魔法が使えない俺だがなんとかやっていけそう

はるさめ

魔法が使えない俺だがなんとかやっていけそう


「アランさん!ちょっといいですか?」


冒険者ギルドの受付カウンターから、俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。

めんどくせぇ。今日はのんびり昼寝でもしようと思ってたのに。


受付嬢のマリアが営業スマイルでこっちを見ている。見たことない顔だな。新人の受付か。


「なんだよ」


できるだけ面倒そうな顔で近づくと、マリアは少し緊張した様子で書類を確認しながら話しかけてきた。


「あの、アランさん、ですよね?実はですね、今度新人冒険者が三人入ってきたんですけど……彼ら、魔法学院出身のエリートで」


「だから?」


「彼らの初依頼に、ベテラン冒険者を一人同行させることになってまして。それで、ええと……」


マリアは書類をめくる。


「アランさん、昔はBランクだったんですね。でも最近は……Cランク、と」


「サボってたらランク落ちた」


「あ、はい……それで、一応経験はあるということで、同行をお願いできないかと……」


新人の受付だから、俺のことをよく知らないんだろうな。まあ、いいけど。


「報酬は?」

「通常の倍出します」

「依頼内容は?」

「森の魔物退治です。ゴブリンの群れが出たという報告が。Dランク向けの依頼ですね」


ゴブリンか。めんどくさいが、まあ楽な方だな。


「わかったよ。いつ出発だ?」

「明日の朝です。よろしくお願いします!」


マリアは安堵したように笑った。

対称的に俺はため息をつき、ギルドを後にする。


明日か。めんどくせぇな。まあ新人に任せとけばいいか。



♢♢♢♢


翌朝、ギルドの前に集合すると、すでに三人の新人冒険者が待っていた。

一人は金髪の青年で、派手なローブを着ている。典型的な魔法使いって感じだ。

もう一人は黒髪の女性で、こちらも立派な杖を持っている。

最後の一人は茶髪の少年で、まだ幼さの残る顔立ちをしていた。

全員Fランクの新人だが、ざっとみた感じその装備は一流品だ。金持ちの家の子か。

しかも、三人とも魔法職かよ。バランス悪いな。


「おはようございます」


一応礼儀正しく挨拶してきた金髪の青年に、俺は軽く手を上げて応えた。


「ああ、おう」

「あの、あなたが同行してくれるベテラン冒険者の方ですか?」


黒髪の女性が尋ねてくる。その視線が、俺の腰に下がったボロい剣を見て、明らかに曇った。


「そうだけど」

「……ランクは?」

「C」


三人は顔を見合わせた。ああ、またこのパターンか。


「Cランク……ですか」


金髪の青年の声に、明らかに失望の色が混じった。


「私たち、魔法学院を首席で卒業したんです。ステータスも魔力がBランク評価で。今回の依頼も、本当は自分たちだけで十分なんですが、ギルドの規則で……」

「ああ、そう」


めんどくさい。こいつら、完全に俺のことを舐めてる。まあいい、適当に見守ってりゃいいだろ。


「で、あなたのステータスは?」


茶髪の少年が、少し意地悪そうに聞いてくる。


「筋力S、敏捷S、体力S、器用さS。魔力は……まあ、Fだな」


「……え?」


三人が揃って固まった。


「ちょ、ちょっと待ってください。それは本当なんですか!?」

「そうだけど」

「嘘でしょ……そんなステータス、Sランク冒険者でもそうそういないって……」


黒髪の女性が呟く。


「でも、Cランクなんですよね?」


金髪の青年が疑わしそうに見てくる。


「サボってたらランク落ちたんだ」

「……はぁ?」

「意味わかんねぇ……」


三人は頭を抱えた。


「まあいいや。でも、魔力Fってことは魔法使えないんですよね?今の時代、魔法使えないと前衛職は厳しいって言われてますよ」

「別に困ってねぇし」


俺は適当に答えて、先に歩き出した。

背後から、三人がひそひそと話す声が聞こえる。


「なんだよあいつ、Sランク評価って嘘だろ絶対」

「どうせギルドカードの偽造とか……」

「魔法使えない前衛なんて、所詮は肉壁だしね」


聞こえてるっつーの。まあ、どうでもいいけど。



♢♢♢♢


森に入って二時間ほど歩いたところで、ゴブリンの群れを発見した。数は五体ほど。新人にしては、ちょうどいい数だ。


「よし、見てろよ。俺たちの魔法を」


金髪の青年が杖を構えた。


「炎よ、敵を焼き尽くせ!ファイアボール!」


杖の先から火球が放たれ、ゴブリンの一体を直撃した。見事な魔法だ、実際。魔力Bランクは伊達じゃない。

黒髪の女性も続いて魔法を放つ。氷の槍がゴブリンたちに降り注ぐ。


「どうです!これが魔法学院首席の実力です!」


茶髪の少年が得意げに叫ぶ。


俺は木に寄りかかって、その光景をぼんやりと眺めていた。ああ、眠い。このまま昼寝できないかな。

ゴブリンは次々と倒されていく。三人の連携も悪くない。このまま終わりそうだな。


と、その時だった。

森の奥から、異様な気配が漂ってきた。


俺は閉じていた目を少し開き、森の奥に視線をやる。三人は、その存在にまだ気付いていない様子なので俺は声をかける。


「おい」


「なんだよ、邪魔すんな!今いいとこーー」


金髪の青年の言葉が途切れた。

森の木々を薙ぎ倒して、巨大な影が現れたからだ。


「……オ、オーガ……?」


黒髪の女性の声は震えていた。


そう、それは三メートルを超える巨体を持つオーガだった。しかも、その皮膚は通常の緑ではなく、黒ずんだ紫色をしている。


「なんだあの色は?……まさか亜種!?」


金髪の青年が叫ぶ。

そしてオーガは咆哮を上げた。その音圧だけで、三人は怯んだ。


「ほ、ほ、炎よ、敵を焼き尽くせ!ファイアボール!」


金髪が慌てて魔法を放つ。火球はオーガに直撃した……。


「効いてる……?」


オーガは少し怯んだが、致命傷には程遠い。


「くそ、火力が足りない!」


「凍てつけ、氷の槍。アイスランス!」


黒髪の女性が氷魔法を放つが、オーガは腕で簡単に弾いた。


「私の魔法が効いてない……!」

「逃げましょう!」


三人が踵を返そうとしたが、オーガはすでに跳躍していた。その巨体が、三人の頭上に迫る。

このままでは踏み潰されるだろう。


「はぁ」


俺はため息をついた。


「めんどくせぇな」


俺は脚に力を込め、地面を蹴る。


次の瞬間には三人の前に俺が立ち、オーガの足を蹴り飛ばす。


「がっ...!?」


オーガが驚愕の声を上げ、五メートルほど吹き飛ばされる。


「……え?」


三人の新人冒険者が、呆然と俺を見つめている。


「おい、こいつ炎が弱点なんだろ?さっきの火球、少し効いてたぞ。もう終わりか?」

「あ、はい……でも、火力が……」

「わかった、俺がやる」


俺は腰の剣を抜いた。


「おい、物理攻撃は効かないってーー」


確かに、オーガの生態は物理に耐性持ちとかどっかできいたことあったっけ。

それでも俺は、金髪の青年の言葉を無視して、剣を構えた。


そして。


「せいっ」


全力で剣を横に振った。


シュオオオオオオオッ!


剣が空気を切り裂く。いや、切り裂くどころじゃない。あまりの速度に、剣と空気の摩擦で火花が散った。


そして、その火花は炎を生む。


ゴオオオッ!!


一瞬で炎の竜巻となり、オーガを飲み込んだ。


「ギャアアアアアッ!」


オーガが絶叫を上げる。炎は弱点だ。しかも、この熱量は尋常じゃない。


数秒後、炎は鎮火。そこには黒焦げになったオーガが倒れていた。もう動かない。


「……」

「……」

「……」


三人の新人冒険者が、完全に固まっている。


「はぁ。疲れた」


俺は剣を鞘に収めながら、肩を回し、クールダウンする。


「お、おい……今の何だよ……」


ようやく声を絞り出した金髪の青年に、俺は面倒くさそうに答えた。


「剣振ったら炎がでた、以上」

「いや、普通ありえないですって!」

「知らんけど、できるからやった」

「知らんけどって……!」


黒髪の女性が叫ぶ。


「あれ、魔法じゃないですよね……?」


茶髪の少年が震える声で尋ねる。


「魔法使えねぇっつったろ」

「じゃあ何で炎が……!」

「だから、速く振ったら摩擦で燃えるんだよ。それだけ」

「それだけって……!」


三人は頭を抱えた。


「と、とにかく……助かりました……」

「ああ、終わったし帰るぞ。ゴブリンの討伐証明も回収しないと」


俺は適当に答えて、歩き出した。

背後から、三人のざわめく声が聞こえる。


「嘘だろ……あのオーガ亜種、少なくともBランク確定の魔物だよな……?」

「それをたった一撃で……しかも魔法じゃないって……」

「ねえ、もしかしてあの人……本当にSランク評価なんじゃ……?」


めんどくせぇ。質問攻めにされる前に、さっさと帰ろう。



♢♢♢♢


ギルドに戻ると、マリアが待っていた。


「おかえりなさい。どうでしたか?」

「オーガの亜種が出たぞ」

「え?」


マリアの表情が凍りついた。


「ご、ごめんなさい!情報が間違ってたみたいで……!怪我は!?新人たちは無事ですか!?」

「全員無事。オーガも討伐している」

「討伐……って、亜種を……?」


マリアは信じられないという顔で、三人の新人冒険者を見た。


「あの、実は……アランさんが...」


黒髪の女性が、震える声で説明し始めた。俺がオーガの攻撃を受け止めたこと、剣を振って摩擦熱で炎を起こしたこと、その速度と力が常軌を逸していたこと。


マリアは何度も目を瞬かせた後、俺を見た。

「アランさん……あなた、本当にそんなことを……?」

「まあな」

「ステータスカード、見せていただけますか?」

「めんどくせぇな」

「お願いします」


しゃあねぇな。俺はポケットからステータスカードを取り出して、マリアに渡した。

マリアがカードを確認した瞬間、その目が見開かれた。

「これ……筋力S、速度S、体力S、器用さS……魔力?……なにこれ!?」

「ステータスだよ」

「わ、私、こんなステータス初めて見ました……本物、ですよね……?」

「お前が一番本物だってわかってるだろ」


ちょうどその時、ギルドの奥から声が聞こえた。


「お、アランじゃねぇか。久しぶりだな」


振り返ると、そこには見覚えのある顔があった。Aランク冒険者のガルド。筋骨隆々とした大男で、大剣を背負っている。


「よう」

「お前、依頼受けたのか?珍しいな」

「無理やりだけどな」


ガルドは笑って、カウンターに近づいてきた。そして、マリアが持っているステータスカードを見て、「ヒュー」と口笛を吹いた。


「相変わらずバケモンステータスだな。マリア、お前新人だから知らねぇのか?こいつ、この辺じゃちょっとした有名人だぜ」


「え……?」


マリアと三人の新人が、驚いた顔で俺を見た。


「で、また何かやらかしたのか?」

「オーガの亜種倒しただけだ」

「...マジで?」


ガルドの表情が変わった。


「あの物理耐性持ちの厄介な奴か!?魔法使いじゃないと厳しいって言われてる奴だろ!どうやって討伐したんだ!?」

「剣振ったら炎出た」

「はぁ……お前、本当に意味わかんねぇな」


ガルドは呆れたように笑った。


「なあ、マリア。こいつ、昔はSランクパーティーにスカウトされまくってたんだぜ?」

「え...本当ですか?」

「ああ。高ランクのパーティーは知ってんだよ。魔法職だけじゃ限界があるって。魔法無効の相手には前衛職が必須。こいつみたいな化け物はな、引く手あまただったんだ」

「じゃあ、なんでCランクなんですか……?」


金髪の青年が尋ねる。

「目立つのが嫌だからだよ」

とガルドが答えた。

「めんどくせぇって理由でな」

「めんどくさいって……!」


マリアが頭を抱えた。


「魔法が全てとか言ってるのは、低ランクの奴らだけだ。Aランク以上になると、前衛職の重要性がよくわかる。特にこいつみたいな、規格外の身体能力を持った奴はな」


ガルドは三人の新人を見た。


「お前ら、いい勉強になったんじゃねぇか?」

「……はい」


三人は頷いた。その顔には、クエスト前の傲慢さはなく、素直な驚きと尊敬の色があった 

「俺たち……魔法が使えれば何でもできるって思ってました」

「でも、違ったんですね……」

「魔法使えない人を見下してました……すみませんでした」


三人が頭を下げる。


「別にいいよ。気にしてねぇし」


俺は報酬を受け取ると、さっさとギルドを後にしようとした。


「あ、あの、アランさん!」


マリアが叫ぶ。


「も、もしよろしければ……昇格試験の話とか……」

「めんどくせぇから嫌だ」

「めんどくさいって……」


背後からマリアの悲鳴が聞こえたが、俺は無視した。

ガルドの笑い声と、新人たちの呆然とした声が混じる。


めんどくせぇからな。

今日も俺は、のんびり生きる。

魔法が使えなくたって、別に困らねぇし。


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