刺身
沼瀬葉太郎
刺身
僕刺身。周りのみんなは魚。みんな将来について話してる
「私は鯖だから〜味噌煮大学進学かなぁ〜」
「俺は𩸽だから干物に就職予定だ!」
僕は刺身だから、みんなみたいに将来を話せない。みんなは僕のこと
「いいなぁ!!刺身なんて頭が良くて鮮度も良くないとなれないのに!」っていう。なりたくてこんな形になったんじゃない…。そんなことを思っていた高3の夏。彼女と出会った
「私刺身嫌いなんだよね」
僕のいる世界は人間と魚がいて魚が意思を持って食べられることを望んでいる。僕は見ず知らずの彼女に初めて話した
「…刺身になりたくてなったんじゃない」
彼女はとても不思議そうな顔をして
「じゃあなんで刺身なんかになったのさ」
「親が言うんだ、刺身はエリートだからなりなさい、刺身以外の進路は認めないって。」
彼女は興味なさそうに
「ふーん」
って呟いた。人間にそんな感覚ないか…
「君が可哀想だから私は話すんだよ、私は本当は魚になりたい。」
彼女は僕の予想を大きく上回る回答をした。
「なんでさ、魚なんていいものじゃないよ。みんなは当たり前に食べられることを幸福だと思っている!?異常だ!!」
僕は当てつけのように彼女に叫んだ
彼女は光ると青く見える髪を撫でて話した
「私も君と同じ、親に将来を決められている。君ほど視覚的じゃないけどね。」
彼女は不敵に笑って続けた
「魚はいいよね、幸福に死ねるんだから。人間はダメだよ生にしがみついてさ、金と欲に溺れて魚みたいに綺麗に見えない。」
僕とは違う考えに僕は…心が動いた。
「僕は、魚は異常だとずっと思ってた…」
彼女は
「人間もそう変わらないよ。君の家みたいな思想を持った親もたくさんいる。」
僕は世界が変わったような気持ちで彼女を見た。まっすぐな目をしていてとても綺麗だと感じた。こんなのダメだ異種恋愛なんて。あぁダメだダメだ好きになってしまった。
「ま、また会えるかな」
「どうだろうね?君が願うなら連絡先。あげてもいいよ」
「ほ、ほしい!!」
「正直だね」
あぁここからのへかいは変わってしまった。
彼女と放課後に愚痴にも近いどうでもいい話をしてすごく楽しかった。
木の葉の色が赤く変わる頃
彼女は髪をとても短くしてきた。
「親に言われてね。」
彼女の髪は水面のようでとても綺麗だったのに。僕は思わず叫んだ
「なんでっ!なんで…抵抗しなかったんだ」
「あー、したよ抵抗。でも無理やり、ね?」
「僕みたいだ。」
「そうかもね、見た目でわかるようになっちゃった。」
彼女の目元は赤くなっていた。
「…もう帰らなきゃ。」
もっと話したい
「ね、ねぇ、」
「だめ。君は私を知りすぎたんだよ。これ以上だダメ。」
「…そっか。」
なんで僕はもっと追わなかった?彼女はまたここにきてくれるとでも思ったのか?彼女はまだ…考えも仕方ない。もう戻らないんだ。
彼女の死が彼女の友人から知らされた。彼女の携帯から送って来た。
「凪の友人です。
凪は亡くなりました。」
こんな短文で彼女の死を知るとは思わなかった。
彼女の葬式に出た彼女は望まない姿で棺桶に横たわっていた。望まない白い服、望まない短い髪の毛、望まない体の傷。違う。全部違う彼女ではない。
「体の傷…?」
疑問に思った死ぬ前の彼女にこんな傷はなかった。誰だ。誰だ。誰だ。
あいつだ。彼女によく似ているが老けた女を横に置いているあいつあの男。刺身になったが僕の嗅覚は魚の頃のままだ。彼女は魚を望んだ幸福な死を。人間はあいつのせいで成し遂げられなかった死を。今ここで成し遂げよう。
僕は無心で立ち上がり彼女の顔にキスをしてかぶりついた。鉄の匂いが鼻腔を占める。
「お、おい何をしている!?」
「お前が殺したくせに(笑)」
僕は父親を横目に彼女の綺麗な顔を食べた。幸福な死だ。
刺身 沼瀬葉太郎 @Numase
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