蟲葬異変

クワガタ

第1話 幕開け

 外は冬夜…。葉の散った枯れ木が山を覆い冷えた風が山の斜面を撫で裸になった山を眩いほどの光が包む。水分を失った山はすぐに光で包まれていく。山火事だ。

パチパチと火の粉が舞い、周囲の山に飛び火していく。規模で言うなら山を覆いつくす勢いにもかかわらず街は未だに気づいていない。妖怪の炎は一般人にはみえないからだ。

「最後の一つ。」

 現人神…雨宮 あまみや しおりはいくつ山を焼いただろうか。いや、数えるだけ無駄だろう。地続きの山はすべて燃やし尽くした。宙を飛ぶのは夜光虫(式神)の群れだ。彼らの身体が草木に触れると木や草が燃え出していく。

 彼女の目的は山を焼くことではない。山脈の周囲を流れている霊脈や龍脈の力を糧に燃える妖怪の火を使うことで霊脈の力を奪うことが目的だった。それが終われば地上の弱体化が終わるためである。

に反応はない…。霊脈ももうしばらくは邪魔できない。」

 雨宮 栞の能力は二つある。父親から教わった現人神家系に代々伝わる式神を作り出して操る程度の能力。そしてもう一つが現人神由来の動物と会話する程度の能力。     

 彼女にとって不運だったのはこの両方を持ってしまったことだろう。片方だけならば何も起きなかったのだから…。彼女の整った顔は相変わらず暗いままだった。

 後は各地に配置した式神たちに願うだけでいい。地上の人間を皆殺しにしろと。

雨宮が式神たちに最後の命令を下そうとした次の瞬間だった。

「随分と大仰なことをするのね。」

 死角からの唐突な声は雨宮の集中を欠くには十分すぎた。

振り返る彼女の眼に飛び込んできたのは紫と薄桃色の服に身を包んだ少女…八雲 やくも ゆかりだ。幻想郷の賢者の一人であり、帽子から外に出る亜麻色の髪は火の光をきらびやかに反射していた。だが相手は妖怪だが今の彼女にとっては人間だろうが妖怪だろうがすべて敵である。儀式をすぐに再開しようと八雲紫に臨戦態勢をとった刹那、足元が揺らいだ。正確には足元の地面がなくなったのだ。八雲紫の境界を操る程度の能力で境界をいじったのだろう。

「っ!!」

 雨宮は咄嗟に体制を整えようとした結果、反応が遅れ有無を言わさず穴の中に飲み込まれたのだった…。彼女が八雲紫が作った境界の穴に飲み込まれたのと同時に式神たちの動きが止まる。それに応じるように火の手も弱まる。

「貴方の怒りも幻想郷は受け入れるわ。すべてね。」

そう言い残すと八雲紫もまた境界の中に消えていくのだった。

 

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蟲葬異変 クワガタ @flyebi

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