夜の果て、断罪の刃
ゆきむらゆきまち
第1話
「大いなる夜の貴婦人」マグダレナ選帝侯ガリュシアが管理するこの地は亜人と魔獣にとっての楽園であり、人間にとっては牢獄に等しい過酷な魔境であった。
帝国全土で人間が虐げられていたわけではない。首都アイドネウスでは貴族の文官に交じって人間の平民官僚も多数働いていたし、西方属州カスパニアの総督&選帝侯に至っては氏族ですらない人間の
しかし、その事実は今まさに死なんとしている労働者たちにとって何の慰めにもならない。彼らは
森の中に開けた本来は魔獣狩人が用いる野営地。焚火の前に哀れな逃亡者たちが引き出される。「ふべっ」まず一人が喉を裂かれて倒れた。ぼろをまとった男はわずかに痙攣し、すぐに動かなくなる。残りは十四人。
「おい、殺したら労働力が足りなくなるだろうが」「知るかよ、適当にさらって補充すればいい。こんなぼろクズども、どのみちもう役立たずだ」「そうそう、三日間もこいつらに時間を使っちまったんだ、少しは憂さ晴らししねえと」
あちらこちらから凄惨な声が上がる状況を、ルプスの隊長は静止できなかった。そもそも彼自身も追跡行に焦燥と怒りを覚えていたことではある。彼の上司にしても、決してこの餓狼たちより温厚とは言えなかった。
「隊長、腹が減った。こいつら肉は貧弱もいいところだが、骨ごとなら腹の足しにはなるぜ」「ああ、とっととばらして焼いちまおうぜ」
「……何人か連れ帰らんと仕事をした証拠にならん。ほどほどにしろ」
隊長は妥協案を示し、すみやかな虐殺が許容された。
「ひゃっはー!!」十三人、十二人、十一人、十人。
次々に解体され、火にくべられる人だったものを、労働者たちは絶望とともに見つめた。恐怖のあまり、すでに気死したかのごとき者もいる。
残り九人、八人、七人、六人……。そして五人目が解体の場に引き出されようとしたとき、異変が起きた。
突然音が消え、野営地は外界と遮断された。
気が付けば透明な壁が筒状に野営地を囲んでいた。
思わずあたりを見回すルプスたちの中、隊長だけがいち早く気付く。
「
それに応えるように、
『遍く世界の果てまで、我が刃は墜ちる』
その言葉が終わると同時に。
全てのルプスの首が落ちた。
呻きもなく、叫びもなく、風鳴りの音すらなく。
そして、生き残った労働者たちは見た。
焚火の上に降り立った、その影を。
炎に炙られながらその衣ははためくこと無く。
両手に握られ薪に突き立てられた大剣には一滴の血も無く。
照り返しを受けながらその顔は捉えること能わず。
ただ、青白く光る両の眼だけを見た。
『七幻が一人、
『
それは現か幻か。
瞬きの間に、その姿は消え去り。
ただ燻る焚火と死体の中、彼らは残された。
のちに生き残った労働者は振り返る。
「何故ダーコヴァーが現れてくれたのか、全くわからない」
「もっと酷い戦や虐殺の時でも、七幻が現れなかったことは沢山あると聞く」
「我々は幸運だった。しかし、同時に超越者たちの理不尽も感じる」
「しかし、それでも、生きのびてしまった以上……我々ができることは」
「各々の生を全うすることだけだ」
夜の果て、断罪の刃 ゆきむらゆきまち @yuki-yukimura
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます