理想の悪役ムーブをキメた氷魔法使い、なぜかリスナーから【愛すべき残念イケメン】としてバズってしまう!

影崎統夜

第1話・悪役に憧れた【悪役適性ゼロ】の男子高校生

 物心がついたばかりの保育園児の頃に見た、アニメの『最強の力を持って高笑いする』格のある悪役に俺は憧れた。

 その悪役の力、立ち振る舞い、格の強さになるため、俺は適正の氷魔法の修行やキャスターの立ち回りを必死で覚えた。


「やっとここまできた……」


 朝一の探索者ギルドの男子更衣室。

 銀髪のウィッグに黒のロングコート、左目には度が入ってないモノクル。

 中学時代に実家の家事代行でコツコツと貯めたお小遣いで購入した黒装束一式。

 

「やっと、夢が叶えられる」

 

 誰もいない更衣室で衣装に着替える。

 俺は壁に立てかけられている鏡に、自分の姿を映してニヤリと笑う。

 

「フハハ。今日、この時が、私の悪役人生の始まりだ!」


 テンションの上がった俺は、鏡の前で悪役っぽいキメポーズをとる。

 その時、更衣室のドアがガチャリと開き、私服姿の探索者が中へ入ってきた。


「……おはようございます」

「お、おはようございます」


 しまった、実家の教えで反射的に礼儀正しく挨拶してしまった。

 戸惑う大学生くらいの青年さんへ一礼した後、俺はどこか恥ずかしくなって荷物が入ったカバンと、撮影用の自立ドローンを持って男子更衣室からそそくさと出て行く。


 あの程度の予想外でロールが崩れるのはまずい……。

 真に憧れた悪役は【カッコつけたポーズ】を見られても動揺しない。

 悪役ロールの作り込みの甘さ、俺は自戒するように反省しながら探索者ギルドの廊下を早足で進むのだった。


 ⭐︎⭐︎


 日本国内に六万件以上あるダンジョンの一つ、ドロドロの迷宮。

 上層の1層、2層は雑魚のジェルが出てくるが、3層以降は高い物理耐性を持つスライムや上位種が現れるダンジョン。

 

 ダンジョンの階段を降りて1層の安全地帯に到着。


「今がチャンスだな」


 朝一で安全地帯には人が少ない。

 撮影ドローンの位置もいいし【テスト動画】の撮影を始めるか。

 安全地帯の壁を背に、自分のカッコつけた姿をカメラに映す。


「これから配信を始めるタロットゼロだ。貴様らは私の悪役としてのかくのたっ!?」


 し、舌をかんだぁ……。

 毎日五分かけて磨いている綺麗な歯が下に食い込み、口の中に血の味がする。


「も、もう一回、テイク2! これから配信を始めるタロットゼロだ。貴様らはわたしの悪役としての格の高さに震えるがいい! フハハハハ!」


 よし決まった!

 最後の高笑いでコートをバサリと広げて、胸元のドクロのネックレスを派手に見せる。

 これでつかみは抜群で、次は俺の実力の高さを見せるところだな。


「さてと、挨拶はこれくらいにして、次は私の実力を見せてやる! カメラはついてこい!」


 よしよし、自分の理想の悪役になってるな。

 撮影ドローンを引き連れ、安全地帯から出てフィールの草原エリアに出る。

 天井は太陽の光並みに明るくライトはいらない。

 

「ライトを持つ悪役はカッコ悪いよな」


 せめて光魔法で照らすがギリだが、俺は無属性と氷属性しか適性がない。

 何物ねだりしても仕方がないので、今は【悪役を演じる】ことに集中する。


「今日はドロドロの迷宮に来ているが、貴様らはスライムやジェルと聞いて何が浮かぶ? 私は物理耐性が高い面倒な害獣だ」


 地面を這いずり回るバスケットボールくらいのドロドロした魔物・ジェル。

 俺は距離を保ったまま、右手をジェルへ向ける。


「凍れ」


 魔法は想像が命。

 頭の中でジェルがカチカチに凍った想像をして『魔法ワード』をつぶやく。

 さっきまで跳ねたり、這いつくばっていたジェルは一瞬で凍りついた。


「これが我が力だ。まあ、雑魚相手にイキるのは違うのは私も理解している」


 開いた手を握り、ジェルに圧をかけて粉々に砕けさせる。

 周りにキラキラと粒子が飛び散り、紫色の魔素へ変化して地面にはドロップ品が残った。


「ふむ。悪くない」


 周りに飛び散る凍ったジェルの体を演出に使い、俺はドロップ品の魔石を拾い、布袋へ入れる。


「貴様らが焦らずとも、私の力はこんなものではない」


 まずはヒキと実力の一端を見せることが大事だよな。

 インパクトのある動画を作るため、俺は1層、2層にに存在するジェルを凍らしまくって、綺麗に砕く練習を続ける。


 最初は角度が悪かったが回数を繰り返すうちに、上手く演出できるようになってきた。


「よし、次は三層で試してみるか」


 下準備は着々と進んできた。

 満足な気持ちになりつつ、油断しないように気を引き締める。


 最恐の【格のある悪役】には程遠い。

 もっと悪役っぽい台詞回しや態度を練習しないとな……。

 2層の安全地帯でテスト撮影の反省点を手帳に書いた後、俺は明るい天井を見上げる。


「あの時に見た悪役になってやる」


 改めて気合いを入れてから、三層につながる階段を降りて行く。


 ただこの時の俺は想像してなかった。

 そう、悪役ロールプレイをする自分よりも明らかにキャラが濃いダンジョン配信者と出会うとは……。

 物理耐性が高いスライムに近接戦闘を挑む頭の悪い脳筋バカという、堅実な自分には思いつかない【異常者】にだ。

 

 

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