第2話
吹雪が一層勢いを強め、肌を刺すような寒さに変わりつつあった。
「まずいな、このままだと下山できない」
俺は辺りの雪を踏みながら、強度を確かめる。
白い吐息が顔を隠す。
雪より白い銀閃が走る。
上手く斬れた……よな?
積もっていた雪はブロック状に斬られていた。
ブロックを積み上げていくと、かまくらが出来た。
「ま、こんなもんだろ」
小走りに熊肉を切り分け、かまくらに入れる。
かまくらの真ん中に小さな穴を掘り、適当に拾った小枝を入れる。
「ファイア」
そう呟くと、小枝から小さな火が出始める。
俺は、熊肉を子供のように急ぎながら、火の中へ入れた。
――英雄に、なれるのかな?
脳裏に何度もよぎる。
英雄になる明確な基準は無い。
民衆からそう呼ばれるか、あるいは大陸の守護神からそう言われるか。
それぐらいしか、英雄に成ったという判断が出来ないほどに、英雄は気高く、誇り高くて――。
生きにくい。
肉の香ばしい香りが鼻腔を突く。
そろそろ焼けたか?
少し赤身が残る熊肉に喰らいつく。
熊肉は固く、血抜きをしっかりとしていなかったからか、生臭かった。
噛んで、飲み込み、噛む。
その行為を繰り返していくうちに、肉は消え、骨だけになっていた。
「何やってんだ、俺」
英雄に成りたくてここに居る、そんな曖昧な夢なせいで、こんな雪山にいる。
火の中で燃える小枝が段々と炭へと近づいていく。
人を助けたかった、褒められたかった。
そんな欲で、英雄を目指した奴は、英雄にはなれないんだろうな。
「こんな所で、吹雪を過ごしているのか?」
かまくらに入ってきたのは、俺と変わらないぐらいの金髪の青年だった。
「下山する前に、吹雪になってしまってな、そっちは?」
「似たような所だ。君は見た所、冒険者か?」
そいつは火の前に座り、火に手をかざす。
「あぁ、英雄を夢見た冒険者だ」
「英雄、か」
あぁ、また同じことを言われるのか。
「――君も英雄になれるといいな」
俺は火からそいつに目を移した。
「意外だな、そんなことを言うなんて」
「世間では、確かに英雄に成るなんて馬鹿らしい発想だ。だけど、僕は英雄を目指すのは悪いことじゃないと思うんだ」
「どうしてそう思うんだ?」
「英雄を目指して、英雄に成れなくても、それ以上の者になったり、道中でまた別の英雄になれるから。だから、英雄は思う存分目指して良いんだよ、君も」
俺は、熊肉のせいか、腹の中がぐちゃぐちゃになっていた。
「おや、もう吹雪は去ったようだよ、ありがとね、良い宿だったよ」
その時、俺は体の中まで火の温もりで温まった気がした。
自然と笑顔になる。
「名前、お前の名前は?」
「――名は無い。だた、人々はこう呼ぶ、英雄王と」
北大陸の守護神、その名前は――英雄王。
幾億の英雄と成り損ないを見届けた12神のうちの一柱。
「君も、誰かの英雄になれるといいな」
英雄とは、誰からか呼ばれるものであり、誰からも呼ばれる者の称号ではない。
最奥の英雄もどき 東井タカヒロ @touitakahiro
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