第2話・悪役適性ゼロが真面目に考えた【悪役ムーブ】はから回ってしまう
四層・スライムが現れるフィールド。
大きさは八十センチほどのドロドロした液体で、ボール状で転がってくる魔物。
体当たり以外に体を鞭のようにしならせる中距離攻撃も持っている。
「だが、私には無意味だ」
スライムの触手攻撃に合わせて氷の盾を生成。
鞭の一撃を軽く防いだ後、盾の氷を砕いてからヤイバにして射出。
スライムの体を貫き、弱点のビー玉みたいなコアをバキリと破壊した。
「ふん。私にとっては造作もない」
ドロップ品を拾って布袋へ入れる。
これで十匹ほどのスライムを倒せたから、一旦休憩したいところ。
リュックのポケットに入った水筒を取り出し、中に入っているスポドリをゆっくり飲む。
「もう少し別のポーズやネタが欲しいな」
ライブ配信するなら、もっとカッコイイポーズや派手な演出をした方がいい。
頭の中でネタを考えていると、少し離れた場所でドカンと何かがぶつかり合う音が周りに響く。
「ほう、この静寂を破る者は誰だ?」
黒コートの襟首を直し、大きな音がした現場に向かう。
いやあの、なんでメイスと盾で物理耐性持ちのスライムと殴り合っているの?
魔法を使わずにフィジカルでスライムとやり合う、ガタイのいい女騎士。
これは邪魔できないな。
彼女の周りには撮影用のドローンが飛んでおり、おそらく配信中っぽい。
俺は木の影に隠れて、本物のダンジョン配信者・Dライバーの配信現場を観察する。
「なんでこいつは潰せないのよ!」
「スライムだからだろ!?」
どちらが有利か一目でわかるな……。
女騎士のメイス攻撃はスライムに当たっても弾かれるだけ。
逆にスライムの鞭攻撃は、彼女の盾や鎧に上手く当てて確実にダメージを与えている。
「いい加減、くたばりなさい!」
女騎士は金髪のポニーテールを揺らし、必死な形相でメイスをスライムへ叩きつけた。
俺はどうするか悩んでいると、草原の岩陰から別のスライムが女騎士へ勢いよく突撃。
不意打ちの体当たりを受けた女騎士は吹き飛び、コチラへ吹き飛んできた。
「がふっ!?」
こいつ、なんで逃げないんだ?
ゴロゴロと地面を転がりながらも女騎士は立ち上がり前を向く。
「アタシは負けない!!」
スライムは物理と気合いで勝てる相手じゃない。
頭の中では冷静に突っ込むが、芯の強さと無駄な動きに俺は怒りを感じてしまう。
だからかな、コイツに【悪役の美学】を見せたくなったのは……。
気づいた時には俺は木の影から出て、女騎士の前に無言で前に割り込んでいた。
「悪いがコイツらをもらうぞ」
「えっ、でも!」
「貴様の貧弱な攻撃は奴には通じない。ここは私が手本を見せてやる」
「は、はい!」
スライム達は余裕そうに近づいてくる。
頬を赤く腫らした女騎士は戸惑ったようにコチラを見てきた。
俺は気にせずに彼女の前に立ち、頑張ってポーカーフェイスを作る。
「待たせたな三下の雑魚ども。今からは私が相手をしてやる」
黒いロングコートをバサっと広げ、突進してくる一匹目のスライムへ右手向けて一言。
「凍れ」
単語ひとつでスライムは一瞬で凍り付き地面に落ちる。
ゴトリとした音に他のスライム達は警戒したのか、体の弾力を使い後ろへ飛んだ。
「す、すごい! アタシが苦戦して相手をこんな簡単に倒した!」
「倒した? 貴様の目は節穴か?」
「えっ!?」
今のままでは凍らせただけで倒しきれてない。
前に向けて広げた右手を握りしめて、凍らせたスライムに圧力をかけて爆散させる。
バリーンといい音が周りへ響き、砕けたスライムは氷の粒子になって散った。
「さあ、貴様らはどうする?」
「「「ぴいぃ!?」」」
「やはり向かってくるか」
残ったスライムは二匹。
相手は左右に分かれて体を鞭のようにしならせて攻撃してくる。
「その程度の攻撃が私に効くと思うか?」
氷の盾さんはやっぱり優秀だな。
半透明の氷の盾を瞬時に作り、スライムの鞭攻撃を軽く防ぐ。
「こんなに早い氷魔法の造形は初めて見た」
「私の実力を舐めてもらっては困る」
「は、はい、すみません!」
めっちゃいい決め台詞が言えた!
俺はドヤ顔でニヤリと女騎士へ笑った後、前を向き必死に氷の盾を破壊しようするスライムを睨みつける。
「貴様らの命はここで終わる。氷の牢獄」
「「ぴぎぃ!?」」
スライムの鞭から体まで一瞬で凍り付き、そのままパリンと体が少しずつ砕けていく。
「自慢の物理耐性も凍りついたら無駄になるのは悲しいな」
追加の決め台詞もいけた!
氷の盾を粉々に砕いてホワイトアウトを作り、体が凍りヒビが入ったスライムの横をゆっくり通り過ぎる。
「有象無象ども、これが貴様らに送るフィナーレだ」
最後に右手を点高く上げて指パッチン。
スライムの体が粉々に砕けて、氷の破片が空中に舞い、紫色の煙になって消えていく。
「これが私の悪役の流儀だ」
よしよし!最後も決まったよな!
表向きはポーカーフェイスでクールに行動しつつ、内心で喜ぶ。
自分が考えた【最恐の悪役】が、最高のタイミングでできた事で頬を緩める。
「あ、あの、ありがとうございます!」
「ふん、別に貴様を助けたわけじゃない」
「それでも助かりました!」
なんでコイツはスライムにボコボコにされていたのに、こんな元気なんだ?
俺は軽く息を吐いた後、地面に落ちたスライムのドロップ品を腰の布袋へ入れていく。
「……こいつはもらっていく」
「は、はい! あの、アナタは何者なんですか?」
何者ね。
こいつ、流れをよくわかっているじゃん。
一呼吸置いてから、俺はドヤ顔を作り彼女へ自信満々に発言する。
「私は通りすがりの悪役だ」
「えっ!?」
やっぱりコレだよな!
困惑する女騎士さんを尻目に、俺は何も言わずに離れていく。
「あ、あの人は一体? ってえぇ、なんか同接がメッチャ伸びて赤スパまできているんだけど!?」
なんか女騎士さんが叫んでいるが無視。
最高の【俺が考えた最高の悪役】が出来たので、満足しながら歩みを進めていくのだった。
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