第14話 父の背と、私の仲間

「今日は、良い依頼が無いわねぇ。」


「だねー、危険なのか安いのか両極端なのよ。」

魔石採取の依頼後、ユミエルはしばらく体調が悪そうだったけど、今では、すっかり良くなったようす。


「高くって安全な依頼が…いい。」

エタルナは、そう言うと…私の後ろを指さした。


「あ、あの人…この前のアンジュのお父さんの元パーティーメンバーだ。」

屈強な体を持つギルド内の中でも大柄な男。


目立たない訳がない。


私は、すぐに駆け寄った。


「あの…この前は、ご飯代、ありがとうございました!」

「あぁ…気にするな。単なる気の迷いだ。」


「えっと…私、お父さんの話を…」

そう言うと、あきらかにその人は機嫌が悪い様子となった。


「俺から話す事は何もない…」


「ただ、父の事を知りたいだけなんです…」


「教えたら、同じ場所に立つことになる。」


何?一体、どういう事なの?


「アンジュ。」

いつの間にか背後に居たエタルナが私の肩を掴んだ。


それ以上、聞かない方がいい。

そう伝えたいようだ。


「ちょっと…冷たすぎないかな。」

「ドワルクさん。」


登場したのは、ギルドマスターのドワルク。


「そういう問題では無い…この娘はアイツと似すぎている。」


「はぁ…そうだな。」

「じゃぁ、せめて…この娘達に指導してやってはくれないか?」

え?私達を…ドワルクの提案に驚きを隠せない。


「何故?俺が…」


「お前が拒むのは自由だ。」

「だが、今のままでは、この娘は、アイツと同じ剣を振るう事になるぞ。」


お父さんと同じ剣?ドワルクってば…一体、何を言っているの?


大男は一つため息を吐くと…

「仕方ない…訓練場を借りるぞ。」


そう私達に告げた。


素直に、彼の後について歩く。

エタルナもユミエルも覚悟は決まっているようだ。


訓練場。


「俺の名前は、ザンブルグ。」

「知っての通り、元エターナルインテンションの一員だ。」


「エタルナです。このパーティで盾役をしています。」


「あぁ、そうだな。」

「では、早速、お前から行こう。」


「よろしくお願いします!」


私と、ユミエルは訓練場の端へと陣取る。


「ぬぉーーー!」


ザンブルグはいきなり、エタルナに向かって突進する。


「くぅ」


正面から受け止めるエタルナ。


が…後方へと弾き飛ばされた。

大柄なエタルナが宙を舞う。


「も、もう一回!」


「楯は守るもの、だが必ずしも受け止めるものでは無い!」

「ぬぉーーー!」


ドンッ!


ふたたび吹き飛ぶエタルナ。


苦悶に耐える表情が伺える。

それでも、エタルナは盾を離さない。


「まだまだ!」


再度…立ち上がる。


この繰り返しを何回、見ただろうか。


「楯は止めるべきもの。」

「お前の…その覚悟はよく分かった。」


「が、楯役で一番大事なのは、仲間を守る事だ。」

「分かるか?」


「はい…分かります!あたしは、アンジュとユミエルを守りたい!」


「ふ…良い面構えだ。」

「行くぞ!」


バンッ!


エタルナは、ザンブルグの攻撃を受け流した!


「よし、良い動きだった。」

「どう考えて行動した?」


「ありがとうございます。」

「二人を守る気持ちで…動きました。」


「次は、槍で俺を攻撃して来い!」

「はいっ!」


臆病なエタルナが堂々と戦っている。


まるで、今までの過去を捨てるかのような攻撃姿勢。


「はぁ、はぁ、はぁ。」


「ご苦労…だいぶ良くなったな。」

「最後に一つだけ重要な事を伝える。」


「盾は武器じゃない…だが、盾を構える時は武器よりも覚悟が必要。」

「これを肝に銘じておけ。」


…お父さんの盾役だったザンブルグさんの言葉には重みがあった。


「次、どっちだ?」


「私が行きます!アンジュです、よろしくお願いします!」

「あぁ、来い。」


「やーーー!」


盾を構えるザンブルグ…その盾はとても大きく見えた。


何?まるで四方八方、全方位が盾に囲まれているような感覚。


いくら剣を振るっても届く気がしない


右肩に浮かぶ球体は、徐々に熱を増しているような感覚。


「勢いに任せて剣を振るうスタイル…アイツのようだ。」


光る球体が…さらに熱を帯びた。


熱い!


思わず、攻撃の手を止める。


「どうした?もう終わりか?」


「いえ…」


球体に頼んで、能力強化の支援をしてもらう事も出来るかも知れない。

でも、それじゃダメ。


私自身が強くならないと…


お父さんに一歩でも近づかないと!


「よし、来い!」


何本も…何本も打ち込んだ。

けど…まったく歯が立たなかった。


「踏み込み方、タイミング…まるでアイツのようだ。」


「おかげで、受け止めやすかった…ただ、それだけだ。」


「ありがとうございました。」


ザンブルグはお父さんの事を何も教えてくれなかった。

けど…この訓練で、少しお父さんの事が分かった気がする。


それだけで、嬉しく感じだ。


「最後、ウチ…は、魔法使いなんだけど、良いのですか?」


「そうだな、残念ながら魔法師に指導する事は、あまり無い。」

「ヤメとくか?」


「いえ、良いのなら…行きます。」


ユミエルは一呼吸つくと、魔法を放った。


「ファイアーアロー!」

魔法の杖…アーティファクトから放たれた炎の弓がザンブルグへと向かう。


バンッ!


盾を斜めに構え、頭上へと炎を受け流した。


「わぉ、流石…元Sランクパーティ。」


「当たり前だ、その程度の魔法。見慣れている。」

「次、来い。」


「ウォーターボール!」


ユミエルの水魔法…も、簡単に受け流す。


そう、受け止めるのではなく、受け流していた。


エタルナが感心したように頷いている。


「ちょっと待て…お前、何かおかしくないか?」


「え…ウチ?」


「あぁ、なんというか…魔法に”重み”が感じられない。」


…沈黙


「気のせいか…俺は魔法には詳しくないからな。」


「あ、いえ…ありがとうございました!」


魔法の力じゃない…アーティファクトの力。

魔法に詳しくないと言うザンブルグ…だけど、どうやら見極める能力が長けている様子。


ユミエルが早々に訓練を切り上げたのは正解だと思った。


ザンブルグは、この日を最後にこの町を去った。

何かを探している様子だった。


「ねぇ、ザンブルグさん…私の杖の秘密に気付いちゃったかな?」

夜、宿のテラスでユミエルに尋ねられる。


「多分、アーティファクトだとは分からなかったと思う。」


「たとえ、ユミエルが魔法を使えない魔法師だったとしても、あたしは盾で守る。」

ダンジョンで、ユミエルの後ろに隠れていた人とは思えない発言ね。


「何があったとしても…ユミエルは私の仲間…だよ。」


『…未知』


右肩で浮かぶ球体。


その声は、いつもより低く聞こえた。

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