第4話「ちょっと電気!明かり消して♪」

小説:真夜中のホームセンターの後の「最終決戦」


真夜中のホームセンターで「ババア」と罵倒され、翌朝の朝食で夫に「吐きそう」と言われた屈辱は、私の中でマグマのように煮えたぎっていた。クリスマスの自撮りでは、夫を屈服させることはできたが、心の底からの勝利ではない。あの夜、失った尊厳を完全に回復するためには、さらに強烈な「反撃」が必要だった。


「くっそー、負けないから、見てな!」


私は自室に籠もり、夫が仕事に出かけた後、数日かけて計画を練った。そして、土曜の夜。決行の時が来た。


夫がリビングで酒を飲みながらテレビを見ているのを確認し、私はクローゼットの奥から、数年前に親族の結婚式のために購入したきり、一度も着ていなかった秘蔵のドレスを取り出した。


深く濃いネイビーブルーのイブニングドレス。胸元は繊細なレース刺繍が施され、スカート部分はチュールが何層にも重なり、動くたびにキラキラと光の粒子を放つ。


私は慎重にドレスを身に纏い、丁寧にヘアセットをした。メイクは、あのすっぴんの曖昧さを完全に消し去る、艶やかで力強い夜の顔だ。


そして、携帯と、自撮り用の照明――アルミホイルでレフ板のように囲まれたデスクライト――をセットした。


(目の前には、携帯を持ち、ドレス姿でピースサインをする私の姿が映っている。)


鏡の中の私は、あの日のホームセンターの幽霊ではない。輝きを取り戻した、一人の女だった。


「気合十分。すてみな反撃よ。どうよ!」


私は携帯を握りしめ、まるで舞台の袖から出る女優のように、大きく息を吸い込んだ。


リビングのドアノブを掴み、一気にドアを開け放つ。


「見て、あなた!……どうよ!!」


リビングの照明の下に、イブニングドレスに身を包んだ私が立っていた。


夫はソファに座り、ビールを片手にテレビを見ていたが、その瞬間に動きが止まった。彼の手から、缶ビールが滑り落ちる。


「お前っ…!!」


彼の目は、驚愕から、急速に熱を帯びた感情へと変わっていった。テレビの光と、室内の照明が、私のドレスのラメを反射し、全身を星屑のように輝かせている。


夫は立ち上がった。彼の表情は、昨夜の「吐きそう」と言った時の青ざめた顔ではない。真剣で、そして魅入られたような顔だった。


彼は一歩、また一歩と近づいてきた。


「…きれいだ」夫の声は、喉の奥で詰まったように、震えていた。「……本当に、きれいだ!!」


私は、勝鬨をあげたかった。これで、あの屈辱は完全に上書きされた。私の勝利だ。


夫は私の両肩に手をかけ、そのまま勢いよく抱きしめた。


「愛してる!なあ?いいだろ?今夜!なあ!」


夫の目には、明らかな情熱が宿っていた。彼の熱と強い抱擁に、私は一瞬、戸惑った。


「え?ちょ、ちょっと待って!え?え…」


私が求めていたのは、承認と賞賛だった。まさか、物理的な情熱の噴出だとは想定していなかった。


「やんっ…」


私の短い悲鳴がリビングに響く。夫は、あの真夜中のホームセンターで抑え込んだ彼の「威圧感」と「独占欲」を、その抱擁に込めていた。


ドレスアップという私の最高の反撃は、結局、夫の最大の愛情という形で、予期せぬ結末を迎えることになった。私は抵抗する間もなく、彼の熱い抱擁の中に引きずり込まれていった。





(…中略:夫が熱狂的に抱きしめ、「愛してる!なあ?いいだろ?今夜!なあ!」と迫るところまで)


夫の目には、明らかな情熱が宿っていた。彼の熱と強い抱擁に、私は一瞬、戸惑った。


「え?ちょ、ちょっと待って!え?え…」


私が求めていたのは、承認と賞賛だった。まさか、物理的な情熱の噴出だとは想定していなかった。


「やんっ…」


私の短い悲鳴がリビングに響く。夫は、あの真夜中のホームセンターで抑え込んだ彼の「威圧感」と「独占欲」を、その抱擁に込めていた。


ドレスアップという私の最高の反撃は、結局、夫の最大の愛情という形で、予期せぬ結末を迎えることになった。私は抵抗する間もなく、彼の熱い抱擁の中に引きずり込まれていった。


夫は私を抱きしめたまま、足でリビングの扉を押し閉めた。


そして、熱い息遣いで私の耳元に囁いた。


「ちょっと電気!明かり消して♪」


その声には、昨夜ホームセンターで私の自尊心を砕いた、あの憎い蛍光灯の光とは正反対の、甘く、切実な響きがあった。


私は、昨夜「ババア」と罵倒されたとき、そして今朝「吐きそう」と言われたとき、これほどまでに恥ずかしかったことはなかった。なぜなら、このイブニングドレスの下の肌こそが、まさにあの夜、すっぴんで人前に晒された、あのカサついた肌そのものだからだ。


しかし、この熱い抱擁の中では、肌の小じわも、目元の疲れも、あの屈辱的な「ババア」という響きさえも、すべて溶けて消えていくように感じた。


夫は、私のドレスのレースに頬を擦り寄せ、さらに強く抱きしめる。


その瞬間、私の頭の中に、あの真夜中のホームセンターの冷たい蛍光灯が、完全に打ち消されたのを感じた。


私は、抵抗をやめ、そっと夫の背中に腕を回した。


「……自分で消してよ」


私の答えは、承諾だった。暗闇の中でなら、私は何の武装もいらない。


夫は満面の笑みを浮かべ、私を抱きかかえ、リビングの壁際へ向かった。そして、カチリ、とスイッチが切れる音。


部屋は一瞬で、外の月明かりと、ドレスのラメだけが僅かに輝く、柔らかな暗闇に包まれた。この暗闇こそが、あの夜の屈辱から私を救い出す、真の「戦後処理」だったのかもしれない。

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