最弱スキルと馬鹿にされていた「鑑定」が、レベルアップで万能チート能力になった
カケガワ
第1話
「リオン、お前はクビだ」
ギルドマスターのグレンが冷たい声でそう告げた時、俺――リオン・アシュトンは何が起きたのか理解できなかった。
「え......どういうことですか?」
ギルドの会議室は静まり返っている。窓から差し込む夕日が、俺の影を長く伸ばしていた。この部屋で過ごした三年間の記憶が、走馬灯のように蘇る。
「どういうもこうもない。お前のスキル『鑑定』は戦闘の役に立たない。むしろ足手まといだ。これ以上パーティに置いておくわけにはいかない」
グレンの言葉は容赦なかった。会議室には他のパーティメンバーも座っている。剣士のダリウス、魔法使いのセリア、僧侶のマリア。三年間、共に冒険してきた仲間たち。
だが、誰も俺を庇おうとはしなかった。それどころか、皆が明らかに安堵の表情を浮かべている。まるで、厄介者が消えることを喜んでいるかのように。
「でも、俺は今まで敵の弱点を見抜いて......戦術の立案も手伝って......」
声が震える。三年間、必死で努力してきた。少しでも役に立とうと、夜遅くまでモンスター図鑑を読み、ダンジョンの構造を研究し、仲間のために情報を集めてきた。
「その程度なら俺たちの経験で十分だ」
ダリウスが腕を組んで鼻で笑った。
「それに、お前が鑑定している間に俺たちは戦ってるんだぞ?お前だけ安全な場所で情報見てるだけじゃねえか」
「戦闘に参加しないくせに、経験値は平等に分けろって言うのもおかしいわよね」
セリアが冷たく言い放つ。その言葉が、胸に突き刺さった。
「第一、戦利品の分け前も平等に要求してくるし。戦ってないくせに図々しいのよ」
「そんな......俺だって必死に......」
「リオン、分かって。これは決定事項なの。覆らないわ」
マリアが申し訳なさそうに、だが明確に告げた。彼女だけは、少しだけ罪悪感を感じているようだった。だが、それでも決意は変わらない。
俺のスキル『鑑定』は、対象の情報を見ることができる能力だ。モンスターの名前、レベル、弱点。武器の性能。ダンジョンの罠。確かに便利なスキルではある。
だが、それだけだ。
直接的な攻撃力はない。回復もできない。防御を高めることもできない。この世界では、戦闘能力こそが全てだ。そして俺は、その基準から大きく外れていた。
冒険者の価値は、どれだけ強い魔物を倒せるか、どれだけダメージを与えられるかで決まる。支援や情報収集は、二の次だ。
「明日までに荷物をまとめて出ていけ。給料は今月分まで払う。それで文句はないだろう」
グレンがそう言い放つと、書類に判を押して会議室を出ていった。他のメンバーも次々と席を立つ。誰一人として、俺に言葉をかける者はいなかった。
最後にマリアだけが、扉の前で振り返った。
「ごめんなさい、リオン。でも......これが現実なの。あなたには、冒険者は向いていないわ」
そして、俺は一人、会議室に取り残された。
薄暗くなった部屋で、俺は呆然と座り続けた。三年間、必死で頑張ってきたのに。少しでも役に立とうと努力してきたのに。結局は、必要とされなかった。
その日の夜、俺は安宿の一室で呆然としていた。
貯金はわずかしかない。パーティからの給料は月2万ゴールドだったが、生活費や装備の維持費で大半が消えていた。このままでは一ヶ月も持たないだろう。
新しいパーティを探すにしても、鑑定スキル持ちを欲しがるところなんてあるのだろうか。いや、ない。今まで何度も求人を見てきたが、鑑定士の募集など一度も見たことがなかった。
「最弱スキルか......」
ベッドに横たわり、天井を見つめる。天井の木目が、まるで俺を嘲笑っているようにも見えた。
この世界では、人は十五歳になるとスキルを授かる。それは神からの祝福とされ、人生を左右する重要な瞬間だ。
戦士系、魔法系、生産系。様々なスキルがあるが、その中でも『鑑定』は最も地味で、最も評価の低いスキルだった。
攻撃系スキルを持つ者は冒険者として高給を得られる。魔法系スキルを持つ者は宮廷魔術師として名声を得られる。生産系スキルを持つ者は職人として安定した収入を得られる。
だが、鑑定スキルは......何の役にも立たないと言われている。
スキルを授かった日のことを思い出す。十五歳の誕生日、神殿での儀式。多くの少年少女たちが、次々と強力なスキルを授かっていった。
そして、俺の番が来た。
「リオン・アシュトン、汝に授けられしスキルは――『鑑定』」
神官がそう告げた瞬間、周囲から落胆の声が漏れた。両親の表情も曇った。友人たちは同情の目を向けた。
それから三年間、俺はこの『最弱スキル』と共に生きてきた。
「でも、おかしいな......」
ふと疑問が浮かんだ。
鑑定スキルを持つ人間は少ない。十万人に一人とも言われている。希少なスキルのはずなのに、なぜこんなにも軽視されるのか。
そして、もう一つ。
「そういえば、俺は鑑定スキルについて、ちゃんと調べたことがなかった」
最弱スキルだと周囲から言われ続け、自分でもそう思い込んでいた。だが、本当にそうなのだろうか。
もしかしたら、誰も知らない可能性が隠されているのではないか。
俺は跳ね起きると、スキルステータスを開いた。
【名前】リオン・アシュトン
【年齢】18歳
【レベル】18
【職業】冒険者(元)
【スキル】鑑定 Lv.9
レベル9。三年間、毎日のように使い続けてきた結果だ。だが、レベルが上がっても特に変化は感じなかった。見える情報が少し増えた程度。ステータス画面に表示される数値が少し詳しくなった程度だ。
それだけだった。
「待てよ......レベル10になったら何か変わるのか?」
多くのスキルは、レベル10、20、30といった節目で何らかの変化が起こると聞いたことがある。新しい技を覚えたり、効果が大幅に上がったり、時には進化することもあるという。
だが、鑑定スキルについては、そういった話を聞いたことがない。そもそも、鑑定スキルをレベル10まで上げた人間がいないのかもしれない。
誰もが最弱だと思い込み、誰も本気で使おうとしない。だから、真価が知られないまま埋もれている――そんな可能性はないだろうか。
試しに、部屋の中にある剣を鑑定してみる。これは安宿に備え付けの、古びた剣だ。
【名前】鉄の剣
【種別】武器(剣)
【攻撃力】+15
【耐久度】48/50
いつもと同じ情報だ。特に変わったところはない。シンプルで、簡素で、何の面白みもない。
だが、よく見ると......
【経験値】918/1000
鑑定スキルの経験値が表示されている。あと82で、レベル10になる。こんなに近かったのか。
「よし、今夜中にレベル10にしてみよう」
もしかしたら、何か変わるかもしれない。そんな淡い期待を抱きながら、俺は部屋の中にあるもの全てを鑑定し始めた。
ベッド、椅子、テーブル、ランプ、窓、ドア、床、壁、天井、カーテン、水差し、洗面器。ありとあらゆるものに『鑑定』を使う。
一つ一つは微々たる経験値だが、数を重ねれば確実に上がっていく。まるでゲームのレベル上げのように、単調な作業を繰り返す。
だが、不思議と苦痛ではなかった。むしろ、久しぶりに希望を感じていた。
もしかしたら、これで何かが変わるかもしれない。もしかしたら、新しい道が開けるかもしれない。
そして、部屋の隅にあった古びた花瓶を鑑定した瞬間――
【スキル『鑑定』がレベル10に到達しました】
【スキル『鑑定』が『精密鑑定』に進化しました】
【新機能『詳細解析』が解放されました】
目の前に、これまで見たこともないメッセージが次々と表示された。青白い光が視界を満たし、頭の中に新しい情報が流れ込んでくる。
「進化......?スキルが進化するのか?」
心臓が激しく脈打つ。手が震える。これは、一体何が起きているのか。
慌てて、先ほどの剣を再び鑑定する。
すると――
今までとは比較にならないほど詳細な情報が、まるで洪水のように流れ込んできた。
【名前】鉄の剣
【種別】武器(剣)
【攻撃力】+15
【耐久度】48/50
【材質】鉄75%、炭素3%、不純物22%
【製造者】鍛冶師ゴードン・ブラックウェル
【製造日】3年2ヶ月14日前
【製造場所】王都第三鍛冶工房
【製造コスト】推定800ゴールド
【市場価格】1200ゴールド(新品時)、現在500ゴールド
【特性】なし
【弱点】柄の接合部に微細な亀裂あり。現在の使用ペースで継続した場合、約200回の使用で破損の可能性85%
【潜在能力】炭素含有量を5%に増加させることで攻撃力+3が見込める。さらに魔力伝導性の高い銀を0.5%添加することで、魔力付与が可能になる
【改善推奨度】中】
「なんだ......これ......」
驚愕した。今までの鑑定とは次元が違う。まるで、剣の歴史も構造も、製造者の癖まで、すべてを完全に理解できるような感覚だ。
そして、さらに気づく。視界の端に【詳細解析】という新しいコマンドが追加されている。これは一体何だろうか。
恐る恐る、それを使ってみると――
剣の三次元モデルが頭の中に鮮明に展開された。表面だけでなく、内部構造、分子レベルの組成、製造時の熱処理の跡、鍛造時の打ち込み回数、研磨の角度。
すべてが手に取るようにわかる。
まるで、自分が何百年もこの剣を研究してきた職人になったような感覚だ。剣の全てが、手に取るように理解できる。
「これ、やばくないか......?」
興奮で手が震える。呼吸が荒くなる。
もしかして、鑑定スキルは最弱なんかじゃない。ただ、誰もレベルを上げなかっただけなのでは――?
そう考えると、すべての辻褄が合う。評価が低いから誰も使わない。誰も使わないから進化しない。進化しないから真価が知られない。知られないから評価が低いまま。完璧な悪循環だ。
この悪循環を、俺が初めて断ち切ったのかもしれない。
「よし、もっと試してみよう」
俺は興奮を抑えきれず、宿を飛び出した。
夜の街は静かだが、まだ人通りはある。俺は街を歩きながら、目に入るもの全てを鑑定する。
建物、看板、街灯、石畳、通行人の武器、商店のショーウィンドウ。
すべてが新鮮な驚きをもたらしてくれる。世界が、まるで初めて見るもののように輝いて見えた。
武器屋、道具屋、薬屋。閉まっている店のショーウィンドウから、様々なアイテムを鑑定する。鎧、盾、魔法の杖、アクセサリー、ポーション。
一つ一つが、驚くほど詳細に分析される。
そして、薬屋のウィンドウに飾られていた『中級回復薬』を鑑定した時。
【名前】中級回復薬
【種別】消耗品(薬)
【効果】HP300回復(30秒かけて徐々に回復)
【材料】ヒールハーブ(3単位)、精霊水(5単位)、魔力結晶粉末(1単位)
【配合比率】3:5:1
【製造者】薬師マルタ・ローゼンバーグ
【製造日】2日前
【製造難易度】C
【製造時間】約20分
【市場価格】800~1000ゴールド
【原価】推定350ゴールド
【改善案】ヒールハーブを4単位、精霊水を6単位にすることで回復量が400に向上。さらに月光草のエキスを0.2単位加えることで、回復速度が2倍になる。コスト増加は約100ゴールド】
「レシピまで......完全に分かる......」
これは、とんでもない能力だ。薬のレシピが完全に理解できる。製造方法、改善案、コスト計算まで。
さらに驚いたのは、その下に表示されたメッセージだ。
【『詳細解析』の使用回数が一定値に到達しました】
【『詳細解析』がLv.3になりました】
【新機能『模倣』が解放されました】
「模倣......?」
新しいコマンドを開くと、先ほど鑑定した『中級回復薬』のレシピが完全に記録されている。材料の配合比率、製造手順、火加減の調整、攪拌の回数、注意点。
すべてが細かく記されている。
そして、材料さえあれば、自分でも作れるというのだ。薬師としての経験がなくても。訓練を受けていなくても。
「待て待て待て。ということは......」
脳裏に様々な可能性が浮かぶ。
武器を鑑定すれば、その製造方法が分かる。つまり、鍛冶師になれる。
薬を鑑定すれば、そのレシピが分かる。つまり、薬師になれる。
魔法道具を鑑定すれば、その仕組みが分かる。つまり、魔道具師になれる。
鑑定スキルは、あらゆる職業の知識を吸収できる、究極の学習スキルなのでは――?
「確かめないと......」
俺は走り出した。興奮で胸が高鳴る。
街の外れにあるギルドの公共ダンジョンへ向かう。ここは初心者用のダンジョンで、24時間開放されている。夜間でも、レベル上げをする冒険者がちらほらいる。
ダンジョンの入口で受付に名前を告げ、中に入る。受付の女性が不思議そうな顔をしたが、特に止められることはなかった。
薄暗い通路を進むと、すぐにゴブリンが現れた。緑色の小柄な魔物。初心者の練習相手としてよく知られている。
俺は『精密鑑定』を使う。
【名前】ゴブリン
【レベル】5
【HP】80/80
【MP】10/10
【筋力】8
【敏捷】6
【体力】7
【知力】3
【装備】木製棍棒(攻撃力+3)
【弱点】左脇腹(過去の戦闘で肋骨が1本折れており、治癒が不完全。この部位への攻撃は致命傷になりやすい)
【行動パターン予測】3秒後に右手の棍棒で水平に攻撃。攻撃後0.8秒の隙が発生。回避されると体勢を崩し、1.5秒間無防備になる。知能が低いため、同じパターンを繰り返す傾向が強い】
今までの鑑定では、せいぜい名前とレベル、簡単な弱点しか表示されなかった。「ゴブリン、レベル5、弱点は脇腹」程度の情報だ。
だが、今は違う。行動パターンまで完璧に予測できる。まるで、何度もこのゴブリンと戦ったことがあるかのように。
俺は腰の短剣を抜くと、ゴブリンの動きを待った。
3秒後――予測通り、ゴブリンが棍棒を横薙ぎに振ってくる。
俺は軽く後ろに下がって攻撃を回避。予測通り、ゴブリンが体勢を崩す。棍棒の重さに引っ張られ、前のめりになる。
その隙に、左脇腹――折れた肋骨の部分を短剣で突いた。
「ギャアアアッ!」
一撃で致命傷を与えられた。ゴブリンは苦しそうにうめき声を上げながら、煙のように消えていく。魔物が倒されると、この世界では霧散するのだ。
戦闘経験の少ない俺が、格上のゴブリンを一撃で倒した。今までは考えられなかったことだ。パーティにいた時でさえ、俺はゴブリン一体を単独で倒したことはなかった。
「スキルが進化しただけで、こんなに変わるのか......」
信じられない。世界が、全く違って見える。
さらに奥へ進むと、宝箱を見つけた。木製の、小さな宝箱だ。
俺は『精密鑑定』を使う。
【名前】木製の宝箱
【内容物】古びた指輪×1、銅貨×15枚、小さな魔石×2
【罠】なし
【鍵】開錠難易度D(簡易的な機械式錠。解除方法:左に2回、右に3回回す)
【設置日時】4日前
【設置者】ダンジョン管理者(ギルド職員)】
内容物まで完璧に分かる。罠の有無も、開け方も。
開けてみると、鑑定結果と完全に一致する内容物が入っている。銅貨15枚、小さな魔石が2つ、そして古びた指輪。
その指輪を鑑定すると――
【名前】力の指輪(劣化品)
【種別】装備(指輪)
【効果】筋力+2
【耐久度】12/30
【元の性能】筋力+5
【製造年代】約50年前
【劣化原因】内部の魔力回路が経年劣化により部分的に断線。魔力の流れが阻害されている。全体の60%の魔力回路が機能停止。
【修復可能性】95%(魔力結晶の粉末を使用した魔力回路の再構築により、元の性能+5への回復が可能。必要な魔力結晶:小サイズ1個。必要な技術レベル:中級。作業時間:約30分)
【修復方法】詳細な手順が脳内に展開される......】
「修復できる......?しかも、やり方まで完全に分かる......」
『詳細解析』で指輪の内部を見ると、確かに魔力回路の一部が断線している様子が視える。まるでX線写真を見ているかのように、内部構造が透けて見える。
金属の中を流れる魔力の道筋。その一部が、黒く変色して途切れている。
そして、その修復方法も完璧に理解できた。どこをどう繋げば良いのか。どのくらいの魔力を流せば良いのか。どの順番で作業すれば良いのか。
すべてが分かる。
「もしかして、俺は......」
胸の高鳴りが止まらない。
鑑定スキルは最弱なんかじゃない。
見る、知る、理解する、模倣する、修復する。
このスキルは、世界のあらゆるものの構造を完全に解き明かし、それを自在に操る力なのだ。
まだレベル10の段階でこれだけの能力。レベル20、30と上がれば、一体どこまで進化するのだろう。
想像するだけで、ワクワクする。
俺は宝箱から指輪と魔石を取り出すと、ダンジョンを後にした。
夜の街を歩きながら、俺は強く決意した。
「俺を追放したこと、絶対に後悔させてやる」
拳を握りしめる。
最弱と呼ばれたスキルで、この世界の頂点に立ってやる。
そして、俺を見下した全ての者たちに、思い知らせてやる。
『鑑定』は最弱なんかじゃない。使い方次第で、最強にもなれるスキルなのだと――。
翌朝、俺は早速行動を開始した。
まずは資金を稼がなければならない。そのためには、この進化した鑑定スキルを活用する必要がある。
街の掲示板を見ると、様々な依頼が張り出されている。魔物討伐、護衛、採集、配達。だが、その中で俺の目に留まったのは――
【武器の修理・鑑定依頼募集。報酬:案件による。問い合わせ先:武器商ガルドの店】
これだ。これなら、俺の新しい力を試せる。
俺は希望に満ちた表情で、武器商ガルドの店へと向かった。
新しい人生が、今、始まろうとしていた。
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