ログアウト不能?元VR廃人なので問題ありません。

一月三日 五郎

第1話 最高に楽しいVR生活

ここは Eternal Eden。

通称EE。

俺が第二の人生を過ごしている場所だ。


俺の名前?

人に名前を聞くなら、まず自分から名乗れ。


……ああ、やっぱいい。

どうせ覚える気もない。


「お前、ふざけてんのか?」

「状況わかってんのかよ!」


わかってるから、興味がない。


「社会不適合者か?」

「ゲームにしか居場所ねぇくせに」


はは。

それ、そっくりそのまま返してやりたい。


「その台詞、こんな時間にゲームやってるニートが言うの、ギャグか?」


空気が一瞬で凍る。


「……あ?」

「やんのか?」


やるらしい。


まあいい。

ちょうど肩慣らしが欲しかったところだ。


「いいぞ。新スキル、試したかったんだ」


俺は拳を握る。

魔法陣も、詠唱もない。


ただ一歩踏み込み――殴る。


「爆裂魔人ナックル」


実際は通常攻撃。

名前はアドリブだ。

こういうのはノリと勢いが大事なのだ。

どうせ誰にも理解されない。


拳が光り、

次の瞬間、目の前の景色が弾けた。


三人分の悲鳴が、まとめて空に吸い込まれる。

派手なエフェクトと一緒に、流れ星みたいに消えていった。


やがて、

きらり、と空で何かが光る。


「きったねぇ流れ星だな」


ぽつりと呟いて、

俺はもう興味を失っていた。


NPCの少女ルナが、

俺の服の裾をきゅっと掴む。


「おにい……今の人たち、大丈夫?」


「平気、平気」


即答する。


「お家に帰っただけだ」


「そ、そっか……」


嘘は言っていない。

いまごろホームでリスポーンしているはずだ。


納得したのかしていないのか、

ルナは苦笑いしながら曖昧にうなずいた。


それでいい。


現実の人間と違って、

素直で助かる。面倒な説明をせずに済む。

やりすぎるとさすがに好感度が下がるから、見極めが重要だな。


プレイヤーから嫌われる?

知ったことか。

ちょっと金が入ると群がってくる連中を相手にする気はない。

大事なのは、NPCと、俺の楽しい日常だけだ。


そういえば、さっきの連中。


「ログアウトできない」とか、

何か言っていた気がする。


……まあ、どうでもいい。


ログアウトできない?

戻れない?


しばらくすれば直るだろ。

下手にログアウトして、

メンテナンスでログインできないほうが困る。

入りなおすと体がなじむのに時間がかかるんだ。


そんなことより、

今日のデイリー周回の方がよほど重要だ。


時間は決まっている。

余計なことを考えている暇はない。


俺は何事もなかったように踵を返し、

ダンジョンの入口へ向かう。

最低、十周はしないとな。


俺の最高に楽しいVR生活は、

今日も変わらず、完璧なまま続く。

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