ぺちゃくちゃ
Gerbera
ぺちゃくちゃ
はい、もう過去のことです。
それでも、いつかこうして、この口で語る日を……私は待っていたように思います。
はい。貴方の言うように、安倍くんは確かにいじめられていました。
そのときの私含めたみんなの中では、ただのいじられキャラという感じでした。
ただ、傍目には間違いなく…………いじめられっ子だったんだと思います。
彼は、すこし特殊でした。
彼を直接的にいじる人たちこそ、確かに一部のクラスメイトでしたが、それでもみんながそのいじりを楽しんでいました。
つまり、彼はクラスのピエロとして、この上なく愛されていたんです。
クラスのみんなが、その日その日の彼のお茶目やドジや、ちょっと過激な“いじり”を共通の話題として楽しんでいましたし、それをキッカケに仲の良い一体感みたいなものを育んでいました。
彼がインフルエンザになってしまったときは、みんなが心配していましたし、彼のいない間のクラスはどことなく暗かったのを覚えています。
いつも彼をいじるメンバーなんて、彼がいない間に喧嘩を起こしていたくらいでした。そんなの、初めてのことでした。
やはり彼は、いじめられっ子でありながら、間違いなくクラスの中心だったんです。
けれど、そんな中で……行き過ぎたいたずらが増えてきたんです。
あれは、彼がインフルエンザから回復して、またクラスが明るくなった頃からでした。
最初は、彼の靴に画鋲が入っている程度のことでした。
次に、ゴミ箱にその靴が入るようになって、彼の机の中にゴミが入ったり、血のついたトイレットペーパーが入ったりし始めたんです。まあ、血のついたのは稀でしたし、あの出来事が起こる前には無くなってましたが。
きっと、その頃からああなることを予見していたんだと思います。だから、自分に繋がりそうなものを使わなくなったんだと思います。
そんなことが続いて、だんだん悪化していたときに————遂に、先生が動いたんです。
話はクラスだけじゃなくて、学年集会でも取り上げられました。
彼は正式に、学年のみんなにとって『いじめられっ子』になったんです。
それを契機に、彼は暗くなっていきました。
もういじり難い状況になってましたし、だからいじる人もいなくなりました。
誰も、いじれない彼に興味はなかったし、クラスに適度に笑える楽しい話題を提供するのが彼の役割で、だから大目に見ていたみんなも、彼のいじれもしないドジに冷たくなって来ました。
彼がああした決断をしてしまったのは、それから2ヶ月も経っていなかった頃です。
ニュースにまでなって、カメラを抱えた人たちが来たり、テレビ越しに自分の通う学校を見たり…………まあ、すこし新鮮な気持ちだったというのが正直なところでした。
で————加藤くんの話になります。
加藤くんは、安倍くんをいじっていたメンバーの中でも、一番身体が大きいリーダー的存在でした。つまり、外から見ると一番安倍くんをいじめていた人ってことになったんだと思います。
一度、少し強く安倍くんのドジにツッコミを入れて怪我をさせちゃったことがあったみたいで、先生にいじめっ子として怒られたことがあったんです。
そんなことを、誰かが喋っちゃったんです。
世間ではすっかり、加藤くんが犯人になっていました。
殺人者とされましたし、顔も名前も親も家も、どうしてかすぐにバレちゃったんです。
これは誰がしゃべったのかわかりませんけど、きっと特定は簡単だったんでしょうね。
私たちは、みんなそうじゃないって思ってました。
安倍くんが追い詰められたのは、加藤くんからの強いスキンシップや男が自分より下とみなした時にするちょっとした雑な暴力とか、そういうものじゃなかったんだから。
絶対に、あの陰湿な嫌がらせがキッカケになっていたんです。
けれど…………私もみんなも、誰も何も言えませんでした。
怖かったんだと思います。加藤くんの家にどんな嫌がらせがされているのかとかは聞いてましたし、お父さんもお母さんも、気の毒だとは言うけど関わるなとも言いましたし。
それに、言ってももう意味なんてなかったと思います。
世間は『加藤くんは安倍くんをいじめない』だなんて、もうとっくに許さなかったと思います。許さなくなるまで、本当にあっという間でした。真犯人なんて話題、出たこともないです。
で————加藤くんも安倍くんと同じになりました。
何にも説明されなかったけど、みんな知ってました。
今度は反対に、誰も何も言わなかったし、学校にも誰も何も訊きに来ませんでした。
安倍くんの名前は覚えていても、加藤くんの名前を忘れている人は多いと思います。
私は…………後悔、しました。今もしてます。
加藤くんのことが、私は好きでした。だから声をあげるべきでした。
加藤くんが世間で叩かれるのだって、最初は加藤くんが有名になったとドキドキしたくらいです。すぐにそんな次元じゃないんだってわかりましたけど。あの頃の私には、なんで世間があんなにも彼を攻撃できるのかがわかりませんでしたし。
結局私の作為と不作為が、彼を殺し、彼を死なせたんです。
ぺちゃくちゃ Gerbera @DarT
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます