量産型桃太郎

瘴気領域

種ならば、殖えましょう

「これは、種であろう」


 山深い一軒家。

 老爺の冷徹な声が静かに響いた。

 酷薄な眼差しが見下ろしているのは、あどけない産声を上げる赤子である。

 その白くむくんだ肌は、馥郁たる香気豊かな果汁に濡れている。

 桃の汁である。

 赤子の左右には、二つに割れた大きな桃があった。

 大人がひと抱えする、米俵ほどのそれ。

 明らかに尋常なものではなかった。


「種ならば、えましょう」


 老婆が歯のない口で嗤った。

 皺だらけの手にはよく研がれた手術刀が握られている。

 その切っ先が赤子の柔らかな肌に食い込んで、

 赤子が泣いて、

 皮膚を裂き、

 赤子が泣いて、

 肉を割って、

 赤子が泣いて、

 腱を断ち切り、

 赤子が泣いて、

 骨を剥がして、


「まずはとおで殖えましょう」


 整った肉塊が十、床板に並んだ。


 * * *


 壮健たる青侍が百、並んで立っていた。

 その感情のない瞳には、燃える村が映っている。

 火に巻かれる女が、血まみれの幼児が、腕の千切れた老人が、

 泣き叫んでいた。

 断末魔がとぐろを巻いていた。

 その惨状を生み出した者たちが嗤っている。

 その肌は赤い。熱した鉄のように赤い。

 その肌は青い。溺死した屍体よりも青い。

 額には角がある。

 金剛力士像の如き肉体。

 丸太のような金砕棒を軽々と振り回し、家々が紙細工のように吹き飛ばされる。

 鬼であった。 


「かかれい」


 老爺が杖の先を鬼の群れに向ける。

 青侍たちが抜刀し、一斉に駆け出した。

 ある者は蹴り飛ばされ、ある者は踏み潰され、ある者は金砕棒で頭を砕かれる。

 だが、

 ある者は突き刺し、ある者は斬りつけ、ある者は目玉をえぐって脳をほじくる。


 一刻ほどがかかった。

 六体の鬼が斃れている。

 その周りには、十倍ほどの青侍が斃れている。

 正確な数はわからない。

 屍体のほとんどが原型を留めていないのだ。

 屍体からでは数えようものない。


「点呼」


 老婆が呼びかけると、生き残った青侍が整列し、端から順に数を数えた。


「残りは五十八、か」

「五十六ですよ、お爺さん」


 二人の青侍が、喉を突いて死んでいた。

 どちらもはらわたがこぼれる傷を負っていた。

 手当てで治るものではなかった。


「量産型桃太郎――このキルレシオでは鬼の殲滅には足りんな」

「数を殖やすか、質を上げるか、思案どころですねえ」

「質、で考えておる」


 老爺は腰に提げた図嚢から、一枚の設計図を取り出した。


「これは?」という老婆の問いに、

「バイオ甲冑。犬、猿、雉」

「犬は近接火力の強化、猿は遠隔狙撃、雉は機動力。面白いですねえ」

「であろう」


 老爺と老婆が踵を返すと、青侍たちがそれを静かに追った。

 未だ燻る村からの、苦鳴とすすり泣きに送り出されて、振り返ることもなく。

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量産型桃太郎 瘴気領域 @wantan_tabetai

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