第6話 呪物コレクター④

先生と夕食を終え、ようやくほっと息をつける時間が来た。

パスタは先生の口に合ったらしく、黙々と、

でも確かに美味しそうに食べてくれていた。その様子に胸を撫で下ろす。


誰かと一緒に食べるご飯は、やっぱりいい。

しかも店じゃないから、肩肘を張らなくて済む。


片付けは先生が引き受けてくれた。

私はお湯を沸かし、コーヒーの準備をする。

時間も遅いし、コーヒーを飲んだら帰ろう。電車の時間もある。


「先生、カフェオレにしますか?」

「そうですね。ありがとうございます」


先生は微笑み、棚からクッキーを出して小皿に並べた。

私は二人分のカップをテーブルに置き、ふと先生の顔を見て口を開く。


「先生、疲れてますよね。顔に出てます」

「うーん……確かに。今日のお祓いは、少し手こずりましたから」


笑って言うのに、目の奥が薄く曇っている。

無理をしている人の顔だ、と直感で分かった。


「……手、貸しましょうか」


「え?」


自分でも驚くほど素直に言葉が出た。

慌てて、言い訳を足す。


「あ、その……この前言ってましたよね。私の手を握ると浄化されるって。

少しでも楽になるなら、と思って」


先生は一瞬、考え込むように視線を落とした。


(……待って。自分で言っておきながら、“手を握れ”は破壊力が高すぎる……!)


前言撤回しようと口を開きかけた、その瞬間――先生がふっと笑って頷いた。


「では、お願いします」


穏やかな笑顔のまま、先生はソファの隣を軽く叩いた。


「え?」

「横の方が、繋ぎやすいですから」


笑顔の圧がすごい。

これは座らない限り、無限にポンポンされるやつだ。


「……わかりました」


苦笑しながら隣に腰を下ろすと、先生は静かにこちらへ身を寄せ

――そのまま、肩に頭を預けてきた。


「……っ」


思わず息が止まる。

でも、触れた重みで分かる。本当に、限界が近い疲れだ。


「……少しでも楽になるといいですね」

「古川さんは僕のエナジードリンクですから」

「翼は授けないですけどね」


軽口を返すと、先生は小さく声を立てて笑った。

笑いながら、呼吸が少しずつ整っていくのが伝わってくる。


「……最近、困った依頼とか多いんですか?」


「困ったことばかりですね。心霊スポットに行って憑かれた、とか。

ネットの“おまじない”に手を出して、呪い返しに遭った、とか……」


“呪い返し”。

昼間、羽生さんから聞いた言葉が胸の中を冷たく撫でた。


「……大変ですね」


「ええ。軽い気持ちで踏み込んで、戻れなくなる人が増えています」


会話はぽつり、ぽつりと続き――やがて先生の声が途切れた。

横を見ると、静かな寝息が聞こえてくる。


「……寝ちゃった?」


心臓が跳ねる。

けれど同時に、ここまで気を許してくれたことが、少しだけ嬉しかった。


三十分だけ。

そう決めて、私は先生の寝息を聞きながら、そっと瞼を閉じた。

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