【エッセイ】田舎は死体遺棄におすすめしません!

イイチコタツシ

田舎は死体遺棄におすすめしません!

 うちの父は、はりきゅう整骨院をやっている。


 往診で、足の悪い人や車のない人の家を車で回ることも多く、

 山奥や山間部、いわゆる「過疎地」と呼ばれる村へ行くことも珍しくない。


 そんなある日、父が帰宅してこんな話をした。


「往診に行ったら、見通しの悪い山道のカーブに、車が一台止まっててさ。

 スピード出してなかったから良かったけれど、ぎょっとしたよ。

 山の中で薄暗いし、あんなところに止まってたら事故になりかねないだろ?

 エンジントラブルかと思ったけど、運転席にも周囲にもドライバーがいないんだ」


 村の人の車かと思い、往診先のおじいちゃんおばあちゃんに聞いてみたところ、こんな反応だったという。


「あの車、朝から昼過ぎまで、ずっと停まってるのよ」


「うちの村の人じゃないねぇ。村のみんなで『危ないね』『どうしたんだろうね』って話してたんだよ」


「お寺も近いし、お墓参りかもしれないけど……カーブに止めてたら危ないよね」


 そんな話から、


 おそらくは東京から来た人がお墓参りに来て、

 駐車場の場所が分からなくて、あそこに止めてしまったのだろう――


 という結論になり、その日は終わったそうだ。


 それから一か月後。

 あの奇妙な車の出来事が記憶から薄れつつあった頃、全国ニュースが流れた。


『――●●県●●市の山林にて、遺体が発見されました。

 遺体は山菜採りに訪れた地域住民によって発見され、

 遺棄されてから約一か月が経過しているものと――』


 えっ?


 思わず、父と顔を見合わせる。

 場所も時期も、ぴったりだった。


 じゃ、じゃあ、あの車って――

 まさか、死体遺棄のために止まっていたってこと!?


『××容疑者は警察の調べに対し犯行を認め、

「あんな山奥なら誰にも見つからないと思った」と供述している模様で――』


 ……え?


 もう一度、父と顔を見合わせた。


「……山奥? ねえ、今、山奥って言った?」


「あそこ、村の人が山菜取りに行く林道だし、近くにお寺もあるから墓参りの人も通るだろ。山奥じゃないよな……?」


「ていうか、あんなカーブに車止めてた時点で、『危ない車がある』って一日中、村中の噂だったんだよね?」


「そうだよ! あの日、お前の車のこと知らない村人、一人もいなかったからな!?」


 このニュースを見て衝撃を受けたのは、私と父だけではなかった。

 村の人たちも同じだった。別の意味で。


「……そっか。自分たちがふだん住んでる場所って、

 東京みたいな都会で育った人から見たら、

『ここなら、死体遺棄しても誰にも見つからないはず!』

って思われるくらいの山奥に見えるんだね……」


 なんだかみんな、ちょっとしょんぼりしていた。


 どうやら、

 都会育ちの人が思っている「山奥」や「田舎」と、

 田舎育ちの人間が思う「山奥」や「田舎」は、

 まったくの別物らしい。


 たとえるなら、

 北海道生まれの人が言う「今日は大雪だ」と、

 私が言う「今日は大雪だ」くらいの差があるのだろう。


 なので、もしこれを読んでいる方の中に、

 今から死体遺棄を考えている人がいたら、ひとつだけ言っておきたい。


 田舎は、そういう変化にめちゃくちゃ目ざといのでおすすめしません!


 地域差もあるかもしれませんが、田舎では、

 ご近所さんや同僚の車のナンバーや車種を把握しているのは当たり前で、

「昨日、仕事終わりにあそこのスーパーに車止めてたわよね!」

 などと言われるのも、珍しい話ではないので…!


 あと今回の一件で、

 警察の方々の捜査能力は本当にすごいなと感じたので、

 潔い自首をおすすめします。

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