紛い物の白竜騎士

灯菜

第1話 白黒バディ

 純白の竜、純白の騎士。

 王国の白竜騎士団は穢竜えりゅうの討伐を役割としている。

 純白の鎧を着た少女の前には、けがれた魔力を纏う竜が倒れていた。


「⋯⋯なんだ。中位穢竜もこんなものか」


 少女は倒れた穢竜を見つめ、呟く。

 この穢竜はすでに絶命している。少女が討伐したのだ。


「クルルゥ」


 少女の横にいる白竜が少女に擦り寄る。

 竜は竜騎士にとって相棒そのものだ。


「そうね。早く騎士舎に行きましょう」


 少女は今日から白竜騎士団に入ることになっていた。

 年齢から見ると異例の抜擢ばってき

 両親からの期待も厚く、彼女は白竜騎士になった。


 少女は相棒に乗り、王都内にある白竜騎士団の騎士舎に戻った。

 

 王国には大きく分けて二つの騎士団がある。

 白竜を相棒とする白竜騎士団。

 黒竜を相棒とする黒竜騎士団。


 どちらも穢竜の駆除を役割としているが、白竜の方が穢竜討伐には向いているため、白竜騎士団の方が格式が高いという印象がある。


 そんな白竜騎士団に一か月前黒竜騎士が入ってきた。

 相棒はウロコを削がれ無理矢理白竜となった黒竜。

 このバディは白竜騎士団では異色の騎士として疎まれているらしい。


 今日、白竜騎士団に入団するレラシャはそれが理解できなかった。

 なぜ突然黒竜騎士団から白竜騎士団への転属がなされたのか。それほどまでに白竜騎士団は落ちぶれていたのか。

 怒りと疑念が際限なく浮かんでくる。


「⋯⋯⋯」


 相棒のティナを竜舎に入れて、レラシャは騎士舎に入る。

 中は何の面白みもない石レンガ造り。映えるものと言えばたまに置いてある観葉植物くらい。


 団長室までは中庭を通らなければならない。レラシャは何人かの騎士とすれ違い、中庭に着いた。

 中庭は中央に木が一本生えており、その周りに草花がひしめき合うように揺れていた。


「⋯⋯ん?」


 そこで少女騎士の目にある一人の男が目に入った。

 全身作業着姿の男。騎士舎の掃除係であろうか。

 そしてレラシャはその男と目が合う。 


「おや、こんにちは。見ない顔ですね。新人の騎士様ですか?」


 男は作業着で顔半分を隠しており、目元だけしか見えない状態だった。しかし、おそらく声からして二十代後半か三十代前半。

 にこりと微笑む男の目元は、彼の人の良さそうな雰囲気をかもし出していた。

 

 レラシャは男の質問に答える。


「えぇ。今日入団したばかりです」


「そうでしたか。では分からないことがあれば何でも訊いて下さいね」


「はい。ありがとうございます」


 と、少女騎士は丁寧に頭を下げる。

 騎士舎の内部は見かけよりも複雑な構造をしている。彼はそれを知り尽くしているようだし、何かあったら頼らせてもらおうとレラシャは思った。


 中庭を抜けると、その先に団長室が見えた。

 もう一度軽く会釈をしてレラシャは団長室へと向かう。

 団長室の前に着くと、三回軽くノックした。


「レラシャ・ノーブルです」


 名を名乗ると部屋の中から低く落ち着いた声が返ってくる。


「入れ」


「失礼します」


 レラシャは中に入る。

 中は両側に本棚が置かれており、中央奥に執務机が置かれているという至ってシンプルな配置だった。


 執務机には、黒髪長髪のいかにもお堅そうな三十代後半と思われる男が座っていた。

 彼は白竜騎士団の団長ダナン・カテリア。

 王国随一の竜騎士と呼ばれ、黒竜騎士の騎士団長と対を成す存在でもある。


「君がレラシャ・ノーブルか。ようこそ白竜騎士団へ」


 ダナンがレラシャを見て言った。

 

「ダナン団長。これからよろしくお願いします」


 レラシャはダナンに頭を下げる。

 すると彼は顎に手を当てて言った。


「ふむ。これであれば教育は必要ないか」


「教育の必要な騎士がこれまでに居たと?」


「君ほどの年だとたまに居るのだよ。しつけがなっていない子どもがね」


 竜騎士は王国の中ではいわゆるエリートにあたる職業で周囲からの評判も良い。そんな職務に若くして就いたとなるとおごりたくなる気持ちも理解できなくはない。

 

 だが竜騎士は民を守る役割にある。そこを履き違えて傲慢な態度を取る輩は騎士にふさわしくない。

 竜騎士団の権威を落とさないためにも驕った態度を取る騎士には教育という名の訓練が待っているのだ。


「私は合格ですか?」


 レラシャが訊くと、ダナンは答える。


「あぁ。君のような者であれば何の問題もない」


「では質問してもよろしいですか?」


「ん? 何だ?」


 レラシャはずっと気がかりだった事を質問した。


「なぜここには紛い物の白竜騎士が一名属しているのですか?」


「紛い物の⋯⋯白竜騎士?」


 するとダナンは笑って、


「あぁ、キリアのことか」


 そう。黒竜騎士団から急遽きゅうきょ転属された騎士、キリア・エユート。


 なぜ彼が格式高い白竜騎士団にやって来たのか、その理由は表立って明かされていない。しかし白竜騎士団の団長たるダナンなら、その理由を知っていると思った。


 ダナンは少し考える素振りをしてから口を開いた。


「君は彼が嫌いかな?」


「いえ、嫌いとかではなく、単純に理由が気になるのです」


「それは本心か? 彼がここに居るのが気に食わないからではないのか?」


「そんなことは⋯⋯」


 ダナンの言うことも一部当たっていた。

 幼い頃から目標としてきた白竜騎士団。それに突然黒竜騎士が入ったとなると、無意識に異物扱いしてしまうのは自然なことだった。


「その感情はあまり良くない。近いうち、君も彼と任務に当たることがあるだろうからね」


「しかし! なぜですか! なぜ黒竜騎士の者がこの騎士舎に?」


「⋯⋯⋯」


 ダナンは立ち上がり背を向けた。

 窓の外を見て、しばらく黙っていた。そして言う。


「彼でないと“あの白竜”を使えないからだよ」


「あの白竜⋯⋯?」


「そう。ウロコを削がれた黒竜のこと」


 竜たちにとってウロコを剥がされることは屈辱以外の何ものでもない。人間への恨みや憎しみも相当あるだろう。

 普通に考えれば誰も手懐けられない。しかし。

 

「キリア・エユートだけには背を預けた。それが理由だよ」


「ではなぜ白竜騎士団に黒竜が認められるのですか!」


「それはまぁ、見た目が、ねぇ」


 ダナンはちらちらとレラシャに視線を送る。

 許容しろということか。レラシャは激昂げきこうしそうになった。

 

「おっと待て待て。存外、見た目というのは生物において大切だぞ? 竜だって自分とは異なる色の竜が居ては違和感を覚えるだろう。それを考えれば、白竜騎士に居たほうが、まだわだかまりが無くなるということだ」


「⋯⋯⋯」


 レラシャも紛い物の白竜については見たことがある。事前に知っていても一見白竜だと誤認してしまいそうになるほど美しい竜だった。


「理解してくれ。君も、竜のことは愛しているはずだ」


 ダナンはレラシャが竜に弱いことを知っていてこの言葉を言った。

 竜を愛しているはず、こんなことを言われたらレラシャからは何とも言えない。

 レラシャは怒りを飲み込むように言った。


「⋯⋯わかりました。お手数をおかけしました」


「うん。解ってくれてうれしいよ」


 ダナンはにこりと微笑む。決して面倒だと思う感情は表に出さない。


「ああ、そうだ。ちなみにくだんのキリア・エユートはこの部屋の近くに居るのだが、今ここに呼ぼうか」


「へ? ちょ、ちょっと待っ⋯⋯」


「そう緊張するな。会ってみればただの何でもない男だよ」


 と、ダナンは笑いながら連絡魔導器に連絡を送る。

 初めて見た時の印象とは裏腹に、この状況を絶対面白がっている。

 何がお堅そうな男だ。これは、とんでもない愉快犯ではないか。


 レラシャが思っていると、コンコンコンとノックが入ってくる。

 本当に呼んでからすぐだった。


「入れ」


 人の悪い笑みを浮かべながらダナンは言う。

 レラシャはそれが自分に向けられているものだということが嫌と言うほど理解でき、


「失礼します!!」


 と、なかば怒りに満ちたまま団長室を出ていこうとした。

 団長室から出ていく時、先刻の掃除係とすれ違った。

 まさかこの男が例の白竜騎士なのだろうか。もしそうだとしたらもっと酷い。なぜ白竜騎士ともあろう者がこんな格好をして⋯⋯。


「⋯⋯⋯っ」


 レラシャは考えるのをめた。

 考えれば考えるほどに怒りが湧いてきたから。

 顔をブンブンと横に振り、レラシャは中庭を抜けていった。



   ◆ ◆ ◆

 


 若き少女騎士が出ていった後、団長室にはダナンの団長とは思えない笑い声が響いていた。


「ひー! 見たか、あの顔! あは、あははっ、はははははっ! おもしろっ、おもしろい、ははははははっ!!」


 この笑い声を一人の作業着男が聞いていた。

 彼は呆れたように言う。


「おい、下品だぞ。ダナン」


「だって、だって、面白いんだもん!」


「馬鹿か。さっさといつものに戻れ」


「敬語は?」


「お前が戻ったらだ」


「あ、そう」


 ダナンは姿勢を整え、「ゴホン」と咳ばらいをした。


「さぁ、戻ったぞ」


 ダナンが言うと、男は先程のように人が良さそうな雰囲気に戻り、


「団長、今回は何の用件でしょうか?」


 彼はにこりと微笑んでたずねた。

 すると。


「ぐ、くふ、くふふ⋯⋯」


 ダナンがまた笑い出しそうになる。


「おい」


「すまんすまん。お前のその口調を見ていると、思わず笑いたくなってしま⋯⋯」


「真面目に団長やれ」


「分かったから」


 ダナンが降参とばかりに手を上げると、男はため息を一つ吐いた。


「で、何用?」


 ダナンは机に肘を付けて言う。


「ちょっとさっきの騎士と顔合わせをさせようと思っていただけだよ」


「⋯⋯あぁ、なるほどね」


 男⋯⋯キリア・エユートは何となくダナンの言いたいことを察した。


「あの子、俺のことが気に食わないのか」


「そこまでは言ってない。ただ、なぜお前がここに居るのかが気になっている様子だった」


「はぁ⋯⋯そんなこと、『ライレ』を連れてきた上の連中に言ってくれよ」


「一般の騎士には情報が回っていないんだよ」


「じゃあ回せ」


「敬語敬語」


 と、ダナンは笑って言った。

 

「団長の権限で、できないものですかね」


「無理だな。所詮、私たち竜騎士は王家のお抱えだ。王家が動かなければこちらはどうともすることができない。お前も解っているだろう?」


「⋯⋯⋯」


 ダナンはニヤニヤとニヤけ面を向けてくる。

 彼はキリアがどんな立場なのか理解している上で言っているのだ。


「団長はお人が悪いですね」


「お前も団長だろう」


「今は一応、新人の白竜騎士ですが」


「黒竜騎士団団長の名が聞いて呆れるな」


「白竜騎士だって言ってんだろ」


「お〜こわ」


 キリアはため息をついた。

 彼が黒竜騎士団の団長だった時はこんな奴と王国の双璧を成していたのだ。

 彼自身、よくダナンと騎士団をまとめていられたと思う。


「もう戻っていいか?」


「ん? あぁ、庭整備をやってたんだったか」


「そうだよ。アンタも中庭はきれいな方が良いだろ?」


「それはそうだな。私はいつもあそこで昼食をとっているからな」


「じゃあ、俺はこれで」


 ダナンと居るとロクなことにならない。彼は見た目に反して面白いことが大好物な愉快犯だ。変なことを頼まれる前に撤退するに限る。


「待て」


 しかしダナンは止めた。


「今、穢竜の出現連絡が入った。討伐に向かえ」


「は? 今このタイミングで?」


 絶対におかしい。もし神がキリアのことを嘲笑あざわらっていたとしても、このタイミングは無い。


「お前⋯⋯わざとか」


「いやいや、そんな不審な目で私を見つめるな。たまたまお前たちが来る前に入っていた連絡を先延ばしにしていたに過ぎない」


「わざとじゃないか」


「そうとも言える」


「これこそ白竜騎士団団長の名が聞いて呆れる。一般市民に被害が出たらどうするつもりだ?」


「巡回中の白竜騎士が見つけた。およそ人は住んでいない辺境の辺境だ」


 だとしてもその白竜騎士が危ないと思うのだが。

 そんなツッコミを飲み込んで、キリアはダナンに背を向けた。


「はぁ⋯⋯場所は?」


「王国南西。具体的なマップは魔導具に送っておいた」


「えぇっと。巡回中だった白竜騎士の加勢と、あとは目標討伐か」


「理解が早くて助かる」


 ダナンは団長としての真面目ヅラを崩して、にこりと笑った。

 ムカつく、とキリアは内心思いつつも、団長に頭を下げ、その後すぐに団長室を出ていった。


 キリアが出ていくと、ダナンはまた面白がった顔に戻り、呟いた。


「―――レラシャ嬢とも上手うまくやれよ、キリア」



   ◆ ◆ ◆



 団長室から出てすぐ辺境で穢竜の討伐が入ったため、レラシャは相棒の白竜を疾走らせ目的の場所まで急いでいた。


 森の上を抜け、山あいの平原に出る。

 すると、遠くに負傷した騎士とそれを守る傷だらけの白竜が見えた。


 穢竜は白竜とその騎士を攻撃し、どこか余裕の勢いで彼らをいたぶっていた。


「やめなさい!」


 レラシャは叫び、相棒のティナに息吹いぶきを吐かせる。


「ガアアァァァァ!!」


 穢れた魔力を纏う穢竜は、穢れた息吹でそれに応えた。

 力は同等か、少し相手が上かだった。

 ティナに白い息吹を吐かせつつ、レラシャはティナから飛び降り負傷した騎士に近寄る。


「大丈夫ですかっ!?」


 負傷した白竜騎士は掠れた声で言った。


「気を、つけろ。そいつは上位穢竜だ⋯⋯!」


「上位穢竜!?」


「気を抜いたら、殺される⋯⋯」


 上位穢竜は中位穢竜のさらに上のランクの穢竜だ。強さもその名に劣らず穢竜の中でも最高の強さを誇る。

 中位穢竜までならレラシャもたおしたことがあるが、上位穢竜となると騎士の言う通り命の危険がともなう。

 だがレラシャは顔に自信をみなぎらせて言う。


「上等よ。中位穢竜ばかり相手してこっちも退屈してたところだもの。アイツは必ず私が斃してあげる」


 これはおごりか、それとも本当に自信か。

 これまでレラシャは中位穢竜しか相手にしてこなかった。上位穢竜とはこれが初めての戦いになる。

 

 が、彼女は油断していた。

 上位なんて中位の少し強い個体、くらいにしか思っていなかったのだ。

 それが、後に彼女の身を滅ぼすことになる。


「だ、だめだ⋯⋯。逃げ、ろ⋯⋯」


 という、騎士の最後の忠告も彼女は聞かなかった。

 


   ◆ ◆ ◆



 おかしい。

 今目にしている光景が夢ではないかと思うくらいに、レラシャは呆然としていた。

 上位穢竜が相棒のティナをいたぶり、彼女のウロコは穢れた魔力で黒ずんでいく。


 レラシャの白魔法、ティナの白息吹。彼女たちの攻撃は、上位穢竜の前ではまるで歯が立たなかった。

 本来ならば特効であるはずの攻撃は、当たっても傷一つつかなかった。


「どうして⋯⋯」


 これまでレラシャは何度も中位穢竜を斃してきた。

 今回も同じ結果だろうと思っていた。

 たかが穢竜。中位だろうと上位だろうと何ら変わりはないと思っていた。


 しかし、それがこのザマだ。

 上位は単純に彼女の予想を超えた力を持っていた。何をしても通用しない。完全に彼女の実力不足だった。

 

 レラシャが呆然としている間にも、ティナは悲鳴をあげながら上位穢竜に傷つけられていく。


 レラシャは立ち上がろうと足に力を入れる。

 が、どうしても立ち上がれない。

 上位穢竜に対する際限のない恐怖。それが彼女を縛る。

 

 自分が行っても殺される。と恐怖する。

 今、レラシャはティナに守られている状態だ。それは、先刻の負傷した騎士とまったく同じだった。

 助けに来たはずが、同じ状況におちいってしまった。

 

 情けない。

 実力を見誤った。

 自分の完全な実力不足。


「ガアアアッ!!!」


 ついにティナが倒れてしまった。

 ズシンと地響きが起こり、上位穢竜は倒れたティナの首に鋭い何本もの牙を入れた。

 また、ティナの悲鳴が上がる。


「っ⋯⋯⋯!」


 レラシャは思わず耳を押さえた。

 助けに入りたいが、恐怖で立ち上がれない。

 何もすることができず、ただ相棒の悲鳴を聞くだけになってしまう。


「助けて⋯⋯誰か助けて⋯⋯」


 涙を流しながらレラシャは懇願こんがんした。

 その時、一枚の大きな影がレラシャを覆った。


「っ⋯⋯⋯?」


 レラシャが上を見上げると、そこには大空を飛ぶ純白の竜の姿があった。

 ティナよりも一回り大きく、つばさは白竜とは思えないほどがっしりとしていた。

 その白竜は上空から穢竜だけを狙って黒い息吹を吐いた。


「ガァァァァ⋯⋯!!」


 宝石の欠片かけらが入ったような黒い息吹は、上位穢竜を一瞬にして飲み込んだ。

 白竜に乗った騎士は、なおも息吹を吐き続ける相棒をポンポンと労り、地上に飛び降りた。


「⋯⋯よっと。おい、君。大丈夫か?」


 白竜騎士はレラシャに尋ねた。

 レラシャは数秒ぼぅっと彼を見ていたが、すぐに我に返り答えた。


「は、はい。えっと、あなたは⋯⋯」

「キリア・エユート。ついさっき騎士舎で会ったね」


 キリアは朗らかな笑みを見せる。

 レラシャはこの時初めてちゃんと彼の顔を見た。

 ダナンとはまったく真逆のタイプの顔。中庭では目元だけだったが、全体を見ても穏やかで人の良さそうな印象を受ける男だった。


「そうだ⋯⋯穢竜は⋯⋯!?」


 しばらくキリアの顔に見入ってしまったが、まだ上位穢竜は死んではいない。戦闘は終わっていないのだ。

 だが、キリアは余裕の表情でレラシャに背を向けた。


「大丈夫。すぐに終わらせる」


 彼は右手を大空に掲げ、パチンと指を弾く。

 すると白竜が黒息吹を吐くのを止める。

 

「ライレ、押さえろ」


 彼は低い声で呟き、相棒に穢竜を押さえつけさせる。

 白竜は空から地上に降りてくると、上位穢竜を上から勢いと共に押さえつけた。


「⋯⋯⋯ッッ! ガァァァッッ!!!」


 穢竜は拘束から逃れようと必死にもがく。

 翼をバサバサと上下に動かし、首を左右に激しく動かし、白竜の拘束から逃れようとする。

 が、それよりも一回り大きい白竜は見事に穢竜を押さえつけてみせた。


「すごい⋯⋯」


 単純な体格差もあるのだろうが、何よりもあの白竜は状況に応じた適切な拘束ができていた。

 まず胴体を完全に押さえ、次に四肢の各関節を翼や尾を用いて地面と板挟みにする。

 まるで人間のような知性と、状況判断能力を持っている。よく訓練された賢い竜だ。


 そしてそれを作り上げたのがあの白竜騎士。

 キリア・エユート。突然黒竜騎士団から転属となった謎の騎士。


「黒剣――断頭」


 彼が言うと、掲げた右手に魔力が集まり、一本の黒い線が轟音と共に現れる。

 激しく微細に揺れ動く魔力は、周囲の空気を振動させ、その真の威力を如実に表していた。


「黒⋯⋯魔法」


 レラシャはただ呆然と黒いつるぎを見上げた。

 白魔法と比べ出力に劣る黒魔法をああも簡単に鋭い剣とするこの光景が、レラシャは信じられなかった。


 穢竜は本能からか動きがより激しくなる。

 キリアの圧倒的強者たる雰囲気に負け、何が何でも拘束から逃れようとバタバタと暴れる。

 しかし、「ライレ」と呼ばれた元白竜は、穢竜を逃さなかった。


 キリアはピクリと掲げた右手を動かしたかと思うと、一瞬にして穢竜の長い首を両断した。

 空気は遅れてその動きについていき、レラシャの頬を鋭く掠めた。


 

   ◆ ◆ ◆



 上位穢竜との戦いから数日後、自室での療養を経て、レラシャはまたダナンに呼び出されていた。

 あれからレラシャはキリアを軽蔑することはなくなり、むしろ彼について回るようになっていた。


「失礼します」


 レラシャが団長室に入ると、ダナンの執務机の前にはすでに一人騎士がいた。


「⋯⋯あれ? 君も呼び出されてたの?」


 それは、初めて会った時の敬語がすっかり取れた、元黒竜騎士団団長および新人白竜騎士のキリアだった。


「キリアさん。あなたもですか」

「ああ。俺も今来たばかりなんだけどね」


 レラシャはキリアの方に歩いていき、彼の横に並んだ。

 そして執務机に肘をつけるダナンは、相変わらずのニヤケ面でレラシャたちを見ていた。


「仲が良さそうでなによりだ」


 ダナンがご満悦で言うと、キリアはため息を付きながら用件を尋ねた。


「はぁ⋯⋯そんなことはどうでもいいから、今回は一体何の用?」

「それはだな⋯⋯ふっふっふ⋯⋯」


 含みの入った気持ち悪い笑みを見せつけると、ダナンは声を張って宣言した。


「今より、君たち二人をバディに任命する! これからは私直属の隊として穢竜を狩って狩って狩りまくるのだ!!」

「⋯⋯⋯は?」

「⋯⋯⋯へ?」


 こうして、レラシャとキリアの騎士物語は幕を開けたのだった。

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紛い物の白竜騎士 灯菜 @akarina939

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