次元遊歩者(ディメンション・ウォーカー) ――全世界を踏破する男の叙事詩――』

@hitroshi

第1話

プロローグ


――世界は、音もなく裏返る。


夜明け前の空は、いつも不安定だ。

闇でもなく、光でもない。その曖昧さが、現実の輪郭を緩める。


俺がそれに気づいたのは、たまたまだった。


原稿明けの早朝、眠気を誤魔化すために歩いていた住宅街。

アスファルトに落ちる自分の影が、ふと二重になった。


「……?」


立ち止まった瞬間、世界が軋んだ。


音はなかった。

ただ、空間そのものが紙を裂くように割れ、裂け目の向こうから異質な色彩が滲み出した。


紫がかった空。

浮遊する岩塊。

遠くにそびえる、幾何学的すぎる塔。


脳が理解を拒否する前に、身体が前のめりになる。

まるで重力に引かれるように、俺は裂け目へと落ちていった。


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