る書き込み。



こういった理由から、できるだけ怪談の「変容」を避けるため、私自身の体験談、繋がりのある周辺の人間関係、もしくは、直接ご本人から聞いた話、匿名で吐き出したいと考えているかたの体験談を、DMなどから集めています。



ただ、「怪談」において「思い出せない」場合は、


身の安全のため、忘れたままがいいとされますので、恐らくこの先も、話の全容を知ることはないと思います。

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◆思い出せない怪談◆ 茶房の幽霊店主 @tearoom_phantom

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