第2話「……わたし、かわいい」

小説:真夜中のホームセンターの後の「戦後処理」


真夜中のホームセンターでの激しい口論、そして「ババア」という言葉の屈辱から自宅に戻ったのは、午前2時を回る頃だった。


車の中での沈黙は、怒りと疲労、そして微かな後悔に満ちていた。夫は終始うつむきがちで、深く謝罪の言葉を繰り返した。


家に着くと、私は一言も発さず、リビングの電気もつけずに、自室へと直行した。


「シャワーを浴びてくる…」夫の声は、玄関で消えていった。


自室のドアを閉め、鍵をかけた。私はまず、壁の鏡の前に立ち、マスクを外した。


鏡に映る自分の顔。眉は薄く、目元には戦いの疲労が色濃く出ている。先ほど「ババア」と罵倒された顔。


私は、無性に何かがしたくなった。あの屈辱を上書きするための、緊急の「戦後処理」が必要だった。


リビングから聞こえる夫のシャワーの音を遮るように、私は部屋の隅に置いていた「自己肯定感回復キット」―――要するに、自撮り用の小道具とリングライト―――を取り出した。


ホームセンターでの出来事を、一瞬でも忘れさせてくれるのは、自分で作り上げた「理想の自分」のイメージしかない。


携帯のカメラを三脚にセットし、私は深紅のケーブルニットのカーディガンに袖を通した。これは、普段着ない、少し派手な色だ。


そして、クリスマスの小道具を引っ張り出した。シーズンはまだ先だが、どうでもいい。華やかな色と光が、あの冷たいホームセンターの蛍光灯の記憶を消し去ってくれるなら、何でもよかった。


カシャ。


最初の数枚は、どこか表情が硬い。まだ、あのヤンキーの顔と「ババア」という声が脳裏に焼き付いている。


私は、ミニサイズのサンタ帽をカチューシャのように頭に乗せてみた。


(上段左のイメージ:顎に手を当て、少し斜め上を見つめる)


真剣な表情を作る。目元にはしっかりアイラインを引き、唇には深みのあるリップを塗り直した。カメラ越しに見る自分は、あの「すっぴんの被害者」ではない。成熟した、少しミステリアスな女性だ。


「……わたし、かわいい」


小さく呟いてみた。誰も聞いていない。しかし、カメラの画面を通して見る自分は、確かに「あの夜の私」とは違っていた。


カシャカシャ。


次に、ニットのミニ帽子を指先に二つつける、ふざけたポーズを試す。


(上段右のイメージ:片目を瞑り、指先の帽子を見つめてウインク)


クスッと笑い声が漏れた。こんなポーズ、普段なら絶対にしない。でも、いい。今この瞬間の私は、誰にも屈しない、自由な私だ。


カシャ。


赤いストライプのキャンディケインと、クリスマスツリーの飾りがついた小さな箱を持つ。


(下段左のイメージ:少し真面目な顔で正面を向き、アイテムを胸元で構える)


熟年になっても、こんなポップなアイテムを躊躇なく持てる私。それは、あの夜の屈辱に耐え、まだ内側に少女のような抵抗力を保っている証拠だ。


そして、最後に、空のシャンパングラスを手にした。隣には、小さな編みぐるみのサンタとツリー。


(下段右のイメージ:グラスの脚をそっと持ち、カメラを意識しないように手元を見つめる)


グラスの中は空っぽ。だけど、その先に、無限の光と歓びがあるように見せる。


**「Merry Xmas」**のスタンプを写真に大きく重ねる。


画面の中の私は、自信に満ち、輝いている。


私は、一連の画像を眺め、何度も何度も、心の底からそう思った。


「……わたしかわいい」


(笑)、という記号は、皮肉でも自虐でもない。それは、あの屈辱的な夜を、私自身の手で、明るい、無意味で楽しい写真へと変えてやったという、ささやかな勝利の証だった。


翌朝、この写真を見た夫が、昨夜のことはもう水に流してくれたと、そう思ってくれることを願って。私は満足して携帯を置いた。

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