第2話
武器商ガルドの店は、王都の中心街、商人通りにある。店の前には様々な武器が陳列されており、朝から多くの冒険者で賑わっている。剣、槍、斧、弓。あらゆる武器が、磨かれた状態で並べられている。
俺は緊張しながら店の扉を開けた。扉についた鈴が、カランと軽やかな音を立てる。
「いらっしゃい。武器をお探しかね?」
カウンターの奥から、恰幅の良い中年男性が現れた。髭を蓄え、鍛冶師のような丈夫なエプロンを身につけている。これがガルドだろう。
「あの、掲示板で武器の修理と鑑定の依頼を見まして......」
「ほう、鑑定士か。珍しいな」
ガルドが興味深そうに俺を見る。商人らしい鋭い目だが、どこか温かみがある。
「鑑定士は滅多に来ないんだ。それで、腕前はどの程度だ?経験は?」
「昨日、スキルが進化して、詳細な鑑定ができるようになりました」
「進化?」
ガルドが眉を上げる。
「そいつは初耳だな。鑑定スキルが進化するなんて話、聞いたことがない」
「おそらく、レベル10まで上げた人間が少ないからだと思います」
「なるほど......まあいい、百聞は一見に如かずだ。試しにこれを鑑定してみてくれ」
ガルドが奥から一振りの剣を持ってきた。見た目は立派で、装飾も美しい。高級そうな剣だ。だが、どこか違和感がある。
俺は剣に手をかざし、『精密鑑定』を使う。
【名前】魔剣グラムの模造品
【種別】武器(剣)
【攻撃力】+28
【耐久度】65/80
【材質】鋼80%、魔鉄15%、その他5%
【製造者】不明(技術レベルから王国東部の鍛冶師と推測。おそらく港町ポートリアの鍛冶工房)
【製造年代】約2年前
【真贋】偽物(伝説の魔剣グラムを模した贋作。見た目は精巧だが、魔力伝導率が本物の30%程度。刃の波紋も人工的に作られたもの)
【本物との相違点】重量が本物より15%軽い、魔力の流れが不自然、刃の材質が異なる
【市場価格】本物なら500万ゴールド、贋作として売るなら5000ゴールド、騙して売れば50万ゴールド
【弱点】刃の中心部、柄から15センチの位置に内部亀裂あり。強い衝撃で折れる可能性70%】
「これは......魔剣グラムの贋作ですね」
ガルドの目が鋭くなる。腕を組み、じっと俺を見つめる。
「ほう、それが分かるのか。根拠は?」
「見た目は精巧ですが、魔力伝導率が本物の30%程度しかありません。それに、刃の波紋が人工的です。本物の魔剣グラムは、伝説の鍛冶師が特殊な製法で作ったため、独特の自然な波紋があるはずです」
「......」
「さらに、刃の中心部に内部亀裂があります。柄から15センチの位置です。強い衝撃を受ければ、折れる可能性が高いです」
「......完璧だ」
ガルドが感心したように頷いた。そして、ゆっくりと拍手をする。
「実はな、これを本物だと言って売りつけようとした商人がいたんだ。俺も長年この商売をやってるから、怪しいとは思ったが、確証が持てなくてな」
「鑑定の結果、間違いなく贋作です。それも、かなり精巧な」
「そうか......助かったよ。もし騙されて買っていたら、50万ゴールドの損失だった」
ガルドが安堵の表情を浮かべる。
「では次だ。これはどうだ?」
ガルドが次々と武器を持ってくる。剣、槍、斧、弓。俺はそれらすべてを正確に鑑定していった。
【破損した騎士剣】→修復可能、必要材料と時間を提示
【魔力を帯びた杖】→隠された能力を発見
【古代の盾】→製造年代と由来を特定
【呪われた短剣】→呪いの詳細と解除方法を解析
一つ一つ、詳細な情報を伝えていく。ガルドの表情が、驚きから感動へと変わっていく。
「素晴らしい!こんなに詳細に分かる鑑定士は初めてだ」
ガルドが興奮気味に言う。
「いや、鑑定士というより......もう職人の領域だな。製造方法まで分かるとは」
「鑑定スキルが進化した結果です」
「それで、報酬の話なんだが......」
ガルドが真剣な表情になる。
「今日鑑定してもらった分で、5000ゴールド払おう」
「5000ゴールド!?」
思わず声が出た。普通の鑑定なら、1件100ゴールド程度が相場だ。10件鑑定しても1000ゴールド。それが5000ゴールドとは。
「驚くのも無理はない。だが、お前の鑑定は贋作を見抜き、俺が騙されるのを防いでくれた。その価値は十分にある」
ガルドが金貨の袋を差し出す。ずっしりと重い。
「それにな、もう一つ頼みたいことがあるんだ」
ガルドが真剣な表情になる。
「実は、壊れた魔法武器が倉庫に眠っている。修理できれば高く売れるんだが、どの鍛冶師も『無理だ』『直せない』と断るんだ」
「どんな武器ですか?」
「ついてこい」
ガルドに案内され、店の奥の倉庫に入る。そこには、無数の武器や防具が積まれている。埃をかぶったもの、錆びたもの、破損したもの。おそらく、買い取ったものの売れなかったものたちだろう。
「これだ」
ガルドが指差したのは、美しい装飾が施された片手剣だった。赤い宝石が柄に埋め込まれ、刃には炎の紋様が刻まれている。
だが、全体的に傷んでおり、宝石も輝きを失っている。
【名前】炎剣フレイムエッジ
【種別】魔法武器(剣)
【等級】上級魔法武器
【攻撃力】+35(本来は+50)
【耐久度】22/100
【特殊効果】炎属性付与(現在機能停止中)
【製造者】宮廷魔術師兼鍛冶師、エリック・フレイムハート(故人)
【製造年代】約30年前
【由来】かつて騎士団長が使用していた名剣。持ち主の死後、骨董商の手に渡り、いくつもの手を経て現在に至る
【破損状況】
- 魔力回路が3箇所で断線
- 柄の魔石(ファイアクリスタル)が破損し、魔力供給が停止
- 刃に複数の亀裂(5箇所)
- 全体的な魔力の流れが停滞
【修復可能性】85%(魔力回路の再構築、魔石の交換、刃の再鍛造により完全修復可能。ただし高度な技術と希少な材料が必要)
【必要材料】
- 中級魔石(ファイアクリスタル)×1
- ミスリル粉末50g
- 火竜の鱗1枚
- 精霊水100ml
【修復時間】約2時間
【修復手順】詳細な工程が脳内に展開される......】
「これは......修復できます」
「本当か!?」
ガルドが目を見開く。
「はい。ただし、材料が必要です。中級魔石のファイアクリスタル、ミスリル粉末、そして火竜の鱗」
「材料なら全部ある!」
ガルドが興奮しながら倉庫を駆け回り、材料を集めてくる。魔石が入った小箱、ミスリル粉末の瓶、そして鱗のかけら。
「本当に修復できるのか?お前は鑑定士だろう?鍛冶の訓練は受けたのか?」
「いえ、訓練は受けていません。でも、鑑定スキルが進化して、構造を理解し、修復方法まで分かるようになったんです」
「信じられん......だが、やってみてくれ」
俺は深呼吸をして、炎剣に向き合う。
『詳細解析』を発動させると、剣の内部構造が頭の中に立体的に浮かび上がる。断線した魔力回路、破損した魔石、亀裂の入った刃。すべてが手に取るように分かる。
そして、修復の手順も完璧に理解できている。まるで、何百回もこの作業をやってきたかのように。
まず、破損した魔石を慎重に取り外す。古い接着剤を溶かし、ゆっくりと引き抜く。そして、新しい中級魔石を正確な位置にはめ込む。
角度、深さ、圧力。全てが重要だ。少しでもずれれば、魔力の流れが乱れる。
次に、ミスリル粉末を使って断線した魔力回路を繋ぐ。粉末を指先で慎重に塗り込み、自分の魔力を流し込んで固着させる。
魔力回路は、まるで人間の血管のように複雑だ。一箇所でも繋ぎ方を間違えれば、全体が機能しなくなる。
だが、『詳細解析』のおかげで、正確な位置が分かる。迷うことなく、一つずつ繋いでいく。
最後に、火竜の鱗を砕いた粉末を亀裂に入れ、精霊水と混ぜて高熱で溶かし込む。鱗の持つ強力な魔力が、刃の強度を補強し、亀裂を完全に塞ぐ。
熱気が顔を照らす。汗が額を伝う。集中力を切らさないように、慎重に作業を進める。
2時間後――
「完成しました」
俺が炎剣を手渡すと、剣が淡い赤光を放ち始めた。宝石が輝きを取り戻し、刃に刻まれた炎の紋様が生き生きと輝く。
【名前】炎剣フレイムエッジ
【攻撃力】+50
【耐久度】100/100
【特殊効果】炎属性付与(威力150%)
【状態】完全修復】
「信じられん......本当に修復できた......!」
ガルドが震える手で剣を受け取る。そして、試しに剣を振ると、刃から炎が立ち上った。
赤い炎が、美しい軌跡を描く。
「完璧だ......いや、元より強くなっているんじゃないか!?」
「修復の際に、魔力回路を最適化しました。炎の威力が元の150%になっています」
俺が説明すると、ガルドが呆然と俺を見つめる。
「君は......一体何者なんだ......」
「ただの、鑑定士です」
「ただの、だと......?」
ガルドが大きく笑った。豪快な笑い声が倉庫に響く。
「いいだろう!リオン、君をうちの専属鑑定士として雇いたい。月給10万ゴールド、それに加えて修復報酬は別途支給する」
「月給10万!?」
冒険者としての俺の月給は、せいぜい2万ゴールドだった。それが5倍......いや、修復報酬を考えればそれ以上だ。
「ただし、条件がある」
ガルドが真剣な表情になる。
「君の鑑定と修復の技術は、うちの店の機密だ。他言無用。そして、他の店では働かない。これを守ってくれるなら、君を最高の待遇で迎えよう」
俺は少し考えた。だが、答えはすぐに出た。
これは、俺にとって最高のチャンスだ。ガルドは信頼できる人物だと直感した。
「お願いします」
「よし!では今日から君はうちの一員だ!」
ガルドが力強く握手を求めてくる。俺もその手を握り返した。大きくて、温かい手だった。
「それで、次はこれを鑑定してくれないか?実はこの鎧なんだが......」
ガルドが次々と武器や防具を持ってくる。どれも問題を抱えているものばかりだ。破損したもの、劣化したもの、呪われたもの。
俺は一つ一つ丁寧に鑑定し、修復方法を提案していった。
中には、修復不可能なものもあった。だが、ほとんどのものは、適切な材料と手順があれば修復可能だった。
その日の終わりには、倉庫に眠っていた10点以上の武器と防具が完全に修復されていた。
「これで総額200万ゴールド以上になるぞ......君のおかげだ、リオン」
ガルドが嬉しそうに言う。
「いえ、僕も良い経験になりました」
実際、今日一日で鑑定スキルの経験値が大幅に上がった。複雑な武器を鑑定し、修復することで、スキルへの理解が深まった。
そして――
【スキル『精密鑑定』がレベル15に到達しました】
【新機能『強化』が解放されました】
新しい機能が解放された。『強化』......これは、既存のアイテムをさらに強化できる能力のようだ。
「ガルドさん、実は新しい能力が解放されました」
「なに?まだ何かできるのか?」
「はい。アイテムを強化できるようになったみたいです」
「強化......?試してみてくれ!」
ガルドが興奮して、修復したばかりの炎剣を差し出す。
俺は『強化』を発動させた。すると、剣をどのように強化できるか、複数の選択肢が浮かび上がる。
まるでゲームの画面のように、様々なオプションが表示される。
「攻撃力を上げる、耐久度を上げる、炎の威力を上げる、新しい能力を付与する......色々な選択肢がありますね」
「じゃあ、炎の威力を上げてくれ!この剣の特徴だからな」
俺は炎の威力を強化する選択肢を選んだ。手持ちの魔力を注ぎ込むと、剣がさらに強く輝く。
炎の紋様が、より鮮明に浮かび上がる。
【炎剣フレイムエッジ+1
【攻撃力】+50
【特殊効果】炎属性付与(威力200%)】
「威力が200%になりました」
「......君は化け物か」
ガルドが呆れたように笑う。だが、その目は喜びに輝いている。
「いや、褒め言葉だ。本当に君を雇えて良かった」
その夜、俺は久しぶりにまともな宿に泊まった。
ガルドが用意してくれた宿は、清潔で快適だった。ふかふかのベッド、温かい食事、広い部屋。
今まで泊まっていた安宿とは、天と地の差だ。
ベッドに横になりながら、今日の出来事を振り返る。
わずか一日で、人生が変わった。追放され、絶望していた俺が、今では月給10万ゴールドの専属鑑定士だ。
「鑑定スキル......まだまだ進化の余地がありそうだ」
俺はスキルステータスを確認する。
【スキル】精密鑑定 Lv.15
レベル20になれば、また新しい能力が解放されるかもしれない。どんな能力だろうか。想像するだけで、ワクワクする。
「そういえば......あいつら、元気にしてるかな」
グレンたちのことが頭をよぎる。俺を追放した元パーティメンバーたち。
今の俺なら、あいつらより遥かに稼げる。そして、あいつらが手に入れられないような力を手に入れた。
「見返してやる。必ず」
俺は拳を握りしめた。
これは、まだ始まりに過ぎない。
最弱スキルと呼ばれた鑑定が、世界を変える力になる。
その日は、そう遠くない――。
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